第15章 手段2
「アルト?」
全力で遠ざかっていくアルトの背中を私は呆然と見送った。
朗報を持ってきたはずのアルトだけど、その表情が地の奥底に沈み切っていた。
なぜだか知らないが、私は追いかける足を止めた。
「頼むから、ついて来ないでくれ!!」とその背中が言っている気がした。
アルトはおかしかったが、今の私がどうこうできる話ではなさそうなので、私は今できることをすることにした。
先程アルトがくれた書類に目を落とす。
何かの本のコピーだろうか。掠れた黒いインクでそっけない文字が綴られている。
紙には人造人間の造り、死ぬ時と生き返らせる方法が書かれていた。
「やっぱり生き返るんだ」
私は小さな、しかし確かな希望の光を見出して、僅かに笑みを浮かべた。
「どれ……人造人間は胸部にある『心臓』を動力にして動き、頭部にある『脳』で思考・行動する。心臓に過激なショックが加わった場合、心臓は停止、その人造人間は仮死状態となる」
ユズハに胸を貫かれるカンナの姿が浮かんだ。
一瞬、何とも形容しがたい感情に襲われる。
頭を振って雑念を振り払うと、私は気持ちを切り替える。
でも、「仮死状態」ってなんだろう。カンナは死んでないのだろうか。
「仮死状態となった人造人間は自力で体を動かしたり見聞きすることができなくなるが、思考力だけは働き続ける」
つまり、考えられるけど動けないということか。
植物状態、ってやつだろうか。国語の授業でそんな内容の小説を読んだ気がするが、あまり覚えてない。国語なんてそんなものだ。
……また思考が逸れてしまった。深呼吸をして、目の前の紙に意識を集中する。
「心臓が停止した場合。再び動かすには、4体分の『アンドロイドタブレット』が必要となる」
アンドロイドタブレット。
私たち人造人間が一人一個持っている、手のひらサイズの薄い板状のタブレットだ。
今は亡き魔術師から、「いざというとき必要になるから、常備しておけ」と手渡されたものだ。
そういうことだったのか……。
「4つのアンドロイドタブレットを、仮死状態の人造人間の手に握らせ、3分程念じることで、人造人間は蘇生する」
握らせ、念じる。
そんな……そんな簡単なことでいいのだろうか。
正直、疑わしかった。
でも…それでも、やってみるしかない。いや、やらないといけない。
私は書類を丁寧に畳んでポケットに入れ、元来たほうへ歩き出した。
はやる気持ちを抑え、私はすぐに元いた場所、カンナが殺されたところに戻ってきた。
そして、私はピタリと足を止めた。
「え……?」
ガクンと脳に衝撃を受けた。
目の前に広がる光景を、食い入るように見つめる。
何度も瞬きして、現実を受け入れようとする。
でも、理解できない。
「どうして……?」
無意識のうちに、疑問が口に出る。
倒れているカンナとユズハ、そしてその隣に、
目を閉じたアルトが、胸を押さえて、倒れていた。