第14章 手段
……間に合ったか?
心臓が激しく高鳴り、呼吸が荒くなるのを押さえつけ、俺は異空間に足を踏み入れる。
俺は周囲を見渡し、カンナたちの姿を探す。
「どこだ、あいつら……」
言葉が終わる前に、俺は前のほうからすごい勢いで走ってくる人間に気付いた。
向こうも俺に気づいたらしく、急ブレーキをかけて俺を見る。
「アルト!?ここで何してるの!?」
「あ、アクア!?」
彼女はアクアだった。
相当長い距離を走ってきたのだろう、ブラウスは汗ばみ、息は乱れている。
「何があった?」
「え……えっと……」
アクアは激しくうろたえたあと、
「カンナが……カンナが殺された。ユズハに」
泣きそうな声でそう言った。
やっぱりそうだったか、と驚きはしなかったものの、俺は全身が粟立つような緊張を覚えた。
同時に、激しい後悔が俺の胸を支配していく。
俺があの時……ユズハに教えなかったら。
ユズハを止められたかもしれない。
ユズハも、殺しまではしなかったかもしれない。
俺が。
俺が、余計なことをしたから……
「アルト……?」
心配そうなアクアの声がした。
そうか…彼女は、何も知らないんだ。
顔を上げると、何も知らない哀れな少女が、心配の色を眼に浮かべて俺の顔をのぞき込んでいた。
俺は一度息を吐くと、さっきからずっと片手に握りしめていた書類の束を、アクアに押し付けた。
「これ、何?」
「人造人間を蘇生させる方法だ。俺が読んだ本の中で、見つけた」
「え……生き返るの?」
アクアはその瞳を輝かせ、嬉しそうに笑った。
ズキンと、俺の心に痺れるような痛みが走る。
酷い。酷すぎる。
そんなに俺を締め付けないでくれ。
俺のせいなんだ。貴方の大切な人が死んだのも、俺のせいなんだ。
「アルト、早く戻らないと」
「俺には、無理だ」
俺はアクアの言葉を遮った。
アクアに何も悪気がないことはわかっていたし、そもそもアクアは何にも悪くない。
わかってるんだ。わかっているから……それ以上、そんな嬉しそうな顔で、俺を見ないでくれ。
「え……?」
「アクア。資料をよく読んで……カンナを生き返れせてやれ」
「え……アルトは?」
首をかしげるアクアを見ていると、さらに胸が締め付けられていく。
いっそ、全部暴露したい。そうして、楽になりたい。
でも、そうすることは、アクアをもっと傷つける。これ以上俺のせいで誰かを傷つけるなど許さない。俺自身が。
「俺じゃダメなんだ。すべては、俺のせいだから」
「え……え!?アルト、何言って」
慌てるアクアに背を向けて、俺は走り出した。カンナがいる方向へ。
これ以上ここにいたくない。
俺は、最悪の人間だ。
逃げることしかできない、非道野郎だ。
現実から目を背けたくて、俺は走る。
「カンナ……!!」
涙がこぼれそうになるが、泣いていいのは俺じゃない。
これは、罰だ。
無計画な自分の行動によって、カンナもアクアも傷つけ、尚も逃げ続けようとする俺への、罰だ。
逃げるしかない。
卑怯な俺は、逃げるしかない。
そうだ、それならいっそ……、
この世界から、逃げ出そう。