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異世界転生したら、温かい家族に恵まれました。(物理的に)

作者: 柊屋葵

 前世の私は、家族に恵まれなかった。

 父は家庭に無関心で愛人を三人ばかり作ってそちらに寝泊まりし、家にはお給料を入れるだけで帰ってくる事はない。

 母はそのお給料で贅沢三昧放蕩三昧、場末のホストに入れあげて月にいくらのお金を注ぎ込んでいたのやら。

 姉は外面がよく分厚い猫を被っていて、優秀な学業と素敵な彼氏が自慢だった。

 よく言えばおとなしい、悪く言えば母と姉に萎縮していた私は二人にとって格好の獲物だった。

 母からは雀の涙の生活費で家事一切を押し付けられ、食事が貧相だの掃除が雑だのと罵倒され。

 姉からは彼氏に色目を使うなだの面構えが陰気臭いだのと罵られ、平手や蹴りが飛んでくる。

 10代半ばに入る前に、人生というものに楽しみを見出だせなくなっていた。

 死のう、と決心したのは17歳の時。

 母が入れあげてるホストと姉の彼氏の二人に、襲われそうになったから。

 命からがら逃げ出して昔から私を変な意味でなく気にかけてくれていた隣に住むご家族の引きこもり兄ちゃんに爆弾を託し、家を出奔。

 まあそんな時に、見ちゃったわけですよ。

 道路の端で遊ぶ幼女と、遠くの方から走ってくるトラック。

 そして、親御さんの姿は見えず。

 ……はい、ええ。

 助けて跳ねられてお陀仏、ですよ。

 気がついたら幽霊になっていて、目の前に大鎌持って黒ローブ羽織った骸骨面の死神がいました。

 なんでも私の死後数日、今から爆弾に着火する所だから成仏前に見てかない?と外見にそぐわないネアカなノリで誘われまして。

 もちろん、見に行きましたとも!

 お棺に取り縋って泣き叫ぶ姉と慰める彼氏、ハンカチを目元に当てながら弔問客の相手をする母。

 父は……トイレ行ってましたよ締まらねえな!

 そこにゆっくり入ってきた、隣家の兄ちゃん。

 小脇に抱えたでかいスピーカーは、すでに電源オン。

 喪主の前を通りすぎ、私の棺の上にスピーカーを置き。

 託した爆弾……私の肉声を録音したスマホを、再生開始。

 突如として始まった修羅場に、私と死神は指差して大笑い。

 泣いて取り縋っていたのはただのポーズ、慰める彼氏はただのゲス、年季の入った虐待を繰り返す母親に、全てを放棄して何も見ていなかった父親。

 この葬式は世間体を取り繕うだけの茶番で、いかに香典を浮かして自分たちが贅沢するかしか考えていない馬鹿三人衆が、白日の元に晒されたわけですから。

 いやいちおうね、馬鹿三人衆とゲス一人も音声再生を止めさせようとしたのよ。

 けどさ、こんな場面じゃ騒いでもおとなしくしていても疑惑が持ち上がるのは避けられない。

 ましてや、ガイキチのように奇声を発しながら兄ちゃんを追いかけ回せば……ね。

 兄ちゃん追いかけてスマホの再生止めるより先にスピーカーの電源切った方が確実なんだろうに、そこまで頭が回らないって……プププ。

 さんざん笑ってスッキリした私は、死神に頭を下げてお礼を言いました。

 本来なら見れないものを見せてもらって、ありがとう。

 もう、この世に未練はないと。

 そう言ったら死神さん、頬肉なんてないほっぺたを指先で掻きつつ。

「そんじゃあさ、異世界転生してみない?」

 なんて言われて、私は目が点。

「いやさ君、このまま成仏してもいずれはあいつらも黄泉に来るじゃん? 一緒にいたくないでしょ?」

 そう言われれば、そうです。

 あいつらも寿命がくる、いずれは黄泉にくる。

 ならば決して交わる事ない道へ分かたれるのは、なんて素敵な事なんでしょう!

 一も二もなく頷く私の頭を、死神はナデナデしてくれて。

「じゃあおじさんから、祝福をあげる。 望みを一つ、叶えてあげよう」

 転生特典を一つくださるという言葉に、願う事は一つでした。

「今までとは真逆の、温かい家族が欲しい」

 カラカラと、骸骨が笑います。

「オーケー。 それじゃあ、楽しんでおいで」



 そして私は、異世界転生しました。



 生まれついたのは火水風土光闇の6勢力がせめぎあって均衡を取り合う、ファンタジー世界でした。

 その中でも火の国の辺境伯令嬢という、なかなかの中堅どころ。

 金銭の心配はいらず前世並みの潤沢な教育が受けられNAISEIの必要も国内外の貴族王族に妙な目をつけられる事もなく、な絶妙の位置取り。

 家族構成は美形な両親に、二人のいいとこ取りな麗貌の兄様と姉様。

 美形一家の中で私の顔貌だけがミソッカス……なんて事もなく、腰まで届くプラチナの髪にサファイアの瞳の美少女ですよゲヘヘ。

 もちろん望み通り、家族からはたっぷり溺愛されて幼少期を満喫しましたとも。

 ……転機が訪れたのは、10歳の誕生日。

 火の国に生まれた子供はおしなべて、10歳の誕生日に適正診断を受けます。

 これはあくまでも指針で、文官向きと診断された人が諦め切れずに武官として生計を立てる、なんて事も珍しくありません。

 辺境伯家秘蔵の令嬢なんて言われてた私も10歳の誕生日に神殿へ赴き、適正診断を受けました。

 そこで判明したのが、私のギフト。

 各国が奉る神々が人々へ気まぐれに授けるのが、恩寵(ギフト)

 私のギフトは6柱の神々のいずれかがくださったものではなく……ううう。

 なんと『創世神の寵愛』、でした。

 そこで知ったのは、創世神様のお姿は様々ありますが一番多いのが、『漆黒のローブを纏い鎌を携えた骸骨』……おいいぃぃ!?

 いや確かに死神だと思ったけれど、自己紹介してなかったけれど、シチュエーション的に死神だと思い込んでいたけれど!

 そんなわけでして、私の身柄はあれよあれよという間に王宮に召し出され……なんて事にはなりませんでした。

 創世神様が国王陛下へ直々に、『あのお嬢ちゃんを利用しちゃイヤン☆』と神託をくださったそうで。

 私の身柄の安全は、王家と神殿によって保証されました。

 ちょっとした条件と、引き換えに。



「くるるぅあー」

「はいはいラーちゃん、おはよう」

 目の前にいるのは、溶岩の塊。

 ではなく、火の国が崇める神の眷属……国の繁栄の根幹となる地脈(レイライン)の管理を司るラーヴァドラゴンの幼生です。

 ギフト『創世神の寵愛』は、6柱の神々が授ける恩寵の上位に位置します。

 岩も金属も余裕で融かすラーヴァドラゴンの体熱だって屁のカッパ、てなもんですよ。

 私は今、12歳。

 現在の管理者であるラーヴァドラゴンの成体が地殻変動の鎮圧だかなんだかで忙しい間の幼生体の養育を任されたんです、私。

 その期間は、あと6年。

 あの日から既に2年が経過し、幼生体ことラーちゃんとは毎日顔を合わせ。

 まぁ、情も移るってもんです。

 ……創世神様、私は確かに『温かい家族が欲しい』とお願いしました。

 けれど、ここまで物理的に温かい家族はちょっと……と思わないでもないです。

 膝枕に頭をのっけてぐるぐる鳴いているラーちゃんの溶岩を撫でくり回しながら、私は密かにため息をつく。

「そなた、相変わらずだな」

 不意の声は、背後から聞こえました。

 こちらも2年前からの腐れ縁、火の国の第3王子です。

「これは殿下」

 王家の子息より上位に位置するラーちゃんが膝を占領しているので、私は軽く頭を下げて挨拶をする。

「ご機嫌うるわしゅうございます」

「何度見ても、信じられん光景だ」

 ラーちゃんを脅かさないよう小さく挨拶を返しながら、殿下は私から離れた場所に近寄ってきて足を止めました。

 ラーちゃんの本体は小さいんですが、溶岩を幾重にも纏っていますからね。

 とてつもなく暑いんですよ、この周辺。

 それにしても、マメな人ですこの殿下。

 養育を任された私がラーちゃんに妙な事を吹き込まないか、よほど心配なんでしょう。

 何かにつけて時間を作っては、私の監視に日参してきます。

 私の仕事は成体の代わりにラーちゃんへ親の愛情を注ぐ事であって、何かの教育を請け負っているわけではありません。

 まったく心配性です……綺麗な顔した金髪イケメンが、禿げてしまいますよ?



 で、ですね。



 心の中で呟いた愚痴を創世神様に聞かれ、各国の守護竜の幼生を預けられる事になるまであとン年。

 第3王子が日参するのは監視のためではなく私への個人的好意……い、いわゆるれ、恋愛感情、からである事を知らされてほだされるまでは。

 もう少し、かかります。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、報われる話がいいですよね。 大変ほっこりしました。
[良い点] 落ちがヒドイ!(笑) [一言] 殿下可哀想だよ!
[良い点]  あったかい作品。  異世界転生を選んだ理由に納得。  良い家族に 溺愛されて良かった。  『創世神の寵愛』、創世神様のお姿に笑わせていただきました。  ラーちゃん可愛いです。 [一言] …
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