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起〈2〉

「おい。」

見目麗しい青年が、壁に寄り掛かる少女に近づき声をかける。


 げ、ヒロインの取り巻きその1(王子の事ね)

「はい?何ですか?」

 あーあ。せっかくあのローストビーフのおかわりを取りに行こうと思ったのに。


「貴様、またリアを苛めたそうだな」

 青年は複数の生徒を連れて少女に詰め寄る。

「何の事かわかりかねます。」

 記憶力大丈夫かな?さっきからずっと君たちがヒロインにくっついてて、そんな隙なかったよね?


「おまえ!!」

「今日という今日は許さないよ?」

 丁度ダンスの切れ目だったのか会場の音楽は止んでおり、青年たちの声はよく通った。いつの間にか、会場中の視線がそこに集まっている。


ヤバイヤバイヤバイ!!かなり見られてる。視線が!痛い!


「みんな、待って。私の勘違いかもしれないから。」

 ヒロインキタ―!!いかにも何かありました、みたいな表情で他の人に支えられながらこっち来た。

しかもちょっと右足庇う感じで!!


「勘違いなものか!絶対こいつが踏んだに決まってる。」

「何の事ですか?」

「しらばっくれる気か!!お前がリアの足を踏んだんだろう!」

「言いがかりはやめてよ。いつ、私が彼女の足を踏んだの?」

 だからそんな隙なかったでしょ。

 やだなー、さっきから副隊長がガン見してるんですけど…


「踊ってるときとか、すれ違い様に踏んだんだろ!」

「そうだよ!そうに決まってる。」

「そういえば…」

「うわー、リアちゃん可哀想。」

「俺、リアちゃんが痛そうにしてるとこ見たぜ!絶対、あいつが踏んだんだって。」

「俺も見たかも。」

「私も。」

 

 はい、そこ嘘つかなーい!私が、足を踏んだところなんて見てないだろ。

つーか、お前らずっとヒロイン達しか見てなかったよね?

だいたい、何時踏むんだよ。私はずーっと壁の花してましたが?踊る人いませんでしたが?

ヒロインより先に会場入りして、壁と一体化してましたから。

もし本当に見たなら病院行け?それか眼科。この世界に眼科があるか知らんけど。


「いいかげん、物分かりの悪い奴だな。」

「早くやめたらいいのに。」

一人の少女に対して会場中から罵りの声が大きくなる。


「すいません。」

副隊長キター!イヤー!目がむっちゃギラギラしてるー!!

「何かありましたか?」

「先生!」

「リアちゃんもう大丈夫だよ!」

「うん。みんなありがとう。」

おい。さっきまで「勘違いかもー」とか言ってた癖に、なに【踏まれたことは事実です】みたいな雰囲気に持っていってんだよ。


 少女を取り囲んでいた数人が、先生と呼ばれた大人に事情を説明する。もちろんフローリアン・レイス子爵がメルニア・ロッシュに足を踏まれたという【事実】を…


「そうか。レイス子爵。」

「は、はい。」少女がキラキラした目をして顔を上げる。


 あー副隊長、顔は綺麗だからなー。でもそんなうれしそうな顔してて大丈夫なん…あ、大丈夫そうデスネ。皆さん、ヒロインの笑った顔カワイイって目をしてらっしゃる。ああ、ギフトって凄い。


「誰が自分の足を踏んだか見たのかな?」

「いえ、誰かまでは…」

「では、彼女が踏んだかどうかは分からない?」

「ええ、まぁ、そうなるかも…」

「で、でも先生。こいつがやったのは事実なんですよ?」ヒロインの傍に控えていた生徒が発言する。

ちょ、横槍入れてくんなよ。副隊長の機嫌がまた降下したじゃねーか。


「では、いつ?」

「え?」発言した生徒が逆に質問され、困惑する。

「おそらく、ダンスを踊っている時に踏まれた、と君は言いたいんだよね。」

「はい、そうです。」生徒が力強くうなずく。

「では、ダンスを踊っている時のいつ?それを見た人は?」

「え?えっと…」

 質問された生徒は、質問に答えられず何度か口を開き何か話そうとするが、とうとう質問に対する答えが見つからなかったのか黙ってしまった。


「君。」

「はい。」

「さっき、踏んだところを見たと言っていたね?」にっこり人の優しそうな笑顔を浮かべ、先ほど「踏んだところを見た。」と発言していた生徒に問いかける。

「どんなシーン、何処らへんで?何の曲の時だったのかな?」優しく問いかけるが、質問された生徒は目をさまよわす。えっと、あの…と何とか答えようとするも声が震えている。


「もしかして、覚えていない?それとも……、本当は見てもいないのかな?」

 とうとう先生の周りに集まっていた生徒は全員が口を閉ざし、どうしようといった顔でお互いの顔をうかがいだした。


「足を踏まれた本人も誰が踏んだのか分からない。他の人たちも見ていない。そもそも彼女が踏んだかも分からないのに、一人の女性に対して複数人が詰め寄るなんて、それが君達の礼儀なのかい?今までいったい何を習ってきたんだ。それとも、由緒正しきクロムフォード学園の最高学年にとって礼儀とはそういうものなのかな?」

うわー副隊長容赦ねぇー。もうちょい手加減したげればいいのに。


「とにかく、この問題はここで終わりにしよう。ほんとのところが分からないのに話しても意味が無い。それに、今日は君達にとって学園最後の夜会なのだから、楽しく終わりたいだろう?彼女は私が預かるから。いいね?ほら、次の曲が始まるよ。」

 いつの間にか、私たち以外の生徒はパーティーに戻っており、音楽は最後の伴奏を始めていた。集まっていた生徒達は、釈然としない顔でダンスに戻り始め、ヒロインも最後のイベントを逃したくないのか足早にホールの中央へ戻って行った。


「さて。あなたは私についてきなさい。」

顔が笑ってませんよ副隊長殿。


 こうして、私達の夜会…またの名を「最後にヒロインに良い夢見させてあげようの日」は幕を閉じたのである。


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