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アイリス姫の殺人生  作者: クラウン
5/8

アイリス誘拐事件・前編

トン、トン、トン。

ゆっくりとしたリズムで三度、ドアがノックされました。

もちろんアイリスが出ることは出来ません。

本来ならクライドが出るのですが…

ほんの数分前に、出掛けたばかりでした。

部屋に掛けてあった上着を着、そのフードで顔を隠したアイリス。

右手には、ナイフも持ちます。

「はい…」

意識的に声も変えて、少しだけドアを開きました。

その時です。

ドアの間に足を挟まれ、閉められなくされました。

そんな状況に冷や汗をかきながらも、用件を伺いました。

「本日はどのようなご用件で?」

心の動揺を隠し、努めて冷静に。

「ちょーっとオイタが過ぎましたね」

恐る恐る顔を上げると、立っていたのは卑下た笑みの男性でした。

「何のことです?」

後手に持ったナイフをギュッと握ります。

「無差別連続殺人」

この人は、自分を知っている───

「大人しく来てもらいましょう。ああ、僕達は警察じゃありませんよ。あと──────今握っているナイフを渡してください」

咄嗟にアイリスは、男性の首目掛けてナイフを突きます。

しかし、その手はあっさりと止められてしまいました。

そして。

「うああぁぁっ!」

手首を捻られ、激痛を感じます。

その拍子に、ナイフも離してしまいました。

「ぐっ!」

腹部に重い衝撃を感じ、アイリスの意識は暗闇へ。

「クラ…イド…───」

ふっと全身の力が抜け、崩れ落ちました。

「よし、運べ」

「はい、ボス」

真っ黒なスーツを着た男は、アイリスを抱え上げて車に乗せます。

そのまま、アイリスを乗せた車は廃工場へと走りました。


「アイリスーッ!」

クライドが幾ら呼んでも、答えはありません。

玄関には、鈍色に光るナイフが落ちていました。

それを手に取り、握りしめます。

「アイリス───待ってろよ、必ず行くからなッ」

クライドの瞳には、強い光が宿っていました。

ジリリリリッ

電話が鳴ります。

クライドは、それを乱暴に取りました。

「貴殿がクライドですか?」

「そーだよー」

いつも以上にのんびりとした口調。

その表情は、笑っていました。

寒気を感じる、恐ろしい笑みで。

「大切な人を、預からせて頂きました」

電話の向こうの人は、心底楽しそうな声で言います。

「アイリスを───アイリスを、何処へやったのかなぁー?」

バキッ

クライドが、ナイフを握力だけでへし折りました。

「ふふふ、怖いですねえ。そこの近くの廃工場ですよ。っと、これでは面白くありませんね」

『バキリ』

受話器の向こう。

聞き覚えのある音、骨の折れる音です。

「っ、ああぁあぁっ!」

決して聞き間違いのない、アイリスの悲鳴でした。

「アイリスっ!アイ───」

そこで、通話は途切れました。

「クソッ!」

内ポケットに武器を入れたコートを羽織り、乱暴にドアを閉めてクライドは走りました。

冷たい雨を全身に感じつつ、走って走って走って走って──────

「アイリスっ!」

肩で息をしながら廃工場につくと、両手両足を縛られたアイリスがいました。

「ふふ、待っていましたよ、クライド」

「アイリスを返せ」

いつもより低く、言い放ちました。

「返さない、と言ったら?」

アイリスの頬には、涙の跡が。

「奪う」

刹那。

クライドが短剣を放ちました。

男はそれを、二本の指で受け止めます。

それを、スッとアイリスの首筋に当てました。

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