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「あーれ?お嬢さん、誰?」
アイリス姫の背後からは、少し間の抜けた声が。
殺害現場を、見られた
その一文だけが、姫の頭を巡ります。
「うん、殺すしかないわ…」
そう呟いて、姫は微笑しました。
天使の笑み、と形容される程の彼女の微笑み。
それを、彼女は振り向いて、声の主に向けました。
「もしかしてさ、お嬢さんアイリス姫?」
ナイフでタイミングを計っていた姫は、動揺します。
「だよねー。だってその《紅瞳》、姫くらいでしょー?」
声の主は、ミルクティー色の髪の少年。姫の美貌を物ともせず、にんまりと口角を吊り上げています。
姫は、その少年の心臓にナイフを突き刺そうとしました。
ですが、少年はナイフを素手で止めます。
遂には奪い取られ、何処かに放られてしまいました。
「何すっ……」
「いけないなあ…こぉんな物騒なもの持って。……お仕置き、するよ?」
彼の顔が間近に来て、姫は若干頰を赤らめました。
よく見ていなかったのですが、彼は相当整った顔立ちでした。
「お仕置き……?」
微笑を辞め、彼女は問い返します。
「そ、お仕置き」
笑ったまま、彼は言いのけます。
「と、言いたいところだけど…アイリスちゃん時間大丈夫?」
ハッとして、姫は時計を見ました。
急いで帰らなければバレてしまいます。
姫は帰路を急ごうとしました。
「また、逢うことを祈って」
少年の声がしましたが、それを無視して姫は走りました。
・・・・・・・・
少年と出会った翌日のことです。
いつもの様にコッソリと城を抜け出そうとしていたところを、お庭で散歩されていた姫のお母様に見つかってしまいました。
「アイリス、何処に行くの?こんな時間にお城を抜け出してまで」
姫は、お母様が嫌いでした。
お父様がまだ御存命であった時から、お母様はアイリス姫を、アイリスとしてでは無く、一国の姫としてしか見なかったのです。
確かに姫は姫ですが、その前にアイリスという1人の少女なのです。
なのに、お母様は姫としてのアイリスしか見ませんでした。
「最近は物騒なのよ、アイリス。貴女が殺されでもされたら…この国の姫は誰になるんです?」
姫は黙って、お母様のお小言を聞きました。
「連続殺人鬼だっているんですからね。お母様はアイリスが心配で…」
「嘘ね、お母様」
それは、絶対零度の美声。
「アイリス…?」
「お母様がご心配なのは、アイリスという私個人では無く、この国の姫。代わりさえ居れば、いいんでしょう?」
お母様を睨みつけ、冷たく言い放ちます。
「アイリス、そんなこと言ってはいけません」
ふっと、微かに笑いを漏らす姫。
そんな姫を、怪訝に見守るお母様。
「否定しないんですのね……まあ、いいですわ。ご心配なさらずとも。
だって、私が…私が連続殺人鬼なのですから」
そう言った途端、アイリス姫は駆け出します。
そして真っ直ぐに、お母様の心臓を一突き。
「アイ、リス……」
お母様は静かに息を引き取りました。
お母様を殺した以上は、城にはもう居られないでしょう。
そんなことは気にせず、獲物を狩りに姫は進みました。
・・・・・・・・
「んー?あ、アイリス姫。また会ったね、運命?」
彼の殺害現場には、姫の大好きな紅い血。
「私は、姫じゃないわ」
静かに、しかし確かに、断言しました。
「お母様を殺したの。もう、城には戻れない。だから私は、姫じゃないわ」
行くあてなど無いというのに、アイリスはあっけらかんと言いました。
「行くあてないなら、僕の家にきてよ」
アイリスは、耳を疑いました。
それから、微笑みました。
「アイリスの花言葉の一つ、『私は賭けてみる』。賭けるのも、いいのかもしれないわね」
「決まり、着いてきて」
少年は、アイリスの手を引きます。
「僕、クライド。よろしく、アイリス」
そう自己紹介をされ、アイリスはクライドの手を握り返しました。
「私はアイリスよ。気高く咲き誇るアイリスの花」
夜を駆ける少年少女。
お互い名前しか知らないにも関わらず、二人の間には不思議な絆が。
説明不足なところもあるかもしれませんが、そう長い話にはならないつもりです。
どうか最後までお付き合い下さい。




