1. 姫ノ好キナ紅
この作品は、一国の姫を主人公としています。どうぞ、アイリス姫の殺人生をお楽しみ下さい。
赤い満月の夜、とある小さな国に、お姫様が産まれました。
肌は病的なまでに白く、髪は満月よりも美しい輝きを放つ白銀。
そして─────まるで血のように真っ赤に染まった、ルビーのような瞳。
十年もすればその美しい容姿は、国中の男性を虜にするであろうと噂される程でした。
アイリスと名付けられたその少女は、何不自由なく育っていきました。
アイリス姫が十四歳になったころには、その美貌は国中の男性を釘付けにしました。
穏やかで誰にでも優しさを忘れないその性格は、皆に好かれることとなりました。
彼女は、どんなに綺麗な色よりも、赤色が大好きでした。
ある日、庭で真紅の薔薇を眺めていたときでした。
アイリス姫はその香りを楽しもうと、薔薇の茎に手を伸ばしました。
チクリ。
姫は思わず、手を引っ込めます。
薔薇の棘が、指に刺さってしまったのです。
怪我をした指からは、赤い赤い血液が溢れ出します。
「なんて……なんて、すてきな紅…」
アイリス姫は、自らの血に見惚れました。
その色は、言うまでも無く紅。
その紅を、彼女は今まで見てきたどんな赤よりも美しいと感じました。
一瞬で、血の紅に惚れてしまいました。
それから彼女は、毎日のように自分の手を傷つけ、紅を見ました。
しかし、それに使用人や両親が気づかない訳もありません。
何故自分を傷付けるのか、皆に問われましたが、頑なに理由を口にはしませんでした。
ですが、それから彼女にペーパーナイフですら与えられませんでした。
アイリス姫は、耐えきれずに夜中、城を飛び出します。
こっそりと、ローブを羽織って。
そして空き家に逃げ込みました。
そこで偶然見つけたナイフを手にしました。
キィ、と扉の開く音がして、人が入ってきました。
びくり、と姫は身体を震わせます。
「ひ、姫!?」
このままでは、捕まってしまう。
そう考えたアイリス姫は、反射的にその人物を刺し殺していました。
ローブには、べっとりと血糊がつきました。
にも関わらず、彼女の口元は綻んでいました。
「ああ…紅。紅だわ……!なんて、すてき…」
暫くこの幸せの余韻に浸っていたいと考えましたが、ローブを脱ぎ捨て、大人しく城に戻ることにしました。
勿論、人を殺したことは秘密にして。
夜中に出て、空が明るみ始めたときに帰ったアイリス姫は、城の脱走を誰にも知られていませんでした。
平然と部屋から出て、食事をする。
そう、まるで。
何も無かったかの、ように。
今宵もまた、こっそりと抜け出します。
もちろん素性がバレては大変ですから、ローブを羽織って。
ですが、昨夜とは違い、そっと持ち出したナイフを手にしています。
そして、偶々通りかかった罪なき人々を滅多刺しにし、惨殺します。
その時の姫の顔には、恍惚が浮かんでいました。
大好きな紅色を浴び、幸せに溺れたアイリス姫は、又もや昨夜のように夜の空けぬうちに帰りました。
それを一週間程続けました。
新聞では正体不明の殺人鬼として取り上げられ、国民は皆、恐れおののきました。
当然、アイリス姫の耳にもその噂は届いていました。
と、言いますか、殆どのことは姫の耳に入ってくるのです。
何故なら、アイリス姫は次期国王。
毎朝使用人が教えてくれるのです。
殺人鬼のことは、毎日のように聞くこととなりました。
その時、決まって姫は、
「……そう」
と、窓の外を眺めて、短く応えるのでした。
使用人から見えないその顔には、全ての男性を虜にする微笑が浮かべられていました。
次第に夜歩きする人が居なくなって行き、姫は何十分も彷徨うようになりました。
遂には民家に押し入り、殺害するようになりました。
「あは、あははははっ!!ふふ、ふははははっ!嗚呼……なんて、美しい紅」
静まり返った部屋に、普段出すことのない姫の笑い声が響き渡ります。
第1話、楽しんで頂けましたか?
この話を書くのは楽しいので、出来るだけ早く次話を掲載します。
どうぞ、よろしくお願いします。




