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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
88/111

84、準備5

 取り敢えずはレックスさん達四人と屋敷の中を見てまわり、隊員達の配置場所を相談していった。

ここに三部隊を置き、王都で借りているお屋敷に一部隊の予定だ。


 レックスさん達の部隊、正式には王国軍の中の王都軍所属である、特殊危険対策部隊という名前なのに面倒なので対魔物部隊としか言わないらしい彼らは、基本的に全員騎士の位を持つ貴族の一員だ。

騎士の爵位は八爵。

継承権を持つが領地を持つ事が許されない、王国軍への参加を優先的に許可される権利の様な爵位と言える。


 優先的に王国軍に入る事が出来るのだが、勿論実力が無くては昇進出来ないし、貴族の一員である以上礼儀作法や教養等もしっかり身に付ける必要があるので楽な立場という訳では無い。


 まぁ、彼らの立場に関しては僕がどうこう言う資格は無いので置いておくが、今回重要なのは教養と作法に関してだ。


 宮廷魔道部隊の方達にメイド役をお願いする事になっているのだが、同様に執事や下働き、厨房の職員が全く居ないのは怪しまれる可能性がある。

そして、領主様のお屋敷で働いているので使用人でも相応の作法が要求される為、この役を部隊員で演じる必要があるのだ。


「お、んじゃ俺は下働きでいいや。楽そうだし」


と言うレックスさんは、速攻でミルファさんにいつも通り殴られていた。


 一日中対応出来る体制を作る必要があるので、行動の単位は小隊で行う事になった。

その上で三交代制を作り、三小隊で計十八人がアクティブに仕事をする。

実際には使用人が普通に活動している事を装う事がメインとなる。


 次に待機に三小隊。

こちらは武装しながら外から見えない位置で待機する。

お屋敷の各所に配置する《危険感知》の魔法具はその部屋で全ての反応を確認できるため、基本的には反応が出るまではのんびり出来る。


 最後の三小隊は完全に休憩だ。

もっとも、


「流石に八時間も寝られないぜ? なぁ、訓練も兼ねて睡眠時間以外は迷宮で狩りをしてもいいか? 素材を売ればみんなの助けにもなるし」


との意見もあったので、そこは好きにして貰って構わないと伝えた。

ただし、無理をして危険にならない程度でと条件は付けたが。


 当然こんな事をいったのはレックスさんなのだが、いつも突っ込みを入れるミルファさんすら喜んでいる雰囲気があったのは意外だった。

思ったより、金銭的に八爵と言う立場は大変なのかもしれない。

これは、今後もう少し何らかの形で収益を上げられる様にする必要があるかな?

僕からの施しという失礼な形では無く、自分達だけで何とか出来る状況作りが必須だろう。


 まぁ、この部隊の方々なら、普通に迷宮を開放するだけで幾らでも稼げる。

被害が出ない様に、迷宮へ入る為の最低人数さえ決めておけば問題は無いかな?

今回の件が終わる時に相談してみよう。




 ◇ ◇ ◇




 一通りお屋敷をまわり、姉さん達の居る工房へ戻った。

作り方を確立してあるメイド服は既に全員分行き渡っており、一番年長の方が指導する形でメイドらしい歩き方や物の持ち方を練習していた。


「ルーク、取り敢えずは全員分揃ったわ。一通り作る物が出来上がったら予備でもう一着作る予定だけど、まずは一段落したから執事用にとりかかれるわ」


との姉さんからの状況報告があったので、まずはこちらに詰めて貰う三部隊の方を残して僕は領主様が居る王都のお屋敷に移動する事にした。


 リリアーナさん達と隊長さん達は王都のお屋敷から来たのだが、他の隊員の方は移動迷宮への出入りだけでこちらに来てるので、マスター用扉で逆に王都へ向かう形になって居る。

まぁ、レックスさん達、対魔物部隊の面々は既に全員が迷宮の仕様は理解しているはずなので迷う事は無いだろう。


 後でローテーションするかもしれないのだが、取り敢えずはリストさんの部隊が領主様の居るお屋敷の警護に当たる為、領主様への顔合わせも含めて挨拶に向かった。

一通り挨拶と紹介した後に、


「今回は当家の面倒事に協力して頂き感謝いたします、リスト卿」


「いえ、ルーク君には我らも大変お世話になっておりますし、この状況を生み出したのは王国軍にも非があります。エルナリア卿がお気になさる事は有りませんよ」


と、爵位は六爵と八爵という違いはあるが、同じ貴族である為にややお堅い会話がしばらく続く一幕もあった。

もっとも、本来はどちらもそこまでお堅いタイプでは無いので、すぐに気安い感じの対応になっていた様だ。


 こちらでの対応は基本的に本来の使用人も居るので、単純に領主様の警護を普通にするだけである。

ただ、エルナリアの領主館を優先するらしいので、こちらに《危険感知》の魔法具を設置するのは少し後になると言っていたのでそれまでは少し頑張って頂く事になる。


 まぁ、姉さんとリーナのMPが尽きない事がやや不思議だが、結果として恐ろしいスピードで準備が進んでいる。

こちらへの設置もそう時間は掛からないであろう。


 顔合わせが終わり、リストさんと領主様付きの執事さんが配置について相談を始めたので、僕は役目を終えて再びエルナリアへと移動する事にした。




 ◇ ◇ ◇




 工房へ戻ると、姉さんとリーナがレックスさん用の服を調整していた。

本人が希望していた通りに下働き用の服を着ている。


「こんな……完全に作業着なのに、とんでもなく強力な《付与魔法》が掛かってると言うのは正直笑えてくるな」


との事。


 姉さんの《付与魔法》の実力はここの所色々作りまくった結果、師匠であるクレリアさんを抜き、王城でも数人しか居ない域まで到達しているらしい。


 その人数がもし全力で《付与魔法》を使用した所で、数千人の王城関係者、数万人の王国関係の兵に装備が行き渡る事は有り得ない。

何故なら、姉さんの異常なMPだからこの数を作れるのであって、僕程度のMPでは既に形が出来た物ですら一日で二~三個付与出来れば良い方だと思う。

又、素材にも問題が有り、魔法物質を多量に含んだ素材を必要とする為にそちら自体も集まらないだろう。


 そういう訳で、姉さんクラスの実力者が付与した品など、一部隊の隊長クラスでは支給されていないとの事。

それなのに、高級な素材と高レベルの《付与魔法》を惜しみなく使って作られる作業着と言う存在に……やはり釈然としない感じは拭えない様だ。


 因みに、こちらの服や執事服にも外布を張り付けるのだが、レックスさん達には鎧等の方が良いだろうと言う事で、余裕が出来たら別に作って支給する方向でいる様だ。

リリアーナさん達に支給する分との兼ね合いも考えると思うので、どの程度になるのかは分からないけどね。


 レックスさんの分はその後すぐに完成し、次は執事服の量産に入った様なので僕も動くとしよう。


「レックスさん、それとミルファさんも用意が終わっている様なので、魔導部隊の方と一緒にお屋敷の中をまわるのに付き合って貰って良いですか?」


下働き役なのにやけに堂々とした態度のレックスさんと、普段はカッコイイ感じさえあるミルファさんがメイド服で恥ずかしがっているのを敢えてスルーして誘った。


「おう! それにしてもルーク、ミルファのこの姿を完全スルーとは……お前は大物だな!」


と、言わなくても良い事を言ってしまったレックスさんには恐怖の鉄拳制裁が行われたが……自業自得なので放置の方向で。


 その後、リリアーナさん達とも配置やメイド役としての行動指針を相談し、大体の準備は整った。

後は姉さんとリーナの制作次第だ。

僕の役割は取り敢えずここまでかな。


 僕にはもう一つの件、王女様の事がある。

こちらに関しては、レックスさん達隊長クラスにしか知らされて居ない。

その関係で、僕は基本的に襲撃が無い限りは隔離された部屋に籠る予定だ。


 そのうちゲルボド達は来ることになって居るのだが、後は姉さん達に任せて僕は移動しておこう。

はたして王女様を殺さずに対処できるのだろうか……そんな事を考えながら、僕は廊下を移動した。

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