74、その後の十四日間(1)
王都へ戻り、姉さんと再会してから既に十四日間が過ぎていた。
あの後はそれ程忙しくは無い代わり、色々とやる事をある日々をおくっている。
その後の話として、まずは蟻の報告を頼んだゼットさんとリフィアさんに会いに行った。
この際には姉さんが同行を申し出て、ゲルボドを連行、それならばとミラもくっついて来たので結局パーティー全員で行く事になった。
何故姉さんが同行したのかと言うと、どうやら引っ越しをしたばかりで仕事を探して居るという点が重要だったらしい。
ゼットさんの居る場所はすぐに分かり、病状が安定しているらしい奥さんを含めた全員で出迎えてくれた。
感謝の言葉を盛大に受け、
「一度だけ魔物では無いのですが熊に遭遇してしまい、申し訳ありませんがその際に一つ使ってしまいました」
と言って、渡してあった魔法具を使用した後の物と一緒に渡された。
姉さんの目的に関係する事なので現状を聞いた所、事前に紹介して貰えそうだった仕事は残念ながら少し急いで決めないと都合が悪い状況になり、ゼットさんが来る前日に決まってしまったらしい。
その関係で、現在は日雇いの仕事をしながら弟さんの伝手も含めて色々と探して居るとの事。
この現状は姉さんにとっては都合がいいので話を伝える事になったのだが、
「御家族全員で移住出来る方を探しているのですが、お話だけでも聞いて貰えませんか?」
と言う姉さんの説明から始まった。
要約すると、現在姉さんが行っているエルナリア六爵領での仕事の為に人員を強化したいのだが、出来るだけ領外から探していきたいとの事。
理由としては、今後エルナリアの街も色々変化して行く事になる為、先行して外部からの知識や常識を取り入れておきたいらしいのだ。
因みに変化する理由は、姉さんが迷宮を設置した事がほぼ全ての原因だ。
今はまだ迷宮について公表はしていないそうだが、ライルさん達お抱えの冒険者が現在探索して実際の感じを確かめているらしい。
姉さんの熟練度の上昇により色々手が加えられているらしく、迷宮の入口が二つ作れるようになったので片方は冒険者に解放し、もう一方は領主様が現在建てている建物の中に設置する方向との事。
入口だけでは無く中も完全に分ける事が出来る為、マスタールームに繋がっているのは建物側だけとなる予定。
すなわち、関係者以外に見られる事無く安心してマスタールームが使用できる様だ。
さて、ここで話を戻すと、迷宮から産出される素材は安定した富を生む。
そうなれば当然エルナリアには冒険者が増え、人口の増加に伴う様々な進歩や変化が起こるはず。
それらを支える為の下準備の一環が、今回の勧誘に繋がっているという訳だ。
現在は姉さんの計画に二人程参加しているらしいのだが、領主様の依頼を受ける形として領内の村で工事を行う事が現在すでに決まっているらしい。
この作業では基本的に全てゴーレムを使用し、ゼットさんが雇用された場合はそのゴーレムに指示を与える役割との事。
ゴーレムは姉さんが結構な数を量産し、既に僕達の育った村では工事や農地の改良が行われている。
現在この仕事を担当しているロイさんと、普段は他の仕事をしているらしい手伝いのジムルさんが仕事をしている所は少しだけ見たのだが、相当な大工事を疲れを知らないゴーレムが凄い勢いで作業して居て驚いた。
姉さんが提示した金額は十分な物だったらしくゼットさんは納得してくれたのだが、
「問題としては……妻の病気が治らない事には折角王都にきた意味が無いのです……その資金を得る手段が今の所無い為、どの位時間がかかるか分からないのです。お話を聞く限り、そんなに待って頂ける話では無い様なので……申し訳ありませんが……」
との返事が。
しかし姉さんが問題無いわと言いながら、ゲルボドに指示して奥さんに《快癒》を使用した。
成程……ゲルボドを連れて来たのはこの為か。
奥さんの血色は一気に良くなり、痛みは全く無くなったそうだ。
そこに姉さんが粒状の薬を渡し、三十分毎に飲む様に指示していた。
薬の効果自体は栄養剤という事になって居るが、人体に必要な栄養素を凝縮した特製の物らしい。
ゲルボドの《快癒》だけでほぼ全ての病気は治るのだが、問題は異常だった部分が存在する周辺は消滅してしまう為、その部分の代わりを作るのに不足している栄養素は《快癒》の有効時間である約一日の間に吸収しなくてはならず、今回の様に長期間の闘病生活を送って居た場合には栄養素が足りなくて危険がある可能性も否定できない。
普通の食事で摂るには、病気の為に少食になっている奥さんでは量が厳しい為、現在作れる《錬金術》の技術の全てを注ぎ込んだと言う姉さん特製の栄養剤を用意した訳だ。
流石姉さん……やる事に躊躇が無くなって来ている。
最近は、もう何がバレてもどうでも良いと言わんばかりの行動が多い。
今更なので僕も既に気にしない事にしているが……。
翌日が定期的な病状維持の為に行う魔法治療の日らしく、今日の結果はそちらで確認して欲しい旨を伝えてお暇する事になった。
《快癒》の効果で既に治っているはずだがそれを説明しても根拠が薄いため、いつも見て貰っている治療魔法の専門家から伝えて貰った方が説得力があるだろうという流れだ。
二日後の午後に又お邪魔ををする約束をしてこの日は終了し、結論としては完治している事を知った家族全員から御礼の言葉を嵐の様に受け、エルナリアへの移住が決まって現在は既にそちらで生活を始めている。
◇ ◇ ◇
次にレックスさん達の件に関してだが、基本的にはすぐに片付いた。
隠れてこそこそしない方が良いとの方針がレックスさんとの間で決まり、樽が出来て幼虫の処理を再開する時に同行した部隊への寄付という形で全ておいてきた。
その際に、
「おいおい、良いのか? まぁ、部下達にも危険な思いをさせたし、有難く貰っておくわ」
「僕達は三人だけですので、十分な取り分をまだ保有していますので気にしないで下さい。皆さんと一緒に行動出来た事はいい経験でもありましたし。そして、折角こうしてお知り合いにもなれましたし、今後も強力な魔物が現れた際にお手伝いさせて頂けると嬉しいです」
「そいつはこっちから言いたい事だぜ! お前さん達の様なとんでもない実力を持ったパーティーが手を貸してくれるとなれば俺達も心強い!」
そう言いながら、寄付の件で立ち会ってくれているレックスさんの上司の方と地下施設の管理者の方に同意を求めた。
「あくまで上に許可を求める事になるが、君の方で協力を希望するのならばすんなり通るだろうな」
上司の方がそう言い、
「問題は、報酬に関してはあくまで一定の契約金と君達が自分で倒した分の精々五割、国が欲しい物に関しては強制買い取りと言う形になると思うが……それで良ければと言った所かな」
管理者の方がそう付け加えた。
正直に言えば、僕が欲しいのは経験だ。
まぁ、良い素材から作られる装備も当然必要にはなるだろうが、それは自分達だけの時に何とかすれば良い。
とにかくレベルの上昇が僕にとっての当面の目的なのだから。
因みに、このレックスさんとのやり取りは予め決めておいたものだ。
レックスさんが行った集計中に、本当にそんなに貰って良いのかと隊員から疑問の声が上がったらしく、僕に最終確認をして来た時にお願いしておいた。
「それは俺達にとってはむしろ大歓迎だぜ。なんせ、俺達だけでは手に余る女王クラス以上の魔物相手にお前達がいてくれたら心強い上、色々な面で利便性が高すぎるからな」
そう言って快諾してくれたので、大根役者二人による先程の会話が始まったと言う訳だ。
レックスさんとは今後の事を相談すると言う名目で定期的にお宅へ訪問する事を約束して王城を後にした。
その後は大体七日に一回の頻度で僕だけお宅に訪問している。
この際には暇な隊員の方も参加しての大宴会が行われる訳だが、この費用の確保にも僕の迷宮は一役買う事になっている。
集まって最初にやる事は迷宮内の魔獣の確保となり、僕が仕留めた魔獣の素材を皆でバラして肉は《アイテム》へ投入。
素材は次回までにレックスさん達が売り、お酒や肉以外で必要な物を購入しておくと言う流れだ。
独身者には大好評だし、妻帯者には素材を売ったお金で人数割りした分程度を色々支給しているとの事。
レックスさん曰く、元々僕達に対して悪い感情を持つ隊員さんはほぼ居なかった様なのだが、どうやら僕の態度や対応に不満がある人は皆無らしく、順調に部隊の方と交友を深めていくことになっている。
中には、一方的に僕からの供給の多さに気が引ける方も居る様だが、
「僕の目的は強い相手と戦える機会を増やす事にあるので、皆さんの協力が必要な訳です。そもそも、僕が自腹を切っている訳でも無いのでそんなに気にしないでください」
と言うと納得してくれた。
こうして僕が王都に居る時の恒例行事が一つ出来たのだった。




