73、姉さんと勇者様
エルナリアの街へ行く為に、僕達は迷宮のマスタールームを経由して移動している。
その最中に、先程聞こうかどうかを悩んで……敢えて聞かなかった事を確認してみた。
その内容とは、第一王子であるアレスクルト様が言っていた姉さんの知り合いについてだ。
正直な所、姉さんの知り合いなんて本当に限られている。
僕と共通の人物以外で知っているのは、正直な所一人しか居ない。
その人以外にも何らかの理由で知り合った可能性もあるが、《女神の祝福》の事を知られる様な間柄になると言うのは、余程の理由が無ければ有り得ないのではないか……と思える。
最初から何らかの情報を持って接触してきた可能性も否定はできないが、そうなると女神様からの神託があったとか位しか僕には思いつかない。
その質問に対しての姉さんの答えは……、
「駄目ねェ、ルーク。乙女(?)の秘密を探ろうとするなんて! 私にだってルークの知らない所であれやこれやゲフンゲフンな事情だって……」
「無いよね?」
先に潰しておいた。
このパターンは放っておくと有耶無耶にされる!
チッ!
と、ワザとらしく姉さんが舌打ちをしている。
ここはもう少し踏み込んでおこう。
「僕が知る限り、姉さんの知り合いと言うとレイクさんしか思い当たらないんだけど……?」
そう言うと、姉さんが僅かだが真面目な雰囲気に変わった気がする。
レイクさんは、エルナリアの街で姉さんが《錬金術》の修行をしている時に何度か見かけた事がある人だ。
結局、直接話した事はなかったけれど、姉さんと親しくしていた割には僕達の旅立ちには姿を見せなかった。
理由は聞いていないが……僕の予想が当たっているのならば、僕達より先に街を出て行ったからだろう。
「その様子だと、レイクが何者か予想はついてるの?」
その返事は、レイクさんが何者であるかを僕が理解出来る存在である事を示している。
僕の予想として、
「レイクさんが勇者様だと、僕は予想している……かな」
そう答えた。
姉さんは前世の記憶がある為か、あまり積極的に人とは関わらない様に見える。
知らない人とも社交的には付き合うが、内面はあまり見せないのだ。
しかし、レイクさんと姉さんが一緒に居るのを初めて見た時に感じた雰囲気は、もっと砕けた雰囲気だった。
最初は姉さんも生まれ変わって年頃になったのだからと、あまり深くは考え無かった。
しかし、初めて見た時には既に僕や家族にするのと変わらない砕けた話し方をしており、そこには多少の違和感はあった。
更に違和感を感じたのは、先程挙げた僕や姉さんが旅立つ時に姿を見せなかった事。
別れるのが辛くて姿を見せなかった事も考えられたが……当時の姉さんの態度を考えても違う気がする。
内面を見せる相手である僕やゲルボドが持っている姉さんとの共通点は、同じ能力を持つ者……そして同じ異世界人である事。
では、レイクさんがこういった共通点を持つ人物に当てはまるとしたら?
異世界人だとすると、ゲルボドは仲間にしているのにレイクさんは特に何の話も無くそのままだ。
レイクさんに都合がある事も考えられるが、もう一つの可能性の方がシックリと来る。
即ち……姉さんと同じ能力を持つ者……勇者様だ。
レイクさんが勇者様だとすると、一気に全てが解決していく。
姉さんの旅立ちに来なかった理由は?
既に王都へ向かって、エルナリアにはいなかったのだろう。
第一王子であるアレスクルト様と会い、自分の知り合いについて頼む事が出来るような人物は?
少し前にやってきたという勇者様……当然頼みの一つ位は出来るはずだ。
《女神の祝福》について知っているのは何故か?
勇者様やその仲間達が元々持つ能力である《女神の祝福》について知らない訳が無い。
更に、姉さんは《迷宮創造》と《迷宮の主》のスキルを共有する際に、《魂の回廊》を有効にする事を拒んでいる。
何かを渡したくは無い……という事は間違いないだろう。
しかし、悪戯で何かする場合以外に渡して困る様なスキルは思いつかない。
たった一つ、勇者様のスキル以外は……。
もしこの予想が合っているのならば、姉さんが隠しているのは勇者様の専用スキルではないだろうか?
こう考えると、全てに納得がいく。
そして、
「嘘を言ってまで隠すつもりも無いし、言った所で何の問題も無いしね。……レイクが勇者で正解よ」
と、姉さんがあっさりと答えてくれました。
レイクさんの名前で勇者様が分からなかったのか? という疑問には、無理と答えるしかない。
勇者様の名前は、代々【勇者オルグ】と呼ばれているからだ。
この名前は初代勇者様の名前らしく、勇者又はオルグと呼ばれる事が義務付けられている。
理由は、邪神や魔王に対して本当の名前を名乗るのは危険極まりない行為だからだ。
一般人ならば問題無いのだが、勇者様には女神様に繋がる見えない糸の様な物が存在すると言われている。
真の名とは、この糸で繋がる女神様へ干渉出来るパスワードの様な物になってしまうらしい。
女神様に干渉する事を許すと、良くて勇者側の負け、最悪女神様が邪神化すると言われている。
因みに、レイクさんの名前も本名では無い筈だ。
省略してあるか、真の名前が別に秘匿されているのだ。
それにしても、何故勇者様のスキルを習得してしまったのかを聞いた所、
「一番大きな理由は、私達のレベルの制限に関する事かな。一般に勇者の仲間は80レベルチョイ、勇者は100レベルチョイって所が限界と言われているわ」
姉さんはそこで一旦区切り、その事を知っている僕以外が理解しているかを視線で問う。
ミラが軽く頷いたのを確認すると、
「一般人の限界が60レベル台に対し、勇者の仲間が80レベル超えまで行くのは《女神の祝福》が関係してると言うのは間違い無いと思うの。これは過去に勇者の仲間以外の《女神の祝福》持ちが70レベルを超えた事例が多数ある事からも信じられる情報ね。そこで勇者の100レベル台に関してなんだけど、絶対に勇者以外に保持者が存在していないスキルである、《聖気吸収》がおそらくその答えだと考えているわ」
と言った。
《聖気吸収》は勇者様専用スキルで、世界に満ちている聖気を吸収して勇者様を強化するスキルらしい。
姉さんが《簒奪の聖眼》により獲得したスキルには《特殊魔法:勇者》と言う物等もあるらしいが、こちらは威力や範囲が異常であったり、属性が特殊であるだけとの事。
これらの事から、80レベル台を超える時点の突破に必要なのか、それ以上のレベルでは経験での成長は無くて《聖気吸収》分しか成長出来ないのかは正直分からない。しかし、おそらく《聖気吸収》が鍵になっているのは間違いないと考えている様だ。
「私達はおそらく80レベル台までは行けるはずだから、そこからの限界突破に短期間だけ《聖気吸収》が必要なだけなら超えてしまいたいと思う訳よ。それで、少しだけスキルを有効にして試してみるのも有りかなと考えて習得しておいたの。勿論レイクの許可付きでね」
だそうです。
因みに、《聖気吸収》は姉さんが勇者様の代役から破棄された理由のスキルであると予想している様だ。
聖気とは人々が平穏に過ごしている事で世界に満ちていく物で、約百年間で累積してきた物を魔王との戦いの為に使う。
逆に魔王が使用するのは邪気であり、絶望や悪意で満ちて行く。
基本的に勇者と魔王の戦いで勝った方が百年後の戦いを有利に出来るシステム……これがこの世界の理なのだ。
そこで勇者の数が増える事の問題点とは、世界にある有限な聖気を複数で消費する事になるからだ。
極端な例を上げると、95レベルの魔王相手に100レベルなら勝てるのに、90レベル二人では負けてしまう可能性が高いという事。
スキル構成の兼ね合いもある為に一概にレベルで語る事は出来ないが、明らかにレベルの高い相手に数でどうこう出来ないのがこの世界のルールだ。
もっとも、スキル構成も重要な要素なので無視は出来ないのだけどね。
そのいい例が、老魔術師の迷宮に居た魔物と僕達のレベル差だ。
酷い時には5レベル以上強い相手に平然と勝ち進んでいた。
これは相手が魔法をあまり使わず、攻撃が回避出来てしまう事で強い相手でも問題が無かった事に加え、こちらが全属性を使えるので弱点を突けた事も大きかった。
まぁ、思いっきり特殊な例なのは間違いないけどね。
◇ ◇ ◇
レイクさんの謎も解けたし、本人は隣の大陸へ向かってしまっているのでもう会う事も出来ないだろう。
これ以上気にしても仕方が無いし、そろそろお嬢様達が居るはずの応接間に着く。
姉さんの話だと、領主様は僕とお嬢様の関係に理解を示してくれているらしい。
勿論、実際に爵位を得るまで認められない関係ではあるが、周囲の人達がそれを応援してくれている状況と言うのは……とても有り難いものだ。
皆の期待を裏切らない様に……僕は一歩づつ、確実に前に進んで行こう。
僕達は部屋の前に着き、ノックをする。
中からはお嬢様の嬉しそうな声や、領主様とミルロード卿の笑い声も聞こえる。
ルルさんが扉を開けると、中では久しぶりにお会いする面々がこちらに笑顔を向けていた。
こうして、危険で予想外な事が続いた僕達の冒険はようやく落ち着く事になる。
もうしばらくは姉さんも冒険には行かないらしいし、僕も事後処理や迷宮の作成でウロウロする程の余裕は無いだろう。
折角なので、僕も少しの間休息を楽しむ事にしようと思う。
それでは……また。
今回で三章終了です。
都合により四章開始まで少しだけ開くとは思いますが、今後ともよろしくお願いします。




