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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
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47、魔獣人

 魔族獣であった時は、獣としての戦い方に魔法を加えた形での戦闘方法だった。

しかし、今は完全に人型となって居る。

戦闘方法も当然変わるだろう。

見た目では武器を持っては居ない。

爪や牙も無くなっている。

考えられるのは姉さんと同じ様に、身体能力を前面に出した格闘戦だろうか?


 いや、爪は無くなっているが、これに関しては一応警戒しておいた方が良いだろう。

先程から恐ろしい程の肉体変化を見せている。

爪ぐらいは一瞬で伸ばせる可能性は高い。

……そうなると、腕を伸ばす事は出来ないか?

出来るかもしれない……。

不味い。

何が出来てもおかしくないと感じ始めている……。


「ゲルボド! 敵は身体変化をしてくる可能性もある。用心してくれ!!」


何が来ても対応できる様にするしかない、と言うのが結論となりました。

下手な決めつけは危険だしね。


 魔獣人は挑発的に見下した眼でこちらを眺めている。

正直に言えば、どう攻めて良いかを考える時間があるのは有り難い。

ゲルボドは僕よりも、明らかに近接戦闘では強い。

回避を得意としているので攻撃力的にはそこまで高くは無いが、その継続戦闘力は凄い。

まずは前衛にゲルボドを置く事は確定だ。

問題は僕の立ち回りとなるのだが、そこが悩む所となっている。

敵が範囲魔法をどのような条件で使うかが判らない。

考えられるパターンとしては、


・攻撃されている最中は魔法が使えない

・一人から攻撃されていても魔族獣の時と同じ様に回避しながら使う

・二人から攻撃されていると魔法が使えない

・二人相手でも回避しながら使える


位がすぐに思いつく所かな。


 一番不味いのは、二人相手でも使えるパターンだ。

ゲルボドは超高確率で無効化するが、僕はまともに喰らってしまう。

……あれ?

これって、結局僕に魔法が使われなければゲルボドが大抵無効。

僕に来るなら、どこに居ても喰らうんじゃない?

ゲルボドに魔法が効かないのはすぐにバレるだろうし、下手をすると既にバレている。


 よし!

決めた!!

まずはゲルボドの単独前衛で様子を見る。

ゲルボドに魔法を使ってくれるならそのまま継続した状態のままで。

僕に狙いを変えてきたら、敵を挟む近接位置に即移動する。

魔法自体を使ってこない様なら、その時は状態次第で決める。

さて、行こうか!


 ゲルボドに戦闘開始の合図をすると、待ってましたと言わんばかりに一気に飛び出して間合いを詰めて行った。

魔獣人はそれを笑いながら見て居たが、後数歩で接触するという距離で後ろへ一歩跳び、両手の指全てから銀色に輝く鋭利な爪を出す。

その瞬間は一瞬だけ止まったように見えたが、すぐにゲルボドの側面へ向けて一気に跳ねた。

……不味いな。

あの速度で跳ねられ続けたら、僕が接敵してもゲルボドの邪魔になる可能性がある。

まずはこのままで行こう。


 ゲルボドはあまり動かずに相手をしっかり見据えて回避をメインに戦っている。

逆に魔獣人はその華奢な見た目に反して恐ろしくアクロバティックな動きだ。

猫科の獣人を更に魔法物質で強化しているからこその動きだろう。

その動きは変幻自在。

今の僕では間違いなく手玉に取られるだろう。


 ゲルボドと魔獣人の戦いは、双方がほぼ無傷で延々と続いている。

正直、僕はどうすべきか悩んでいた。

あの速度で動かれると、射撃系の魔法は当たらないだろう。

追跡系もあまり期待は出来ない。

そうなると、相手に直接効果を与える魔法をメインで戦う必要がある。

残念ながら、そういった魔法は僕が使える熟練度では殆ど無く、あるとしても光と闇系統なのだ……。

正直……悔しい。

僕は何故こんなに無力なのだろう?

……いや、こんな状況で腐っては駄目だ!

考えろ、考えるんだ打開策を!!


 一つ……今持っている物を使って確かめてみたい方法を思いついた。

問題は……完璧にそれを使える状況となると、僕が相手を掴める位の距離に近寄る必要があるかもしれない。

しかも、チャンスは一度だ。

一度見せたら、もう警戒されてしまうだろう。


 ここまでの行動を見る限り、魔法は使ってきていない。

姉さんの魔素《フルブースト》の様に発動させたら継続出来る訳では無いが、下手に攻撃魔法を使えない現状ではMPをそちらに使用した方が良いと考え、《ウィンドブースト》を使用して少しでも敏捷度を底上げしておく。

……正直に言えば、ゲルボド込みの範囲で攻撃魔法を撃ち込む事も考えた。

もしそれで、ゲルボドだけがダメージを受けた場合は状況が悪化する。

それは避けたいので攻撃魔法は諦めたのだ。


 僕は出来るだけゲルボドと魔獣人を挟む様に移動する。

近寄って改めて感じるのは、ゲルボドの動きはやはり凄い。

魔獣人が繰り出した右爪⇒左足による足払い⇒下に注意を向けさせた所で右上からの爪攻撃⇒左腹部へ下からの蹴り。

僕では捌き切れるか怪しい程の猛攻をゲルボドは普通に回避し、受け止め、受け流している。

しかし、やはり攻撃する程の余裕はないのか、余り攻撃は出来て居ない。


「フフフッ、防戦一方では勝てないぞ!!」


「シャ――――? 奥の手は使ってないからまだまだこれからシャ――――!!」


時々そんな会話も交わしている様だ。

魔獣人としては、焦りを誘いたい感じなのだろうか?


 ゲルボドの“奥の手”は嫌な予感しかしないので……出さないで貰う為に行動を開始する。

出来るだけ近寄りつつも、剣の切っ先が僅かに当たる程度の距離を維持しながら牽制する。

ゲルボドの邪魔をしない様にしながらアシストし、それでいて相手の動きを覚えていく為だ。

勿論もちろん《ダブルステップ》を即時使える様に意識もしておく。

最近になって実感して居る事だが、普通に行動をしながら意識の端で《ショートカット》を準備する事が出来る様になって来た。

姉さんが使用する上から八連続で全部押す様な真似はまだ無理だが、二個連続押しは出来る様になっている。

さて、そろそろ攻勢に出てみようかな。




 ◇ ◇ ◇




 この魔獣人、本気で強いです。

現状、魔法は使って来ていない。

どうやら戦闘しながらの詠唱は無理らしい。

そこで気が付いたのだが、消えた情報は《魂魄封印》だった。

口を動かさない詠唱を考えると、魔族獣に封印された魂があった、とも取れる。

即ち、移動と詠唱が別存在だった為に出来た事だとしたら……魔法は無い!


 僕達二人を相手にしても、こいつは余裕で戦っていた。

僕は既に数回の《ウィンドブースト》を使用して居る。

いつまでもこのままと言う訳には行かないので、どこかで仕掛ける必要がある。

そろそろ覚悟を決めるか……。


 そう思った瞬間、魔獣人の動きが一瞬だけ鈍った。

今までと違った感じに回避をしたと思った瞬間に、魔獣人の居た場所を矢が通り過ぎる。

視界から外れているので見えないが、どうやらミラが迷宮から少しだけ出て機会を狙っていた様だ。

その機会をのがすまいとばかりにゲルボドが一気に攻め立てる。

僕もこのチャンスに賭ける事にした。

ゲルボドの攻撃を避ける為に今までより大きく動いて回避している、魔獣人の動く方向を予測しながら剣に魔力を流す。

その剣を、牽制になる程度に振る。

当然の様に回避されるが……これは刃の部分が当たる必要は無い。

剣から逃げる方向を一瞬で確認して、魔力を放出した!

剣先から恐ろしい速度、ゲルボドや僕でも前兆を確認してようやく回避できた、あのソードドラゴンの断裂攻撃が回避行動を行った直後に追撃で放出されたのだ。

回避出来る訳が無かった!


 《危険感知》が働いては居たのだろう。

しかし、それでもなお完全回避は出来なかったらしく、右足の太腿を大きく切り裂いた。

進行方向に転がりながら何とか体勢を立て直そうとするが、それを見逃すゲルボドでは無い。

転がる進行方向に真っ向からぶつかる位置に剣を振りぬく。

慌てて方向を変えようとするが間に合わない事を悟り、両手の爪で何とか受けて、反動で僕の方へ少し戻った。

その体勢は……まだ崩れたままだ!

ここしかないと、僕は狙っていた手を使った。


 僕が使った手は、対蟹捕獲用の網を使う事だ。

普通に使っても絶対に回避される為、こういう機会を狙っていた。

現在、魔獣人は自由に動き回れる状態ではなくなって居る。

もっとも、まだ相手は諦めては居ない。

この機会を逃さずに……確実に止めを刺さして見せる!

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