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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
34/111

32、迷宮六層 前編

 六層も、若干突っ込みたくなって来る敵が居た。

この階層はどうやら海の生物らしい。


「これ、イルカっぽい魔物ね」


「これはクジラシャ―――――!」


うん……。

こいつ等は相当な強さの魔物だ。

……水の中に居れば……。

呼吸は出来るので死んでは居ないのだが、とにかくこちらへ攻撃する事が出来ないのだ。

本気で何を考えているのかと。

楽が出来ていいのだが、釈然としないのも確かだ。


一応その場では暴れまわるので遠距離からの魔法で仕留める事になるのだが、矢の回収すら面倒なのでほぼ姉さんとゲルボドの魔法で終わらせていた。

ちなみに、前階層であった石化の様に危険な状態異常用にゲルボドにはMP節約を頼んだのだが、衝撃の答えが返って来た。


「シャ――? 魔法毎の回数制だから、下級の攻撃魔法は使い切る位でも良いと思うシャ――――!」


覚えた魔法毎の回数なので、《快癒》は最大六回がゲルボドの使用回数との事。

それならもう少し普段も魔法で攻撃しても良いのではないかと聞いてみたら、


「エルみたいに詠唱無しでは撃てないから、接敵との兼ね合いで開幕即という事は無理シャ――――!」


だそうだ。

まぁ、確かにゲルボドの詠唱はそれ程短くは無い。

後ろに敵を抜けさせない為に結構考えて動いているし、確かにそこまで要求するのは無謀ではあるか。

僕はこれだけの連戦だとMPに無理があるし、このまま進むのが妥当かな。


 この階層の前半は、とにかく海の哺乳類ばかりだった。

しかし進んでいくと現れる傾向が変わって来た。

相手が簡単な部類としては海月くらげが居た。

ただ、簡単と言っても哺乳類系とは違って攻撃はしてくる。

魔法物質を使用しているらしいが、こいつはしっかりと空中に浮いているのだ。

その上で、色々な属性攻撃を行って来る。

ただし、簡単という理由でもあるのだが、移動が遅いのだ。

姉さんが《ウォーターシールド》で魔法を防いでいる間に魔法を撃ち込んで終了するので、一手間増えてはいるがこれまでと手順は同じと言える。


 そして次に厄介なのは貝系の魔物だった。

水流系の魔法を使い、硬い殻でこちらの攻撃を防ぐのでとにかく倒しにくいのだ。

それにしても……この段階でゲルボドに対してある疑問がいた。

ゲルボドが魔法を受けると、


特殊耐性:スペルセービング(異世界)…………習得不可能


と出るのだ。

スペルセービングがどの様な効果なのか聞いてみたが、


「一定確率で魔法を無効にするスキルシャ――――!」


だそうだ。

流石に異世界。

色々とんでもないスキルがあるな……。


 最後に普通に強敵なのが、蟹系の魔物だった。

こいつ等は強靭な甲殻に身を包み、恐ろしく鋭利なはさみを持っていた。

しかも、何故か風系魔法と《スキル:双刃そうじん》を使用する。

《双刃》は刃物系二刀流スキルを強化する物で、瞬間的な威力の底上げや専用技を使用出来る厄介なスキルの様だ。

この蟹の面倒な所は《ウィンドブースト》を駆使して縦横無尽に動き回る事にある。

範囲魔法を使われない為か、僕かゲルボドから離れない程度の距離を凄い勢いで移動しながら攻撃を繰り返す。

双刃そうじん》を駆使して行われる連続攻撃のお陰で防戦になる事が多く、姉さんの単体魔法すら僕らを盾にして撃たせない様にしたり、純粋に回避したりする。

本当に厄介な敵だ。


 MP消費が激しく、蟹戦で時間もかかる為、小部屋になって居る場所で再び睡眠を取る事にした。

姉さんに確認した所、魔素の流出は時々しか起きて居ないとの事。

予想の一つとして、相当な攻撃を加えたのに破壊出来なかった為に、効果切れを待っているのかもしれない。

又は、水不足か食糧の枯渇でも待っている可能性もある。

攻撃を諦めてくれた方がリスクは減るが、何を考えているかが分からないので逆に心配でもある。

例によって、そんな事が頭に浮かんで寝られない。


 中々寝つけないので強引にこの迷宮の事を考えた。

全部では無いのだが、迷宮に適さない魔物がたまにいる。

つい心の中で突っ込んでいたが、本当にそこまで問題のある敵だったのか?

ふと、そう思った。

サイクロプススケルトンは大量の魔法があったからこそ、ほとんど近接戦をしないから脅威では無かった。

クジラやイルカにしてもそうだ。

膨大なMPを持つ姉さんや、相当な魔法数と回数制と言う特殊な魔法のゲルボド、この二人の魔法が無ければこんなに簡単には行かなかっただろう。

通常の雑魚戦にしてもそうだ。

こんなに圧倒的な数の魔物が出る迷宮で、僕と同等の六人だったとしたら……まず時間内にお嬢様達を助け出す事など無理だろう。

結局、この現状で余裕すら感じている僕は、姉さんやゲルボドの強さに甘えているだけではないのか?

あの二人は正直な所、基準としてはおかしい人達だ。

だからと言って僕が弱くて許される訳では無い。

どんな敵だろうと甘く見る事は許されない。

もっと僕はどんな戦いにも真剣に向き合わなくては駄目なのではないか……。

その事に気が付いてしまった。

明日からは何が出てきても油断や慢心は捨てて、その時の自分が出来る最高の選択を行える様になりたい。

そう、切望した。

……そして、ここでいつもの時間の様だ。

MPが無くなって意識が一瞬にして遠くなる感覚がして、僕の記憶が途切れる。


「おやすみ、ルーク」


消えて行く意識のなかでその声だけは、聞こえた気がした。




 ◇ ◇ ◇




 いつもの様にすっきりと目が覚める。

MP0の昏倒は、MP全快まで起きる事が出来ない。

その分、夢も見る事が無い完全な睡眠となる。

寝起きは抜群に気分が良く、清々しいまでの清涼感に包まれている。

まぁ……だからと言ってお勧めはしないよ!

かなり強引にねじ伏せられた感が、半端なく心には刻まれるからね!!


 さて、今までは起きたらすぐに姉さんを起こす為に行動を起こしていた。

しかし、今はこの苦労が解消されている!

僕が向かうのは馬小屋だ。

静かに戸を開けるのだが、既に起きて居る馬達がこちらを向き、ゲルボドはそれだけで目を覚ます。


「おはようシャ――――!」


「おはよう。今日も姉さんを宜しく」


そう言って、早速姉さんの所へ行く。

ゲルボドは自分の袋から、何かの植物を粉にしたような粉末を少しだけ取り出してから呪文を詠唱する。


触媒魔法:錬金魔法(異世界)…………現在習得不可能


その表示が現れた途端に姉さんの目がハッキリと開く!

流石だ、ゲルボド。


 ゲルボドが使ったのは睡眠を回復する効果の、元居た世界で錬金魔法と呼ばれる魔法らしい。

触媒を使用して効果を発揮する系統なので、触媒の無駄遣いでは無いかと聞いたら、この世界にも同じ効果を得られる植物があるらしいので容赦なく使う事にした。

食事を摂り、姉さんに魔素の流れを確認する。

問題無く《アースシールド》に流れて居るとの事。

後は迷宮について気が付いた事を幾つか話し合った。

その一つに、思ったよりは階層移動による敵レベルの変化が無い事が上がった。


「30レベルチョイって所がこの迷宮の限界なのかもね。まぁ、それでも普通なら十分な脅威となるはずなんだけどね」


あくまで予想の一つとして考えるのは良いけど、甘く考えない方が良いと寝る前に反省したばかりだ。

とにかく僕にやれる最高の戦いを目指そう!

さて、行くぞ!!

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