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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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1、姉さんとの秘密

 女性はまどろみの中にいた。

彼女が死んだのは世界を襲った災厄に関係した事だった。

もっとも今となってはもう関係する事も出来ない。

今いるのは瞼を閉じた状態で光をあてられたような、何も見えないが光を感じる世界。

遠くから声ではない思念のようなものがかすかに届いてくる。


「ようやく本当の勇者の魂が降臨したのですね……」


「はい女神様。本日アルナス王国にて降臨が確認されました」


「本来の降臨予定より半年遅かったが、まだ間に合うはず……」


「現在育成中の擬似勇者の魂はいかがなされますか……?」


「本来の勇者が降臨した以上、擬似勇者は勇者の成長に悪影響を与えかねません。まだ勇者化の最終工程をしていない状況ですから、そのまま転生すればこれまでの処理は霧散するはずです」


「わかりました。では、処理を中断いたします」


「強い精神体を必要とするため、異世界から引き寄せてしまった彼女には申し訳ありませんが、このままこちらの世界で平和に生きられる事を祈りましょう」


女神と呼ばれた女とその部下らしき男の思念の響きはそこで終わる。

そして女性は暗く狭い世界へと移され、十ヶ月の後に誕生することになった。




 ◇ ◇ ◇




 僕は眠く重い目を開いた……。

どうやら寝ていたようだ。

隣には、生まれた時からずっと一緒に居る、お姉ちゃんも一緒に寝ていた。


 僕の名前はルーク。

クレスト村という小さな村に住んでいる。

家族は五人。

お婆ちゃんとお父さん、お母さん、そして今も隣で寝ているお姉ちゃん。 


 裕福ではないが、飢える事がない分だけこの村はいい方だと大人の人達は言っている。

魔物という、とてもおっかない奴等もこの辺りにはほとんど居ない。

平和で静かな村、それがこのクレスト村らしい。




 ◇ ◇ ◇




「お姉ちゃん、あそこにもあるよ!」


今、僕達はまばらに木が生えるだけの小さな丘に来ている。

あまり危険な場所も無い、子供だけでも許されている場所だ。

ここで、僕達でも探せる程度の食べ物や、役に立つ草等を集めながら家のお手伝いをするのが最近の日課となっている。


「お姉ちゃん! これも食べられるよね!」


僕なんかより色々と詳しいお姉ちゃんに確認しながら、今日もお手伝いをした。

いっぱい取って帰ると、お婆ちゃんが優しく褒めてくれる。

それがとてもとても嬉しいので、僕もお姉ちゃんも頑張って集めた。

今日もいっぱい取れたから、お婆ちゃんは絶対に褒めてくれる!

期待で胸を躍らせながら、僕達は帰り道を遊びながら帰った。




 ◇ ◇ ◇




 僕の眼に見える模様に違和感を覚えたのは、姉さんとの会話の中だった。

それは最初からあったのだと思う。

記憶に残る初めからある事は間違いなく、特に気にするような物でも無かった。

それは白く透けていて多少は邪魔と言えなくは無いが、死角が発生する程でも無い。

常に僕の向いている顔の向きと一緒に動き、視線の移動には特に変化を起こさない。

幼い僕にはそれが当たり前であったし特に疑問等ある訳は無く、言葉を覚えてからだってそれを当然だと思って気にはしなかった。




 ◇ ◇ ◇




 現在五歳の僕には、他の人には見えないあるものが見えるし、本来知らないはずの知識を持っている。

知識というのは記憶としてではなく、疑問に思った事が目に映る四角の中に文字として現れるという感じだ。

理由はよくわからないけど、お姉ちゃんは予想がついていると言っていた。

誰にも話さなかったら、六歳の誕生日に教えて貰えると約束している。

後、半年我慢したら教えて貰えることになっているからもう少しの我慢だ。

お姉ちゃんは頭が良くて、僕の知らない事を沢山知っているからずっと楽しみにしているんだ!


 ちなみに僕に見える物は触ることができず、向こうが透けて見える沢山の四角と文字や模様で、何故か僕にも読む事ができるこの国では使われていない言葉が書いてある。

お姉ちゃんは日本語って言っていたけど、やっぱりどこの言葉かはわからなかった。




 ◇ ◇ ◇




 今日は僕とお姉ちゃんの誕生日!!

あまり裕福ではないこの村で大きなお祝いとかはしないけど、いつもより少し豪華な食事が作って貰える特別な日!

そして、お姉ちゃんに色々教えて貰える約束の日!!

午後の畑仕事をしばらく手伝った後、夕食前の時間で色々教えてくれる事になっている。

ずっと待っていたこの時がようやく来たのだと、期待に胸を躍らせずにはいられなかった。




 ◇ ◇ ◇




 お姉ちゃんの名前はエル。

今、お姉ちゃんと一緒に人の居ない草原の中に一本だけ生えた大樹の下で話をしている。


「ルーク、約束だからあなたに見える物や知らないはずの知識について教えるけど、条件があるわ……私が許可した場合以外は絶対に人に話しては駄目。それが守れるなら教えてあげる」


「うん、わかった」


こうして僕は約束と一緒に秘密を手にいれた。




 ◇ ◇ ◇




 お姉ちゃんは、僕と一緒に生まれる前に一回死んだ事があるらしい。

過去の記憶が残っていた為、生まれてすぐから色々な事が理解できたそうだ。

本来は残らないはずの記憶が残ってしまったのは、色々と予定外の事があったみたい。


 死んだお姉ちゃんは女神様にこの世界に引き寄せられて、生まれて来る前に勇者様の力を貰えるはずだったけど……何故か駄目になっちゃったらしい。

本物の勇者様が生まれちゃったから、要らなくなったって話だった。

そこから僕が本来知らない筈の事を知っている理由になっていくらしい。

僕が知っている知らない筈の知識は、お姉ちゃんの記憶の一部だと言う話だ。

そして、僕だけが見える物をお姉ちゃんに話してから二年たつ間に色々と確認や可能性を考えてくれた結果、お姉ちゃんが死ぬ前にやった事のあるゲームという遊びと見た目が似ているらしい。


「私が学生だった頃に少しやっていた『紅の剣』ってゲーム画面とほぼ同じみたい」


と言っていた……正直よくわからない……。

結論としては、どうやら消えて無くなるはずだった未完成な勇者様の能力の一部が、双子だった僕に流れ込んでしまったようだという事だった。


 本来消えてしまう記憶と力がすぐ横に居た僕に流れ込み、与えられた勇者様の能力が不完全だった為に記憶の中から似たイメージを使って再構築された力、それが僕にしか見えないものの正体らしい。

僕の知らないはずの知識は、お姉ちゃんが異世界で持っていた知識や見た事がある物についてであり、文字として説明や解説を見る事が出来るものだ。

お姉ちゃん自身ではそんな物も見た事があったけどもう思い出せないと言う物まであったので、前世で見た事が有っても僕が調べないと思い出せない事もあるみたい。


 お姉ちゃんの予想としては、無くなったはずの記憶が残っているのは一度僕に吸収された過去の記憶が、お母さんを通して繋がっているお姉ちゃんの方に再吸収されたのではないかとのこと。


「まだ生まれる前に感じた事が多少記憶に残っているんだけど、そんな感じだった気がする」


そう言って、今日の話は締めくくられた。


 明日からこの勇者様の力の一部が、どんなものなのか試す事を約束して今日は家に帰る事にする。

せっかくここまで来たついでに、少しだけ食べられそうな物を採って帰った。

年に数回しか無いいつもより豪華な食事。

それは、いつにもまして美味しかった!!


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