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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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14、森のくまさん 再び

 僕は冒険者ギルドの職員のルヴェールさんと、ひとまずライルさん達が居る宿へ向かっていた。

事情を話して今日は別行動を取る事を説明する為だ。

その後にクリムゾンベアと遭遇した場所へ移動する事になる。

実際に素材を剥ぎ取ったのは街へ戻ってからだったのだが、《アイテム》の事を話せない以上、圧倒的重量のクリムゾンベアを一時間程かかる街中へ運ぶのは基本的に無理な為だ。

嘘をつく事には多少後ろめたい感情になる事があるが、


「人に話せない事情がある以上、仕方がないと割り切る! ただし、人を不幸にする嘘は駄目」


という姉さんの言葉に救われる。

だから僕は能力に関係した嘘以外は言わないように心掛けていた。


 宿の食堂に座っていたカルナさんとレラさんに、領主様絡みの事情は避けた内容で、ギルド職員の方を案内する事になった旨を伝えた。


「そういう訳で、申し訳無いのですが今日は別行動させて貰います」


どうせこの時期はあまりいい仕事が無い事が多いので、安全の為にみんなで行こうかという話も出たがルヴェールさんが断った。

六爵家関連の話を説明する訳にはいかないからだろう。

カルナさんがこちらをジッーと見ていたのでつい目を逸らしてしまった……。

僕の魔法やスキルに疑問と関心を持っている事もあって完全に疑いの眼差しだった……。

他に人が居る時は特に何も言わないで居てくれているのですごく感謝はしているが、その分あの眼差しは心に刺さる物があるのも事実だ。


「まぁ、近くの森だし昨日も行ってる場所なら大丈夫でしょうしね」


そう言って特にその後は何も言わずに許可して貰い、森へ移動する事になった。




 ◇ ◇ ◇




 ルヴェールさんも元は冒険者をやっていた二十六歳既婚だそうだ。

結婚を機にギルド職員として働くことになり、クエストに出る事は無くなったらしいがまだまだ僕の足を引っ張るような事は無いから安心してと言われている。

移動には馬かギルドの馬車を使用する事も考えられたが、森の中へ馬は入れないし馬車に乗せて貰った後に帰って貰う場合はどうしても目立ってしまうので秘密裏に動きたい現状では好ましくないとの事。

無難に徒歩で移動する事に決まり、動き始めた頃に姉さんから連絡が来た。


『結果としては特に何も無かったわ。内臓のうち錬金術で薬に調合できそうな部位は加工して、それ以外は全て崩れ落ちるまで放置して確認したけど何も無かったわ』


との事。




 ◇ ◇ ◇




 森へ移動する間は特に何もなかった

中へ入った後はゴブリンが僅かに出てきた程度で問題なく昨日の戦闘場所へ着いた。

クリムゾンベアとの戦闘中に盛大に爆砕された木々がそこら中にあるので間違いは無い。


「ここで戦闘があったのは間違い無さそうですね。解体した死体の残りは何処に放置しましたか?」


ほとんどの部位を持ち帰っている為に何も残ってはいないが、首をはねた場所だけは大量に血が流れていたのでそこへ案内する。

骨すら残っていない状況にガッカリするルヴェールさんに心の中で謝る僕に《危険感知》の警報が鳴った。

即、剣を抜き警戒した僕の様子にルヴェールさんも魔導士用の杖型発動具を構える。

反応は複数、おそらく二体で一体は正面に確認できた、小型のクリムゾンベアだ。

周囲を確認しても一体しか居ない事を確認して上方の確認をした瞬間に、木の上五m以上の高さからの飛び降り攻撃が行われる。

反射的にルヴェールさんにタックルするような体勢で腹部を肩に担ぎ、多少踏ん張れる体勢になった瞬間に《跳躍》スキルで強化されたジャンプでとにかくその場から離れる為に横っ飛びで移動する。

着地時にルヴェールさんを潰さないように空いている手を地面について、片手で《跳躍》スキルを発動して体勢を立て直す。

《跳躍》スキルは足だけではなく、手や首でも発動できる地味に便利なスキルだ。

ただし、普段使わない部位で発動すると翌日は相当な苦しみを味わうことになる、特にこんな片手でやった場合は明日どうなるか心配だ……。


 ルヴェールさんの前に出て剣を構えながら相手を確認する。

昨日倒したものより少し小さなクリムゾンベアが二匹だ。


「ルークさん、昨日倒したのは何人で倒しました?」


多少の焦りを感じさせる口調でルヴェールさんが問いかけてくる。


「ちょっとした裏技的な戦い方がありまして……一人です」


「それなら、一匹になれば勝てますか?」


「はい、おそらくやれると思います」


「では、私が手前の奴を足止めしますので奥のからお願いします!」


「わかりました!」


こうしてクリムゾンベア二匹なんていう相手と戦うはめになってしまったのであった。


 ルヴェールさんがとった戦法は本当に足止めだった。

《土魔法:アースバインド》という、地面に足を引きずり込み、草や木の枝を伸ばして捕縛する魔法だ。

火属性攻撃を得意とするクリムゾンベアは、魔力を通して燃え盛る魔爪で巻き付く草木を薙ぎ払う。

どんどん巻き付いて来る草木は見事に均衡がとれており、抜け出す事は魔法の効果時間中は無理だろう。

後は僕がいかに速くもう一匹を片付けるかにかかっている。

正直あまり見せたくは無いが命には代えられないので昨日と同じ戦法で行く事にした。

剣で牽制しながら《回避》をメインに動き、《ショートカット》によって連続で魔法を撃つ。

しかも、昨日の戦いで《スティールMP》の魔法が有効だった為、この魔法を二ヶ所のショートカットに入れてある。

《ショートカット》で発動した魔法は効果が無くなるまでの間、指定した番号の《ショートカット》の入力が不可能になる。

しかし、違う《ショートカット》の魔法を使用すれば先の魔法が発動中でも使えるのだ。

必要なのは発動に必要な情報を満たしているかどうかなのだが、単体攻撃魔法を同一対象に撃ち込みまくるだけなので問題は無い。

距離を取りながら敵の周りを移動しながら昨日以上に恐ろしい勢いでMPを削りまくる。

いや~、我ながら鬼の様な戦法だ。

こうして昨日の個体より幼いであろうクリムゾンベアはMPも少なかったらしく、半分位の時間で昏倒した。


 ルヴェールさんの方を見るとこちらに背を向けた格好で《アースバインド》による足止めを続けている。

足止めが失敗した場合に僕が挟み撃ちになる事を避ける為にこちらとの間に移動したのだろう。

その様子から、僕の戦い方を完全に把握するような余裕は無かった可能性が高いと見て、


「一匹倒しました、これからそちらに加勢しますが遠距離からの攻撃を行いますのでそのまま抑え込めるだけ抑えていてください!」


そう言ってルヴェールさんの後方から魔法を撃ちまくった。

普通なら見えない風魔法の《エアシールド》や《エアダガー》と同じで、魔法物質自体が見えないと大半の精神系魔法は見えない。

しかし、魔法使いであるルヴェールさんには魔法物質が見えている。

魔法物質が変化した黒い霧状の小さな塊が次々飛ぶ様を見たルヴェールさんには僕が使用しているのが闇魔法に属するものである事は即バレるだろう。

しかし、《ショートカット》の存在さえ知らなければ何か強力な魔道具と勘違いする可能性が高い。

そこに期待して僕は視界に入らずに一気にクリムゾンベアのMPを削り切った。


 

MP切れでの昏倒なので、まだまだ起きては来ないはずだが用心の為すぐに首を落としていった。


「……ルークさん、先ほどの魔法は闇魔法ですね……。詠唱が無かった事からも何らかの魔法具をお持ちのようですが、人には知られたくないと先ほどの行動からは判断できます。違いますか?」


「申し訳ありませんが秘密にしておきたい事なので、できるだけ他言無用でお願いしたいですね」


「わかりました。ギルド職員として冒険者の個人情報は基本的に外部に漏らさないルールですのでご安心ください」


流石に闇魔法を使用できる魔法具に興味はありそうだったが追及や公言はしないでくれるようだ。


 僕達は早速クリムゾンベアの解体を行い、食道から内蔵にかけて魔法具が無いか確認をはじめた頃に人影が近寄って来るのが見えた。


四人組の冒険者のようだ。

困った事に僕の《危険感知》が鳴って居る。

面倒事は勘弁してください……。


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