表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第五章
111/111

106、王都迷宮二十層(2)

 現在攻略している二十層は、何もかもが大きな階層だった。

先程戦っていた怪鳥も本来であればもっと小さな魔物であったはずなのだが、高さで倍になる位の大ボリュームとなって出現していた。

勿論それに合わせて横幅も奥行きも二倍になり、その巨大になった質量からは圧倒的な威圧感を感じる。


 そんな魔物が迷宮内を動けるのかと言えば、この階層ならば容易に可能であった。

何故なら、正方形の綺麗な石で整備された壁は普通の階層の五倍以上高くまで伸び、天井は遥か遠くに存在しているのだ。

横幅も迷宮の通路とは思えない程広く、大型の馬車が数台横に並んで通れる程であり、所々に幹の直径が五mはある木が天井近くまで窮屈そうに伸びている。

それらの木は若々しく、その木肌からは老いを感じさせない物がほとんどだ。


 その理由もすぐに想像がついた。

それらの木の根は石畳を浸食出来ず、単純に石の上に存在しているだけなのだ。

当然安定性は無く、魔物が暴れるとすぐに倒れてしまう。

倒れて折れた木の枝は生きる為に独自で根を再生し、再び若木となってそびえ立ち……そして倒れるまでを繰り返しているらしい。

再生している木々は大量に見かけるのに対し、木の実や種子を実らせた物が一切ない事からそう結論づけたのだが、おそらく間違ってはいないと思う。

完全にこの階層に合わせて変化した特異な生態系だと思うのだが、この階層までは木が生えている事自体が無かった為……違和感は結構な物がある。


 これらの木は草食の魔物が好んで食べるらしく、床に散らばっていたはずの残骸はある程度の期間ですっかり痕跡すら残さずに消費されている様だ。

そんな木を見て、


「へぇ、年輪が無い綺麗な木材ね。迷宮内に生えている為か水分が少ないっぽいから乾燥させるのも楽そうだし、強度的にも柔軟性が強いし硬さも悪くなさそうかな」


と言いながら、姉さんが時々気に入った大きさの物を風の魔法でぶった切ってお持ち帰りしているが、特に問題も無いので気にしないでおこう。


 何もかも大きなこの階層なのだが、二十一層は普通らしいので判明している範囲ではここだけが特殊らしい。

二十層という切の良い数なのが若干気になるが、僕達には大きいだけでレベル的には変化の無い魔物がいる変な階層という認識で問題無い為、そのまま気にせず進んで行く事になっている。

本来ならば大きさはリーチの違いや質量の違いで大きな影響が出るはずなのだが、こちらのメンバーに対してはそれらの利点を活用できずに憐れな屍を積み上げていく結果になっていた。

簡単に言えば、その程度の差はものともしない程に質で凌駕出来ているという事だ。


 現れる魔物の種類はとにかく節操がなく、先程の怪鳥や四足歩行の獣型もいるし、巨人の様に大きくなったオーガ等の亜人もいる。

今も前方からゆっくりと近寄ってくる巨大な姿があるのだが……体高三m程のスライムだった。


 《識別》の結果は以下の通り。


スライム族:グリーンスライム:男 LV38

特殊情報:《巨大化症》《金属腐食》《悪食》


これまで戦った魔物全てに《巨大化症》の特殊情報があった事からも、間違いなくこれが原因だろう。


 僕の装備にはほとんど金属が使われていないのだが、ゲルボドの装備は大半が金属(色々と魔法が付与されているらしいが異世界の技術なので詳細は不明)、リアナの剣や姉さん&リーナの攻撃用に特化した手甲、ミラの使う矢の鏃等は金属である為、こいつが出た場合には容赦のない魔法攻撃が浴びせられる事になる。


 まずは姉さんが《アースシールド》の上位魔法である《アースウォール》をグリーンスライムの目の前に配置し、その上に姉さんとリーナが《ショートカット》から次々と《アースシールド》を少し隙間を空けながら積み上げていく。

《アースシールド》の横幅の半分程度を空けてから隣へ並べ、隙間の中心の真上に《アースシールド》の中心を置く様に配置する事で崩れる事無く積み上げていく感じと言えばいいはずなのだが……実際にはそこまでしっかりと組み上げなくても、ある程度下との接地面が確保されていれば崩れずに大半が空中でも保持できるはずである。

即ち……姉さんの気分的な問題なのだろう。

仕事自体は完璧にこなしている以上、もっと適当で良いのでは? 等と余計な事を言うつもりは無い。


 そうやってわざわざ隙間を空ける理由は当然魔法を当てる為なのだが、スライム系なので当然押し出されるかのようにこちら側へ溢れてくる。

そこへミラが魔法を撃ちこみ、《爆炎剣》の習得と同時に得られた《火魔法》を未熟ながらも頑張ってリアナが使い、それで対処できなかった分を僕とゲルボドが凍らせていく。


 因みに、凍らせる理由は素材の確保のためだ。

姉さんが《金属腐食》の効果を有効に使えないか試したいと言ったため、熟練度上げ目的の二人以外は氷系の魔法を使用していた。

十分な数の《アースシールド》を張り終えると姉さんとリーナも凍らせる側へ回り、戦闘は程なく終わる事となる。

この方法で倒し始めてから三匹目になるが、余裕で倒せるのでこれからも重宝しそうだ。


 しかし、勿論この様な倒し方をしていてはMP的に厳しい物がある。

リアナは元々《炎の結晶》由来の技でMP消費する物があったらしいので並みよりは上のMPを持ち、ミラは回数制の魔法があるので更に数的には多く撃てるとはいえ……流石に一戦か二戦撃ち続ければ枯渇してしまう。

それを解消してしまう姉さんが異常である事は間違いないのだが、姉さんだからこそ何があってもそれ程驚かないというのも事実ではあった。


 さて、その異常とも言える解決法なのだが、姉さんが迷宮で見つけた特殊な魔物を素材にしているとの事。

おそらく階層のボスとして湧いたレアモンスターと思われる、ダークストーカーという魔物が素材として使われているとのだが、この魔物は《接触吸収》という能力を持っていたらしい。

種族特性らしいこの能力を普通ならどうこうは出来ないはずなのだが、魔石にする段階から特性の影響を大きく受ける様にしたり(普通は特性を消す事で魔石の性質を均一に近い状態に丸め込んでいるとの事)、《半実体化》という霧や霞の様な姿をしている事を利用して、魔法具の土台側にダークストーカーの一部を封印というか封入した状態で押し込んであるとの事。

それらの素材を姉さんやその師匠であるクレリアさん、更にはクレリアさんの兄弟子の方も一緒に実験を繰り返し、苦心の末とは言いつつも……この異端の魔法具を完成させていた。


 能力としては《接触吸収》の劣化版の様な感じと言えばいいのかな?

《接触吸収》は触れている対象のHPとMPを強奪する能力らしいのだが、ダークストーカーが使用すると姉さんの闇耐性すら超えてくる程の威力らしい。

作成された魔法具はそこまでとんでもない能力ではなく、精々闇耐性が無い相手からHPとMPを吸収できる程度との事。

それすらも意思をもった相手には効かない事が多いらしいのだが、僕と同じ様に姉さんがMPを封入した専用の魔石から吸収するわけだから、それで十分な訳だ。


 まぁそんな訳で、この階層に来るまでにややレベルとスキル的に遅れていたリアナとミラが僕に大分追いつく所まで来ている。

姉さんも、この分ならもっと階層を進んで敵のレベルが一段階上がっても問題なく進めると判断していた。

僕としても、もっと強い敵と戦う事で腕を磨き……姉さんやゲルボドに追いつくつもりで挑まなくてはならない。

最終目的である竜との戦いの際に、パーティーの中でも一番の活躍をしなくてはいけないのだから。


 皆が僕の為に協力してくれているからといって甘えてはいけない!

僕が一番強くなる位の意気込みが無くては!!

……でも駄目だ、姉さんを超えた僕を想像出来ない……。

出来るだけ追いつけるようにがんばるという事で!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ