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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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103、三つ目の迷宮

 元老魔術師が一緒ではない事にゴネていた王女様なのだが、どんなに無理を言っても既に居ない事にはどうにもならないと納得し、姉さんと一緒に居る事で同意している。

それが、彼と会える一番効率が良い方法でもあるからだ。


 今後の予定としては、王女様やヴァルツァー五爵の為に現在は停滞しているのだが、本来の目的である【竜殺し】となるために行動を再開しなくてはならない為、準備が整い次第で実力の底上げを行う予定となっている。


 準備といっても僕を含めた元々のメンバーは装備も持ち物に関しても問題無い為、基本的には王女様の装備の用意と、能力の確認や最低限の訓練というか現在の能力に慣れる期間となる。

姉さんが見た感じでは、既に僕が姉さんから送り込まれている魔素より多い量を自己強化に使用できるらしく、姉さんが魔送石から魔素を流せば僕の《ファイアブースト》と《ウィンドブースト》を同時に使用した感じと同等以上の効果が得られるとの事。


 王女様のレベルは魔人になる前から32で現状も同じとなってはいるが、ステータスに補正がかかっているらしくて一割~五割がマイナスとなっている。

肉体に関わる物はそこまで酷くは無いが、精神面や知識面に関わる部分のマイナスが大きい。

まず間違いなく、精神年齢六歳が効いているのだろう。

この話自体は元老魔術師の持っていた魔法具で確認できた情報ではあるのだが、弱体化している事を事前に知る事が出来たのは有益であった。


「リアナの面倒は私が見るわ。どうせ私が装備に関しても用意する事になってるしね」


という姉さんの言葉に甘え、基本的には全部お任せ状態となっていた。


 因みに、今後は王女様という呼称ではマズいので、先程姉さんが言った様にメリルリアナ様の愛称であるリアナと呼ぶ事になっている。

リーナと似すぎている為、もっと別の呼び方を考えた方が良いのでは? という意見を僕は出したのだが、


「リアナが良い! リアナがいい!! リアナがイイ!!!」


という王女様の連呼によって否決されてしまった。


 姉さん的には気にする程ではないらしく、


「本人が気に入ってるなら別にいいんじゃない」


と、どうでも良さそうな気の無い返事だけが返ってきた事からも、そう感じるのは僕だけの様だ。


 それにしても、王女様……いや、リアナの言動や行動が、段々と子供っぽくなってきているのは気のせいではないだろう。

記憶を無くした直後の会話や対応が六歳にしては随分と大人っぽくて流石王族だと思ったのだが、今の彼女を見ていると、実は結構無理をしていたのではないだろうかとも感じた。


勇者様に憧れ、その為に壊れてしまった以前の彼女には……そういった無理が少なからず影響を与えてしまっていたのかもしれない。

目指す相手が勇者様だというのが無謀な気もするが、彼女の持っていた《炎の欠片》が勇者様を連想させる事もあり、周囲からの期待が大きすぎた結果だとすれば……現状の方が、もしかしたら幸せになれるのかもしれない……。


 その考えすら、リアナが壊れる原因となった僕にとっての願望なのかもしれないのだが、そう考えておかなければ僕の心に圧し掛かってくる重圧が大きくなるのも事実だ。

まぁ、取り返しがつかない以上、これで良かったと思おう。

《勇者信者》が、明らかにマイナス要素の爆弾であった事は間違いないしね。




 ◇ ◇ ◇




 王都へ帰還してから、一週間が過ぎた。

リアナの装備は姉さんとリーナによって入念に整えられ、外見を隠す為の染髪剤や肌の色を変える化粧品類を改良して常時使っても問題ない物を作成し、顔が見えない様に他人からはマスクを着けている様に見える魔法具すら作っている。

しかも、それを外したらリアナ本人とは少しだけ違う顔が出てくるという手の込んだ仕様だ。


 何故そんな二重の幻影を使い分けるかと言えば、状況によってはマスクを外さなくては失礼にあたる状況もあり得るし、全く違う顔では僕達の違和感が強い。

それ故のマスクであり、中を他人の空似程度の変更に抑えているのも違和感緩和の為らしい。


 それらが終わってからは姉さん達と一緒に僕の迷宮で戦闘技術の底上げをしているのだが、迷宮の主である僕が居ては実践経験にならないからと、あからさまに邪魔者扱いされている為に別行動を取っている。

何気に姉さんからは時々酷い扱いを受けるが、気にしたら負けなのだろう……。


 その期間で時間の出来た僕も当然遊んでいた訳ではなく、今回の件で戻れなくなった元凶でもある、移動迷宮の経路確保を即行った。

この際に必要なのは固定迷宮の置き場所なのだが、これはすぐに解決した。

姉さんがリーナの迷宮をミルロード領に置く計画を立てていたらしく、その候補地が丁度決まっていたのだ。


 置く場所はエルナリアの街と同じで、ミルロード領の中心となっている街から約十kmの位置らしい。

配置できるマスター用扉の数の関係で、エルナリアの街と違って帰る為には十kmを馬車で移動するらしいのだが、


「十分だよ。魔物の出ない安全な道をたった十kmだからね。しかも、エル君が餌や面倒を見なくて済むように馬車用のゴーレムを用意してくれているからね。しかも、普通の野盗程度ではビクともしない強靭な作りになっている事も強みかな。移動する際に護衛を少なくする事が出来るからね」


との事。


 迷宮が出来た場合、迷宮周辺には間違いなく冒険者が暮らす町が作られる。

これは探索する冒険者が寝泊まりする宿や酒場、冒険者ギルドや素材の売買を行う店、冒険者の装備や持ち込むアイテム類を扱う商店等が立ち並ぶからだ。


 町が大きくなれば歓楽街等も出来るし、治安の為に衛兵がそれなりの人数で配置される。

王都の迷宮等は住宅も多数立ち並んで永住している者も多く、本格的な街として機能していた。

この大きさに至ると街の外周に壁が作られる程の規模となり、それなりの大きさを治めている領主貴族の街よりも厳重な防衛設備や人員が配置される事になるという。


 とはいえ、エルナリア領やミルロード領の迷宮がすぐにそこまで大きくなることは無いので、ミルロード卿が戻る度に多数の衛兵を伴わなくても良い状況は負担が少なくてありがたいという話なのだ。

もっとも、魔物は居なくても野盗の類がどうしても湧くため、《アースシールド》の魔法具を組み込んだ防衛能力と戦闘も可能なゴーレム馬車が力を発揮する事にはなる様だ。


 リーナが僕の知らない間に設置していた臨時の固定迷宮の扉を利用して、迷宮設置予定地にようやく作れるようになっていた三個目の迷宮を配置し、姉さんに教えられた通りに魔送石を置いた状態でその上に大きな岩を置いて密閉しておいた。

これで明日か明後日には、移動用のマスター用扉が作成可能になる……と言うのが数日前の話で、現在は僕の移動迷宮と王都のミルロード邸にマスター用扉が設置され、やっと僕の移動迷宮も繋がっていた。

これがもう少し早く出来ていれば……と、思わないでもないが、結果としては悪辣な領主を排除する切っ掛けになったのだから良しとしよう。


 しかも、


「エルナリア領から十kmの所にある迷宮からは、エルナリア邸とミルロード邸に扉が置いてあるシャ――――? それなら、エルナリア邸の扉を一回破棄して十km移動すれば良かっただけシャ――――?」


とのゲルボドからの指摘が……。

正直、一度設置したマスター用扉に関しては、姉さんのとゴチャ混ぜになっていて頭に残っていなかったという……。

もっと早く指摘して欲しかった…………!


 それ以外は、昼にレックスさん達と一緒に姉さんの迷宮でゴーレムを狩ったり、夜はお嬢様とゆっくりお話しできるというのんびりとした日々を送る事が出来た。

ここの所は色々とあったし、リアナの準備が出来次第本格的なレベルや熟練度上げが始まるのだから、これ位は良いと思うのだ。


 そんな風に、しばらくの休息とレックスさん達の換金素材が増えていく日々が、もう少しだけ続いていくのであった。

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