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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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100、王都への道中4

 昨日はハンバーグ作りを終えた後、戦闘する感覚が鈍らない様に少しだけ戦闘訓練を行った。

戦闘訓練を行う場所は元老魔術師の迷宮なのだが、お嬢様の救出で戦ったのとほぼ同じレベルなので若干物足りない強さだった。

アゼル達が強い事もあるが、あの頃から比べたら僕自身の強さも充実してきた事が実感できた。

竜を倒す為には、まだまだ先は長いけどね。


 因みに、王女様もこの戦闘に加わっていた。

アゼル達にも戦闘をさせる為に集合を掛けた為、枕にされていたウルが動いた事で目を覚ましてしまったからだ。


 王女様には六歳以降の記憶が無いので、最初に簡単な武器の使い方を教えてからとなったのだが、アッという間に元の戦闘スタイルに戻って動きも良くなってしまった。

戦闘スタイルを身体が覚えていた様なので、記憶には無いだけで意外とすぐに元の実力まで戻せるのかもしれない。


 そして、僕が迷宮に入った事を察知して様子を見に来た元老魔術師曰く、


「ふむ。やはり、若干だが魔法物質を使用しながら肉体強化を自然と行っているようだ。おそらくだが、魔人化が進み過ぎていた為に完全には人間に置き換えられなかったのだろうな……もっとも、私が老い過ぎていた為に人間としての構成要素が不足していた可能性も否定はできないけどね」


との事。


 魔人の能力を持っていても人体に悪影響を与える事は無いので問題は無いらしいのだが、致命的では無い程度には暴走する事もあるらしい。

力を使いこなせるようになるまで、一緒に居る間にもう少し訓練をしておいた方が良いだろうと言う事で話はまとまった。


 そしてその翌日……移動を再開しようとして移動迷宮から出た僕の目の前には意外な光景が映し出されていた!


 まるで、迷宮から出てくる僕を逃がさないかのような配置に展開されている……仮設の寝床の輪。

それが三重に移動迷宮を取り囲んでいる様子に、驚きが隠せなかった。


 昨日は夕方から活動を始めて迷宮内でそれなりに遅くまで活動していた為、現在は既に陽も結構昇っている時間になっている。

当然、仮設の寝床で寝てない人の方が多い訳だが、


「魔術師様! お早うございます!」


といった挨拶が周囲から大量に掛けられた。


 声を掛けてきた人達は昨日一緒に作業した人達なのだが、それ以外にも見た事が無い人達が沢山集まっているのが見える……。


 これは、あれだね…………。

そんな訳で、僕は移動する事無く………………肉祭りが再開されるのであった。




 ◇ ◇ ◇




 この地方には盗賊が少ないらしく、今までに送り出した村人達は比較的安全に荷物を周囲の村へ運搬できているとの事。

そのお陰で更に次々とここを目指して人が集まっており、これから向かう予定だった村からも人が集まっている様だ。

待っていればこちらから行くのにと思わないでもないのだが、絶対に来る保証もなければ、今すぐ食糧を確保出来れば助かる命もあるとなれば……行動を起こすのは当然とも言えるかな。


 そんな訳で、どうせ姉さんがこちらに向けて移動してくれているのだ。

この場に留まって食料を配布した方が、村人達も僕の居場所を探す必要が無くて効率が良いだろうという事になった。


 因みに盗賊が少ない理由は簡単で、移動する人が少ない為に旅人を襲う程度では食っていけず、村を襲う為に人数が集まっても結局は満足な食料を得られない為、必然的に他の領へ流れ出てしまうかららしい。


 僕としてもそれ程までに追い詰められた状況である以上、出来る限りの事をしてあげたい。

その思いで、今日も一生懸命肉を焼き、乾燥肉を作っていった。


 その事を姉さんにも話した所、


『それ位人数が居るのなら、加工する機材も増やした方がいいわね』


と言われ、リーナに製作を指示したらしく、追加で《アイテム》へ大量のコンロが放り込まれたのだった。


 機材が増えた分だけ肉の調達速度も上げなければならないのだが、そこにも更なる戦力が追加投入された事で問題なく確保する事が出来た。


 その戦力とは、王女様と元老魔術師だ。

昨日の戦闘訓練によってメキメキと上がる自分の実力を把握し、記憶を失っている事を再確認した事で元の実力になるまでは早急に戻したいと希望してきたからだった。


 六歳とは思えない程聡明な王女様は、国王陛下やアレスクルト様と会うまでに元の状態に戻しておく事が理想と考えているらしく、僕自身も出来るならばそれが望ましいとは考えていた。

そういった事情により、王女様に加えて元老魔術とその《迷宮の虜》達で僕の迷宮を蹂躙し、エースとオシリスが迷宮外まで運搬をしていた。


 これに加え、老魔術師の迷宮からも僕達が昨夜狩った分が再出現してくる魔物を狩りまくっている。

本来ならばそんなにすぐには再出現しないのだが、元老魔術師が魔素を送り込める魔送石の設置を行えると知った姉さんがあっさりと渡してしまった事で、現在は僕達の迷宮と同等の能力を得てしまった為だ。

姉さんの方で魔素の供給を止めるだけで機能しなくなるとはいえ、姉さんにしては無用心な気がするのだが……やはり同じ異世界人だった事が影響しているのかもしれない。


 そんな訳で、元老魔術師の迷宮に居る大量の《迷宮の虜》達が沸いた魔物を袋叩きにし、入り口まで持ってきた獲物をアゼルとウルが外へ引きずり出していた。

残念ながらイーゼスは体格的に役に立たない為、移動迷宮の扉の上で全体の進行状況を把握して僕に伝えて貰っていた。


 流石に王女様と元老魔術師は休憩を挟むのだが、その間はエースとオシリスが無抵抗な魔物を狩る為にそこまで効率は落ちず、加工に慣れた人員が増えていたので僕が《アイテム》を使用しながら肉を効率よく運んでいった。

実はこの段階でリーナが向こうの迷宮で狩った上、素材を剥ぎ取って肉だけにした物を大量に用意してくれていたのだが、あくまで手順を変更せずに自分達の手で全て加工させる方が良いと考えていた為にそれまでの流れを継続している。


 理由は、今まで《アイテム》から直接出している所は村人に見せていないからだ。

全て迷宮内で《アイテム》から出してから、外へ運んでいたのだ。


 何故そんな面倒な事をするのか?

答えは簡単だ。

勇者様の能力と酷似するこの能力を人に見せる事は、無駄な面倒事を招く恐れがある。

そして、《アイテム》の事を知らせずに今更肉だけになった物を出すのは不自然極まりない為、敢えてそのままの流れで行いたかったと言う訳だ。


 そういった理由のもと、僕は延々と同じ作業を繰り返す。

村人達も繰り返した……日が暮れるまで……。




 ◇ ◇ ◇




 遠方から来た人達は、既にこの村用に作ってあった保存食を持たせて出発させた。

僕がその分を補填するまでこの村に居る事を約束した事も大きいとは思うが、同じ貧困の苦しみを味わっている者として向こうの村の状況を理解して居るからだろう、快く協力してくれたのはとても有り難い事だった。


 現在、流石に僕も八時間以上働き続けていたので食事の為にマスタールームで休憩に入っていた。

流石に王女様と元老魔術師も、休憩をはさみつつとはいえ戦闘を続けていたので手の込んだ料理はしていない。

先程狩って来た肉を焼いた物と、エルナリア領主館で作って貰った夕食セットが現在テーブルに並んでいる。


 疲労はあるものの食欲もある為、いざ! 頂きます! と言う段階で姉さんから《通話》が来た時はチョットガッカリ……といった感じにはなったのだが、


『ああ、それじゃ詳しくは後にするわ。簡単に言えば、そこの領主と悪政に加担していた貴族連中は排除されたって話だから。流石に小悪党クラスの雑魚までは手が回って無いけど、領主の血族の中でもまともな人が爵位と領地を継いだ上で、当面は王都の役人が全ての事に口を出して改善させていくらしいから一安心って話かな』


だ、そうです。


 思っていた以上に話の展開が速くて驚いたが、これで今やっている事にも意味が増した。

一休みしたら再び作業を再開して、飢えている人達に少しでも早く食べ物を届けてあげないと!

折角領主が変わって生活が良くなるはずなのに、ここで飢え死にしたら勿体無いからね!!

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