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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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99、王都への道中3

 迷宮で寝ていた為、起きても時間の感覚が狂っていてすぐには何時位なのか判らなかった。

少しぼんやりした後、《ウィンドウ》の左上に表示されている時間を見て、今が夕方の六時過ぎである事を理解する。


 昨日から今日の午前中にかけて、七つ目の村で夜通しとんでもない量の保存食を作成していた為に寝たのは六時間前。

まぁ、普段と同じ時間を寝たと考えればこんなもんかと納得した。


 僕が寝ていたのは、マスタールームの端を区切って個人用にした区画だ。

そこにはベッドや個人的な所有物を置いてある。


 もっとも、故郷から出る時に持ち出した物や姉さんから渡された装備で普段使ってない物、お嬢様から頂いたプレゼント位しか置いて無いのでそれ程の量は無い。

単純に迷宮の中の温度が寒くは無いものの若干ヒンヤリしている為、寝ている間が寒くない様に部屋状にしてあるだけに近い。


 部屋から出て辺りを見渡してみたが、エースとオシリスが部屋の前に居る以外は動く者は居ない様だ 

どうやら王女様はいつも通りに小屋の中に居るらしいのだが、窓から光が漏れているので起きては居るのだろう。

既に食事が終わっている可能性もある時間なので、取り敢えず状況を確認する為に小屋に向かうとかすかに話声が聞こえてきた。

どうやら元老魔術師も居る様だ。


 僕が小屋に入ると、


「おはよう。その様子だと疲れは抜けたようだね」


「お早う御座います! お疲れさまでした!」


元老魔術師は淡々と、王女様は元気イッパイに挨拶してくれた。


 二人は台所に立って何かをやっている最中だった様で、すぐに作業に戻っていく。


「ハヤト! これ!」


王女様が楽しそうに肉と野菜を細かく刻んで混ぜ合わせた塊を見せながら確認をとっている。


 因みに、ハヤトと言うのは元老魔術師の事だ。

こちらの世界では別の名前なのだが、


「指名手配されている名前をいつまでも使う訳にはいかないし、そもそもあの名前に興味は無いのでハヤトと呼んでくれ」


と、言われている。

正式名称は西崎ニシザキ 隼人ハヤト と言う名前なのだが、これからは単にハヤトだけで通すと言っていた。

王女様にはハヤトとだけ伝えてあるはずなので、どうやら素直にそう呼んでいるようだ。


 実の所、若くなった元老魔術師と幼女並みの知識しかない王女様だけにしておいて、色々と問題が起きないかと少し考えてしまった時期もあったが……何かあったらアゼル達からすぐに報告があるので問題は無いだろうと考えて放置している。


 また、


「私は里奈りな以外に興味は無いので安心してくれていい。何と言えばいいのかな……生まれ変わった際に、まるで焼き付いてしまっているかの様に里奈りなの事が頭から離れないのだよ。一種の呪いのような物かな。もっとも、私はそれに感謝している。いつまでも色褪せることなく覚えていられるのだからね」


と言っていた。

その為、この世界では全く女性に興味を持った事が無いとの事。


 もっとも、その事が彼を悪の魔法使いと化して今まで突き進ませていた事を考えると、僕にはそれが良かった事だったのかという判断は出来なかった……。




 ◇ ◇ ◇




 起きたばかりではあったが、流石に夜の間に移動するのは避けたい為、まずは軽くお風呂に入ってサッパリとしてから再び王女様達が居る小屋へ戻った。


 小屋に入ると脂と肉の焼ける匂いが充満しており、僕のお腹が小さく鳴る。

ちょっと時間が不規則になっていたのであまり意識していなかったのだが、どうやらお腹は普通に減っていたらしい。


 僕に気が付いた王女様が、


「あっ! もうすぐお肉が焼けます! 座ってお待ちください!」


と声を掛けてくれた。


 最初の頃は大人しかった王女様も、ここ数日は元老魔術師から色々と王族に相応しくない可能性が高い知識や技術を教えて貰っている。

王族に相応しくないとはいっても問題のあるような事ではなく、庶民的な……と言った方が正確に伝わるであろう事を楽しそうにやっていた。


 今回の料理もその一つで、最初の頃はエルナリア領主館の料理人の方に作って貰った物を食べていたのだが、追加の魔法物質を含む肉料理を一品作っている間にいつの間にかこの二人で全部作るようになり、今はそれが当たり前になりつつある。


 王女様に余計な事を教えない方が良いのかな? と思いつつも、楽しそうにしている様子を邪魔する事は出来なかった。

王都へ着いたら再び自由の無い生活に戻るのだろうし……。

今だけでも、不安の無い……楽しい旅だと感じて欲しいとも思う。

それ故、限りある時間を好きにさせてあげようと決めたのだ。


 その王女様が、どうやら料理が出来たらしく、パタパタと小走りにテーブルへ駆け寄って人数分の料理を並べていく。

僕も手伝おうとしたのだが、


「大丈夫です! すぐに用意できますから座ってて下さい~」


と言われてしまった。


 その顔はとても楽しそうで、満足気でもあった為、僕は素直に座りながらその様子を眺めていた。

若干テンションが上がり過ぎている気もするのだが、どこの馬の骨かも判らない僕達を信じて貰えているという証だと思ってこのまま様子を見ようと思う。


 さて、現在目の前には王女様と元老魔術師が作った料理が並べられているのだが、メインとなっているのはハンバーグと言う姉さんや元老魔術師が前に居た世界の料理だった。


 王女様に魔法物質を含んだ食事をという条件を満たす為に基本的なメイン料理が魔物の肉になる為、飽きない様に色々な料理法で作り出した結果がこれという訳だ。


 元老魔術師曰く、


「こっちの世界の料理は作り方をほとんど知らないものでね。覚える気も無かったので、材料はおおまかに分かるかな? という程度の知識しかないのだよ」


との事。


 因みに、僕の知る範囲では肉を細かくする料理自体がほとんどない。

精々あるのは腸詰の為に使う位だろうか?


 肉は大体、焼くか煮るかのどちらかなのだ。

エルナリアの領主様の所でもそうだったし、王都で聞いた話でもそんな感じだったはず。

細かくするのはスープ等で少量をみんなで分ける様にする為であり、ハンバーグみたいに再度塊にする事は無いので、この料理がどんな食感なのかが楽しみではある。


 作っていた全ての品が食卓へ並び、全員が椅子に座った段階で僕が《アイテム》からパンを出して並べた。

流石にパンを焼くのは面倒なので、これだけはエルナリア領主館でまとめて焼いて頂き、温かいうちに《アイテム》に投入して貰っている。


 食事をする際には王女様が女神様へ感謝の言葉を捧げ、それが終わってから全員で


「「「いただきます」」」


と言って食事が始まった。


 まず僕が女神様に対して感謝の言葉を捧げない理由なのだが、僕の居た村でそんな事をする家は一軒も無かった事が大きい。

その代わりと言っては何だが、姉さんが「いただきます」と食事の際には必ず言う為、いつの間にか一家揃ってそれが癖になってしまっていた。


 このメンバーで食事をする様になってからも「いただきます」とつい言ってしまったのだが、元老魔術師も普通に「いただきます」と同時に言った為、王女様がキョトンとした顔で


「それは何に捧げる祈りの句なの?」


と聞いてきた。

それに対し、


「これは食材となった全てのもの、そして食材を獲ったり食事を作るのにたずさわった全ての人への感謝の心を表す言葉なんだよ」


と、元老魔術師が答えていた。

へ~……知らなかった!!!

まぁそんな訳で、僕達二人と一緒に王女様も「いただきます」を言う仲間入りをした訳です。


 さて、とてもいい匂いがしている食事なのだが、ハンバーグに加えて葉野菜のサラダと少し黄色っぽい色をして不透明なスープが用意してあった。


 ハンバーグがどんな物かは姉さんの知識で理解したものの、僕が見れるのは文章としての説明なので現物は初めてだったのだが……何故この国にも無いのかと、問いただしたくなるほどハンバーグは美味しかった……!


 肉のうまみはしっかりあり、表面はパリパリとした感触があるのに中は軟らかく、閉じこめられた肉汁が口の中で溢れてくる。

一緒に練り込まれている野菜が独特な甘みを滲ませ、若干の歯ごたえを持たせつつ、肉の邪魔をしない様に考えられた大きさに刻まれているのも凄いと感じる。

……これは……僕も教えて貰わなくては!!!




 ◇ ◇ ◇




 こうして、僕の希望により……料理教室夜間の部が始まった。

王女様もまだまだ元気らしく、先程覚えたハンバーグ作りを僕と一緒に再びやっていた。


 僕は無駄に《フルブースト》まで使って大量の肉でミンチを作り、魔物の肉が時間で崩れない様に必要な時だけ《アイテム》から出して調理する事で一頭分の肉を丸々ハンバーグにしていった。

こうして……二時間以上かけて僕用のハンバーグが大量にストックされたのだった!


 まぁ、途中で王女様は疲れて寝てしまったし、元老魔術師は呆れて自分の迷宮に引き上げたが気にしない!!


 そして、ここまでやるならエースとオシリスに手伝って貰えば良かったと気が付いたのが……終了した後だった事だけは二人には内緒にしておこう。

すっかり忘れていたが気にしない……結果には満足しているのだから!!!!

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