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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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9、血族の狼

 一旦引くべきかを考えた。

《聴覚強化》の数値を考えるに今後も奇襲は無理だろう。

それならば警戒されて準備が整った状態になる前の今がまだチャンスなのか?

そう考えていると、


「向こうがこっちに気が付いているとして襲ってくると思うか?」


「どうかしら、日中なら洞窟で待ち構える可能性もあると思うけど」


ライルさんの問いにカルナさんが答える。


 家畜を狩りに出ているのは日中だった事を考えると、闇の中以外でも普通に活動する事は間違いない。

そうなると現在ここに居るのが全てなのかどうかも問題となる。

下手にここに居る分だけ倒して残りに逃げられても不味い。

危険は伴うが一気に殲滅する事が望ましいのだ。

取るべき方法としては、今日はこのまま様子を見て数の確認を優先する。

洞窟の入り口に罠を仕掛けて各個撃破する為の用意をする。

と、いったところだろうか。

同時に二つとも並行するのが理想だ。


「それじゃ、その二つを実行するとした場合、分かれる必要があるがどう担当するのが一番安全だと思う?」


「ライルさん、僕が木の上からここを見張ります。他のみんなで村の人と罠をお願いします」



おそらくそれが一番安全だろう。

もし囲まれても僕一人なら何とかなると思う。

近くにある大きな木の上まで行けば流石に攻撃されないだろう。

食べる物は調理済みの魔物食品が暇をみて相当数作ってある。

そして以前の教訓から進化した寝床の作成をしてきた僕は、木の上で生活できる物も作成してあるのだ。

いざとなったらそれを展開すれば、領主軍に応援を頼む事になっても余裕で籠城できてしまう。


「一人で大丈夫か…………?」


「はい、恐らく今回の場合それが一番安全です。僕ならいざとなったら木の上に逃げて耐えられますし…………!!」


 ここまで話して僕は失敗に気が付いた!

そう、ここはまだ洞窟の近く。

僕は見つかっていると思った方が良い状態でここまで下がってきたのだ。


「失敗しました! 洞窟から敵が来ます!!」


僕の《危険感知》に最低二匹が引っかかった。


「前方から一匹、左前方にも一匹確認! まだ居る可能性も有り」


「前方をゾック、左を俺が抑える。カルナは俺と同じ方を攻撃で数を減らす事を優先。ルークは周囲の確認と他に居ないようなら俺と同じ方をまずやれ!」


ライルさんの指示が飛び、即座に動く。

現在の場所は洞窟から多少離れているとはいえ発見されない為に木が視界の邪魔をする位置に居た。

それが現状の《消音移動》を使いながら迫るシャドウウルフには有利に働いてしまっている。

まずは僕が位置を確定させないと奇襲すら受けそうな状況を考え、短弓を即座に構え、撃った。


 当てる事より、回避させる事で表に姿を現す様に誘導する目的で撃った矢は見事に役割を果たした。

ゾックさんの前に現れた一匹はそのまま牙で攻撃に転じたようだが盾に防がれ睨み合いに発展。

ライルさん側はカルナさんのファイアアローが見事に脇腹に命中して怯んだ所に両手斧の一撃が当たり重症を負わせていた。


 僕は更に《危険感知》により敵を探るが反応がよくわからない状況だった。

居るのは間違い無いと感じる。

しかし、周囲を見渡してもどこにも敵が見つからない。

考えられるのは離れた位置からこちらを観察している個体が存在する可能性だ。

その場合、援軍待ちの可能性も出てくるためここで時間を食うのは不味いと判断し、僕も戦闘に参加する。


 まずはライルさんの方を確認したが倒した場面だったので、ゾックさんの方へ移動して挟み撃ちにする位置へ陣取る。

ゾックさんの前方の敵が頻繁に出入りする位置の真上に風の自然魔法《エアダガー》を《ショートカット》から無詠唱で設置する。

設置タイミングは丁度カルナさんがゾックさんへ《エアシールド》を使ったタイミングに合わせたので、同じ風魔法の低級な物なら恐らく気付かれてはいないはずだ。


 剣を振りながら位置を合わせる。

丁度設置位置の下でサイドステップの為に一瞬止まった瞬間に《エアダガー》発動させる。

真空で出来た小さな刃が背中に突き刺さる。

その予想外の衝撃は一瞬バランスを崩す結果となり、狙い澄ました僕の一撃が左後ろ足を切断する。

機動力を失った獣では周囲を取り囲む戦士達の敵ではない。

すぐにその身体は赤く染まって動かなくなる。


 この段階で狼の遠吠えが聞こえた。

位置は洞窟の上の方だ。

遠吠えに反応するように洞窟の逆の方からも数匹の遠吠えが響き渡る。


「囲まれるのは不味い、どちらにしても逃げ切れる速度ではない以上、壁や行き止まりを背にした方がマシだ」


ゾックさんの指示に従い、洞窟側にある背後から襲われる危険の少ない位置へ陣取る。

《危険感知》に反応するのは合計四匹程度。

合流した崖の上の奴も含めて全てが正面からゆっくり歩いてきた。


 一番前に居る一回り大きな個体の名前を確認して僕が注意を促す。


「一番前が群れのボスです! 種族はシャドウウルフロード」


 全体は十m程度の距離で止まるが、ボスは悠然と僕達の前に歩いてきた。

距離は五m、そこで大きな唸り声を上げながら止まった。

堂々とたたずむ姿は威厳に満ちた姿をしており、ボスとしての風格を嫌という程見せつける。

攻撃する事を躊躇する状況で、僕の目には敵のスキルの発動を確認した。


《スキル:魂の回廊》


 スキルの発動と同時にとても凶悪な風貌に変化する。

四肢は倍の太さになると同時に少しだけしか見えていなかった爪が、刃物としか言いようがない凶暴性を持つ。

短かった体毛が伸びて逆立ちながら風に揺らめく。

上顎に生えた牙が倍以上に伸びてそこから闇の光とでも言えばいいのか、真っ黒い輝きを放ち始めた。


 《魂の回廊》の聖眼獲得率の上昇速度に反応するかのように《危険感知》の反応が急上昇する。

不味い、そう思った時には獲得率100%だった。


 ロードからの威圧感が増したのに対し、周囲のシャドウウルフからは《危険感知》の反応が無くなった。

おそらく《魂の回廊》の効果は魂の繋がりを持つ者からの力、又は能力の受け渡しと予想できる。

獲得率100%になる速度からいって複数回&複数体からの連続発動が可能なタイプだろう。

人間が使いこなせるかどうかは微妙な気はするが取れる様なので一応取っておく。


 さて、問題はこの凶悪になったロードに勝てるか……だ。

ロードはゆっくりと足を曲げて行く。

カルナさんに直接行けないように他の三人が位置を調整しながら対峙していたが、相手が突然飛び上がった。

ゾックさんの真上に来た時には高さ五mものジャンプとなっており、片手剣では届かない。

ライルさんが懸命に大きく振り回した両手斧も真上では無い為にギリギリ届かなかった。


 空中で一瞬止まり、唸り声の様な叫びと共に牙から漏れていた闇の光が一気に膨れ上がり全身を包んだ。

闇魔法:自然魔法……聖眼獲得率20%

それを目にした瞬間、僕は躊躇わずカルナさんに《エアシールド》を《ショートカット》から瞬間発動する。

《危険感知》が恐ろしい程の警鐘を鳴らした《闇魔法》は《エアシールド》で防ぎきり、なんとか接触せずに済んだ。

闇魔法は精神に恐ろしい影響を与える魔法が多い上に、光魔法を持っていない者は闇耐性がほとんどない為被害が甚大となる。


 今回使われた《闇魔法》は直接ダメージがほぼ無いものだったらしく、僕の《エアシールド》でもまだ破られずにいたが、実力差を考えたら通常攻撃だけでも即壊れる可能性が高い。

恐らく考えて行動していては直に被害が出るだろう。

こちらに背を向けている間に一気に火力を集中する為、《エアダガー》を僕の前にMP残量を考えてから九本連続で作り出す。

魔法を使う相手なので魔法発動に気が付く事は予想していたが、やはりこちらを向いた。

顔に向かって《二段突き》を発動するが当然回避される。

しかしそこまでは予想通り、《エアダガー》を次々と目を狙って放つ。

ほとんどが回避される中、五本目が鼻先をカスリ、徐々に無理な姿勢へと追い込み、八本目には回避行動すら取れずに目に当たった。

無理な回避がたたり背中から地面に落ちて行き、とっさに体を反転させて着地しようとする。


 ライルさんとゾックさんには何が起きているか判断出来なかっただろう。

それでも僕の攻撃で隙が出来たのを見逃さない。

ライルさんが大振りで斜め上に振った斧は構えが下段に降ろした状態になっていた。

着地する為に体を捻った状態のロードに下からすくい上げる様に振り上げる。

失明するほどの傷ではなかったが、少しの間目が見えない状態だった為に何の回避行動も取れずに斧が頭部にヒットした。

首が捻じれながらゾックさんの足元に落ちる。

平行感覚を奪われたのか、立ち上がろうとするがよろめいて足元がふらつく。

こうなると僕達の丁度真ん中にいたロードには逃げ道が無かった。

追撃する為の魔法として発動予定だった《ファイアアロー》は撃たなくても良さそうなので温存する事にして、一気に畳みかけた。


そして最後にこれを実行する!

《闇魔法:自然魔法》、普通の人間には習得出来ないと言われているが駄目もとで敢えてチャレンジした。

習得可能になっていたしね。

結果は獲得率20%だったが取れた!

まぁ、すぐに非アクティブ状態に変更しましたが!!


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