初心者勇者と小さな悪魔
青く輝く空。
白く浮かぶ雲。
見渡す限り大草原。
そんな中、一人の勇者が戦っていた。
「てやっとう!」
短剣を振り回し、相手を追い掛けていた。
しかし、相手はモンスターではない。
「めしー!にくー!まてー!」
そう、相手はただの猪だ。
猪は勇者の攻撃をひょいひょいと避け、あざ笑うかのように鼻を鳴らした。
「こ……こいつ……」
怒った勇者は、ポケットから四本のナイフを取り出し、猪に向かって投げた。
そしてなんとか四本中一本が猪の眉間に当たった。
それが致命傷になったのか、猪はブモッと一声鳴くと血を流してその場に倒れた。
「やたっ!当たった!」
勇者は跳びはねながら喜び、倒した獲物の所まで行った。
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彼の名は『ガイ』。
最近勇者を始めた、初心者中の初心者だ。
白髪を邪魔にならないように短く切って、身長は少し高め、年齢は多分18くらいだろう。
主要武器は短剣と投げナイフ。
力は強いのに、短剣のほうが使いやすいので、短剣を使っている。
そして先程のように、遠距離戦の時は投げナイフを使うのだ。
ガイは先程仕留めた猪を捌き、生肉にしてから焼いていた。
「しかし……猪仕留めるのに何分掛かってるんだか……しかも馬鹿にされた、気がするし……」
そう言ってガイはため息をついた。
「はぁ……こんなんじゃ、父さんみたいな立派な勇者になれないよ……」
そう、彼の父も、有名な勇者だったのだ。
しかし、歳のせいかガイに装備一式をくれて、今は家の大黒柱だ。
そんな父の口癖が、こうだ。
『困っている人を見たら必ず助けてやれ。それが勇者だ』
そんなことがあって、ガイは勇者に憧れたのだ。
「もっと強くなりたい……父さんみたいに……もっと……」
そして焼けた肉を食べながら芝生の上に寝転んだ。
口の中で肉汁が染み出て、とても美味だった。
するとどこからか、声が聞こえてきた。
「貴方に力を与えてやろうか、勇者ガイ」
「だ!誰!?」
「ここだ……ですよ」
声のするほうを見てみると、その声の持ち主と思われる少女が目の前に立っていた。
髪は黒のロング。
小柄な体型で、背中には灰色のふわっとした羽が生えていた。
「……誰?」
「私はデル。見ての通り、あく……じゃなくて天使だ!……です!」
そう言うとデルは胸を張った。
しかし……
(ぐうぅぅぅぅぅ)
「……お腹すいたの?」
「……うん」
「……食べる?」
「……うん」
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「はぁ、お腹いっぱぁい。ありがとう」
「いえいえ、喜んでもらえて、こっちもうれしいよ」
デルはお腹をさすりながら、ガイは残った肉を袋にいれながらそう言った。
「んで……君は天使なんだね?」
「くくくっ……よくぞ聞いてくれた!そう!なにを隠そう、この私、天使なんだ!……ですよ」
「いや、それはさっき聞いたから……」
「それで……勇者ガイのお悩みを解決してやろうと、遠方はるばるやってきたわけなんだ……ですよ」
「あ、そりゃどうも」
「さぁ、勇者よ!願いを言え!……です」
そう言ってデルは胸を張って笑った。
しかしその笑みは、なにかを企んでいる、そんな笑みだった。
(くくくっ……実は私、天使と言いながら、悪魔なんだよ)
そう、実はこのデルという娘、天使ではなく悪魔だったのだ。
(貴様の欲望を叶えた代償として、魂を抜き取ってやる。さぁ、ガイよ……願いを言え!そして魂を吸い出してやる!)
悪魔の力の源は、魔力と生物の魂。
そのため、このデルという娘はガイの魂を吸い出そうとしてるのだ。
「ほらほら、早く言えよ……です」
「……さっきから気になってたんだけど、なんか敬語に慣れてないよね?」
「そ、そんなことないぞ!決していつもから口が悪いから、口の悪い天使なんておかしいだろ、って慣れない敬語を使ってるんじゃないぞ!」
そしてデルはわたわたと手を振った。
「……別に気にしないから、いつも通り喋りなよ」
「大丈夫だって!……です」
「ほら、いいって。無理しなくても」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう言うとデルは申し訳なさそうな顔をした。
「んで、天使デルさん、オレの願いを叶えてくれるって本当なんだね?」
「うん!どんな願いでも叶えてやるぞ」
「どんな願いでも?」
「おぅ」
「じゃあ……願い、言うよ」
「はいはい、どうぞどうぞ」
「オレの願いは……」
ガイは少しためて、ゆっくりとデルに向かってこう言った。
「次の街まで、オレと一緒に来てほしいんだ」
「その願い、聴き入れ……ふぇ?」
景気よく返事をしようとしたデルだが、予想外の返答だったので素っ頓狂な声をあげた。
「え……?あの……さっき言ってた、強くなりたいってのは……?」
「いや、努力もしないで強くなったって、そんな強さは意味無いと思うんだ。でもオレ、まだレベルが少ないし……まだ旅を始めたばかりだから不安なんだ。だから一緒に来てほしいんだけど」
「……そんなんでいいのか?」
「うん」
ガイがそう言うと、デルは困った顔をした。
(おいおい、話が違うじゃねぇか……人間ってのは欲望まみれの生き物だって聞いてたのに……だから簡単に魂取れると思ったのに……)
「願い、聞いてくれないのか?」
「あ、いや……」
(くそ……こうなりゃ最初の街に着いた途端、魂を吸い出してやる……)
「その願い、聴き入れた!私が援護してやるんだ、感謝しろよ!」
「あぁ、ありがとうな。デル」
そしてガイは手を差し出した。
「……なんだその手は?」
「なんだって……握手だよ握手」
「悪臭?」
「臭いな。違う違う、あくしゅ。何て言うのかな……契約の証、みたいなかんじかな」
「おぉ!そうか!ならあくしゅしようぜ!」
そう言って二人はお互いに握手をした。
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ガイとデルの二人は、最初の街に向かった。
序盤だが、なかなか強いモンスターが出てきて、苦戦したようだが、デルの魔法援護もあり、やっと街に着いたのだ。
「お疲れ、デル。ありがとうな」
「ん?あぁ、そっちこそお疲れな。いい動きだったじゃん」
そう言ってガイに向かってガッツポーズをした。
「デルの援護があったからだよ。回復のタイミングが抜群によかったし、魔法攻撃はものすごい威力だったし」
「へへっ……あんなモンスターに殺されてたら、私が魂取れないからな」
「え?魂?」
「ふぇ!?あっ!いや、なんでもないぞ!」
そう慌てながらデルは冷や汗をかいた。
「……それにちょくちょく『サタンの野郎……人使いが荒いんだよ』とか言ってたけど……サタンってあの悪魔のサタン?」
「あっえっと……気にするな!別にあんなクソ上司とは関係ないからな!」
「上司?……てか、魔法も闇魔法が多かったし、君は本当に天使なのか?」
「あわわ……あの……えっと……」
なんとかごまかそうと、デルはわたわたした。
(ヤベー、ここで嘘です、とか言えねぇし、騙し通すのも無理そうだし……どうする……)
「あ!ねぇ、デル!向こうで出店やってるよ!行こうよ!」
「って私のことは興味無しかい!」
そんなやり取りをしながら、二人は店の前に向かった。
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「……なんだこれは?」
店を回っていると、デルがある食べ物に気を引かれた。
「ん?……あぁ、三色団子だな」
「参上団子?」
「……だれが出てくるんだよ。参上じゃなくて三色。見ての通り、色付きの団子だよ」
「へぇ」
「……食べる?」
「いいの!?」
「もちろん。……すいません、団子二つ下さい」
ガイは団子を手に入れた。
「はい、美味しいよ」
「わぁい!いただきます!」
そう言ってデルは一番上にあるピンクの団子を頬張った。
「……甘い」
「だろ、以外に味気無さそうだけど甘いんだよ」
「……こんなもの、始めて食べたぜ!うん!すごく美味しい!」
「そりゃよかった」
デルの笑顔を見て、ガイも笑みを浮かべた。
すると向こうの方から泣き声が聞こえた。
「ん?……おい、子供が泣いてるぞ」
「……ありゃりゃ、あれのせいだ」
「あれ?」
そう言ってガイは子供の上の方を指差した。
見てみると、そこには一つの風船が木に引っ掛かっていた。
「……ありきたりだなぁ」
「こら、そんな事言ったらダメ」
「ったく、仕方ねぇな……」
そう言うとデルは羽を広げた。
「よっと……」
そして空高く飛び上がると、その風船を取ってあげた。
「ほらよ、取ってやったぞ」
いきなり目の前に自分の飛ばした風船を持った人が現れ、ビックリしたのか、子供はキョトンとしていた。
しかし、風船を受け取ると笑顔になった。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
そう言って手を振りながら去っていった。
「……優しいな」
「へっ、柄にもねぇことしちまったぜ」
「でも困っている人を助けた。デルも立派な勇者だよ」
「勇者……か……悪魔の勇者ってのも悪くねぇな」
「え?悪魔?」
「ひゃわ!な、なんでもないぞ!」
またあたふたしながら手を振るデル。
「まぁいいや……さて、最初の街に着いたけど……デルはどうするの?」
「ん……」
(……そうだった!魂!)
本来の目的をすっかり忘れていたようだ。
しかし……
(……ずっと一緒にいて思ったんだけど……こいつ、優しいんだよな)
いつの間にか、ガイに好意を持つようになっていた。
(……っていけねぇ。魂取らねぇと……)
そう思うのだが……
「……無理だよ」
「……なにが無理なんだ?」
「ひゃわっ!べ、な、なんでもないぞ!」
そう言ってデルは手を振りながら、ため息をついた。
「……デル、大丈夫か?」
「…………」
(でも……魂が……)
黙ったままそう思ったデル。
そして、考えに考えた結果、やっと結論を出した。
(よし……こいつには悪いけど、魂を取らせてもらうぞ)
「ガイ、ちょっとこっちきて」
「あ?なんで?」
「いいから」
デルに言われるがまま、ガイはデルに近づいた。
「……ゴメンな」
「……どうして謝る?」
「いや……今から……」
デルがなにか言おうとした瞬間……
「大変だ!悪魔が現れたぞ!」
街の人達がそう大声をあげながら逃げてきた。
(悪魔!?それって……私のこと!?なんでばれたの!?)
「……デル」
「ふゃぁ!ななななんだ!?私は悪魔じゃないぞ!」
「……なに慌ててるのさ。もうちょっと、オレの旅に付き合ってくれ」
「えっ、お前……私を殺すのか!?そりゃ私とお前は敵同士かもしれないけど、さっきまで一緒にいた仲間だしよ……それにさっきお前の魂取ろうとしたけどよ!これは仕方なくであって、本当なら取りたくないし……もっと三色団子食べてぇし、あのクソサタンにも一矢報いたいし……」
「なにごちゃごちゃ言ってるのさ、ほら、悪魔を倒しに行くよ!」
そう言うとガイは街の人が逃げていく逆方向に走り出した。
「あっ!ちょっと待てよ!」
そしてデルも走ってガイの後を追い掛けた。
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ガイ達は街の広場にやってきた。
そこに一人の男が倒れていた。
多分、服装からして街の人だろう。
「だ、大丈夫ですか!?」
ガイが急いでその男に近づいた。
しかし男はなにも答えず、そこに倒れているだけだった。
「……大丈夫ですか?」
何度話し掛けても、なにも答えない。
「……返事がない」
「ただの屍のようだ」
「ってオレの台詞取るなよ!」
「一度言ってみたかったんだ」
「だからってオレの台詞を……」
「てか……死んでるぞ、こいつ」
「はぁ……でもその通りだよな。一体なにが……」
そう言っていると、強い衝撃と共に地面が揺れた。
「なっ!?なんだ!?地震か!?」
「いや……こりゃ……ヤベー!」
地響きを聞くと、さっきまで元気だったデルが急に怯えだした。
「どうした!?デル!?」
「……下だ!避けろ!」
デルにそう言われ、訳の分からないままガイはその場を離れた。
その瞬間、倒れていた男を中心に巨大な手が地面から突き出てきた。
「ちっ……外したか……」
すると今度は地面から一体のモンスターが現れた。
先程出てきた右手が異様に大きく、左腕が無い。腕は黒色。身体はそれよりも濃い黒で、人二人分くらいの身長だ。
「……これが……悪魔」
「ベルゼビュート……通称『豪腕の巨人』私の上司だ」
「……上司?」
「ふゃ!ち、違うぞ!」
デルがわたわたと手を振って否定した。
しかし、その様子を見ていたベルゼビュートが、ゆっくりと口を開いた。
「……なにをしている、デル」
「はにゃ!べ、ベル様、そのことは隠していただきたいと……」
「……デル。どういう事だ?」
ガイが不思議がってデルにそう聞いた。
するとデルはあぁ、と嘆きその場に崩れた。
「……デル。君は……悪魔だったのか」
そう聞くと、デルは無言で首を縦にふった。
「……隠しててゴメン……優しくしてくれたのにゴメン……」
そう言って涙を浮かべた。
「デル……大丈夫、こいつを倒してからその話はゆっくり聞くから」
「……全く分からん、人間というのは。目の前にして勝つ気でおるのだから、このわしを」
そう言うとベルは右手を前にさしだした。
「……貴様もだ、デル」
そして、その右手を伸ばしてきた。
右手は目でとらえきれない速さで迫ってきて、デルを捕らえた。
「きゃぁ!?」
「デル!」
「なぜ魂を取らない、デルよ。いつまでかかっておるのだ、魂一つ取るのに」
そういってデルを縛り上げた。
「あ……かっ……」
「だから弱いのだ、貴様は。それに回復魔法など使いよって、悪魔のくせに」
「くっ……あっ……」
苦しそうな声をあげるデル。
締め上げられて、上手く呼吸が出来ていないようだ。
「やはり落ちこぼれだな、貴様は。……殺すか」
そう言ってベルは右手に力を込めた。
小さなデルの体はもう限界を迎えていた。あと少しで、潰れてしまいそうだ。
しかし……
「デルを離せ!」
その声と同時に、ベルの右腕にナイフが刺さった。
「……やってくれたな、人間」
「デルはオレの仲間だ!殺そうとするなら……オレがお前を殺す!」
「……なぜ助けようとする、こいつを。こいつは取ろうとしていたのだぞ、お前の魂を。騙していたのだぞ、お前を」
「困っている人を見たら必ず助けてやれ……」
そう呟くと、ガイは短剣を構えた。
「……愚かだな、お前は。勝てると思っているのか、このわしに」
「それが、勇者だから!」
そしてガイはベルに向かって走り出した。
「……死ね」
しかしベルも黙ってはいない。
デルを放り投げると、右手をガイに向かって伸ばしてきた。
「確かに勝てるとは思ってないよ……けど!」
ガイはその右手をジャンプで避け、そのまま……
「デルを助ける事は出来ると思ってる!」
放り投げられたデルを空中でキャッチした。
「んで……無駄な戦闘はしない!」
そして、猛ダッシュでベルから逃げ出した。
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なんとか逃げきった二人。
と言っても、デルは気を失っていたのだが……
「ふぅ……なんとか逃げれたな」
そう呟くと、デルが目覚めた。
「う……うーん……」
「あ、起きたか?」
「んぁ……って!ガイ!ゴメン!」
「……起きていきなり謝られるか」
「べべ、ベル様は!?倒したの!?」
「いや、逃げてきた」
「あ……そうなんだ……」
やっと落ち着いたのか、デルはその場に胡座をかいた。
「その……ゴメンな」
「あ?騙していた事か?」
デルは無言で頷いた。
するとガイは頭をポリポリと掻いて、困った顔をした。
「うーん……まぁ騙されていたのには腹がたつけど、結局オレの魂取らなかったじゃん」
「でも!」
デルがなにか言おうとしたが、ガイが手を差し出してそれを制した。
「デル、君はいい娘だ。ずっと一緒にいて思ってたんだ」
「……悪魔なのに?」
「うん、でもいい悪魔がいてもいいじゃないか。君は優しい、それは変わりないよ」
そう言ってデルの頭を撫でてあげた。
「……ねぇデル、願い事、変えてもいい?」
「……最初にいったやつか?」
「うん……最初の街って言ったけど……これからも一緒にいてくれないかな」
「えっ……」
「人間の勇者と悪魔……異色のパーティーだけど、君とならどこまでも行けそうな気がする」
「…………」
「ダメ、か?」
「っく……くくくっ……あははははは!」
するとデルが大きな声で笑い出した。
「な、なにがおかしいんだよ!」
「いやいや……ひー、腹が捻れそうだぜ」
「ったく」
「つーか、その言葉、一種のプロポーズだぜ」
「ぷっ!プロポーズ!?」
「『君とならどこまでも行けそうな気がする』だってよ、言い換えれば『どこまでも一緒にいてください』だぜ!」
「い……いいじゃないか!」
「ひー、おもしれぇ!」
そういいながら腹を抱えるデル。
「あー、笑った笑った。ほんと、お前といたら退屈しねぇや」
そう言ってデルはガイを見つめた。
そして、手を差し出した。
「よし契約の悪臭だ、その願い、聞き入れた!」
「……握手だね」
そして二人は握手を交わした。
「さぁ、旅に出る前に、あの悪魔を倒すぞ!」
「ベル様をか?」
「うん」
「……へっ、勇者ってのは困ってる人を助けねぇといけねぇもんな」
「君も勇者だよ、デル」
「おうよ!悪魔勇者デルの力を見せてやるぜ!」
こうして初心者勇者と小さな悪魔の異色のパーティーは困難に立ち向かうのだ。
二人でなら頑張れる、そう信じて……
どもども、植木鉢です。
初めての試みで、短編ファンタジーを書いてみました!
書いてて楽しかったですwww
勇者の方は、トリッキーで素早い勇者ガイと悪魔なのに回復などに特化しているデルってパーティー構成としても異色な感じを出してみました。
まぁ、昔みたアニメ(魔法陣グルグル)が盗賊勇者だったから、なんか勇者っていったら盗賊のイメージが強いです。
またこれの続編とかも書いてみたいし、もっとバトルシーンの描写を、これから上達できるように頑張っていきたいです(`・ω・´)
以上、植木鉢ですたノシ