豆腐
――そうだ、修理して貰おう。
スイは傘の破れた穴から雨粒が素通りするのを見上げて思いました。
あやかしものを直すなら人の職人では手に負えないかもしれません。なにしろ、お喋りしたり、くるくる回ったり、興味のあるものを見つけると勝手に飛んでいったりするのです。
あやかしで傘の修理を出来る者を探すことにしました。
淡いの扉をくぐると辺りは暗く、鈴虫や松虫の声が途切れます。『あやかし通り』を火が灯された提灯を掲げて行き交う者達は皆妖気を纏っていました。
現で生まれ育ったスイは近道をするためにここをよく通りますが、他のあやかし者たちには怖くて話し掛けたことはありませんでした。
傘お化けはこの淡いの世界に初めて来たらしく、物珍しげにくるくると回りながらあちこちを見ています。
「おお、あれはろくろ首。見越し入道に、豆腐小僧か。本当に、豆腐を持っているんだなあ」
「傘屋さんは何処だろう?」
見渡して探しながら通りすぎると、豆腐小僧が話し掛けて来ました。
「豆腐はいかがですか?」
両手に持った赤漆の艶めく大杯の上には笹の葉が敷かれて、真ん中に白くて四角い豆腐が一丁盛られていました。所々朱に染まる青紅葉の葉の飾り付きで、並々ならぬこだわりを感じさせます。
「綺麗な豆腐だね、高いでしょう」
「高くないよ。僕は今、豆腐作りの修行中だから、皆に試食してもらっているんだ」
そうして説明された作り方に、スイは目を丸くしました。まずは大豆を育て、小豆洗いに大豆を研いでもらい、野火に火種を借りて湯を沸かし大豆を茹で、臼の妖怪に頼んですりつぶし――と、なんとも沢山の行程を経て作り上げた努力の結晶のような豆腐なのに、無料とは太っ腹にもほどがあります。
スイが遠慮していると、やがて豆腐小僧は諦めて闇に溶けるように消えました。
それから、傘屋を探してあやかし通りを歩き回りましたが、なかなか見つけられません。
ぽつぽつと雨が降ってきて、あやかし達は雨宿りの為に軒下や森に行き、通りは物寂しい雨音がさあさあとするばかり。遊火がよろよろと飛んで行く青色が水溜まりに写ります。
――そうだ、自分で直せば良いんだ。
彼は唐突に思い付きました。豆腐小僧に影響されて、自分で何かを作ってみたくなったのです。丁度手の中に壊れた傘があったものですから、哀れ、傘お化けは素人職人の犠牲になってしまうのでしょうか?
「お前、俺を直せるのか!」
当の被害者(仮)は、なんの疑念も抱かず、嬉しそうにバサバサと傘を開いたり閉じたりして雨滴を弾き飛ばしています。
スイは、早速材料を探しに出かけました。




