ひとひら
「いつもは不意打ちで現れて脅かして来るのに、いざ探そうとすると、なかなか出会えないものだね」
「まあ、気長に探せばそのうち出会えるさ。あいつらは墓場とか、死体の側とか、そんなところには大抵いるだろう。出会えない今が普通じゃないんだ。もしかして、これは『鬼火と友達にならない方が良い』という、何かからの導きかもしれないよ」
おれとしては、このまま会えなくてもなんら問題はないけれどな。むしろ、厄介事のにおいしかしないから、いい加減諦めてほしい。
と、彩は内心で思いつつ、スイを幾度目かの説得に当たります。
「うーん……そうなのかな?」
「そうそう、暖かくなる方法は他にも沢山あるだろう? 例えば――」
小雪のちらつく小道をどこへともなく歩きながら、ああでもない、こうでもないと、いつものごとく益もない会話をしているときのことでした。
スイはふと、気配を感じて立ち止まりました。
「どうした?」
「微かに、声が聞こえたんだ」
「え、まさか、鬼火の?」
「いいや、違うと思う。もっと身近で、儚げで、なんだか懐かしいような――」
「それなら、雪の声なんじゃかいか? スイなら、聴こえるだろうさ。霜柱の声にも耳を傾けていたし」
そうかもしれないと思いながら歩調を緩めて、灰色の空を見上げます。
途切れることなく降り続く、無限にも思える白い雪の花弁。見つめていると、どこか遠くの世界へさらわれてしまいそうになります。
『……――どこ?』
幾度か瞬きをして現に帰り、手を差し出しました。
ひとひらを手に乗せると同時に仙術をかけて空気の層を作りだしました。普通なら体温ですぐじわりと溶けてしまうはずの雪は、六角の美しい結晶を保ったまま。
そっと耳を近づけて、目を閉じます。
すると、先程よりもはっきりと声が聞こえてきました。
『北風小僧のお兄ちゃん、どこへ行ったの? 迷子かな?』
「君は、迷子なの?」
『わあ、びっくりした。あれ? 人の子?』
「僕は、スイだよ。僕も昔氷の子で、今は半妖半仙なんだ。驚かせてごめんね。なんだか、困っているような呟きが聞こえたから、つい、話しかけたんだ」
『そうなの。親切なスイは、氷の子のお兄ちゃんなんだね。僕は氷の子で、今は雪だよ。名前は、灰雪。北風小僧のお兄ちゃんがそう呼んでたのよ。それでね、僕は今、困っていたところなの』
「北風小僧さんとはぐれてしまったんだね」
『そうなの。お兄ちゃんが、迷子なのよ』
「お兄ちゃんの方が迷子なんだね」
スイはふふっと笑いました。
小さな氷の子は、全くしょうがないんだから。という風に瞬きのような光の粒を反射しました。
『そうなのよ。一緒に、空飛ぶ雪だるまの船を追いかけていたのよ。だけど、いつの間にか、どこかへ行ってしまったのよ』
「空飛ぶ雪だるま?」
『の船なのよ』
「え、なにそれ、見たい。なあ、スイ。もちろん、探しに行くんだろ?」
彩が、にわかにわくわくとし始めて、勝手にくるくると回るので、持ち手の部分からそのうち発火でもするんじゃないかと思われて、パッと掴んでいた片手を離しました。彩はそのままふわりと浮きながら、回り続けます。
「まあね。聞いたからには、放っておけないさ」
「よっしゃ! これで鬼火探しから解放される」
「……そんなに嫌だったの?」
『スイのお兄ちゃん、よろしくお願いしますなのよ』
――こうして、スイたちは不思議な船と迷子を探し始めたのでした。果たして、この先どうなることやら。




