表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨降り小僧~スイの旅~  作者: 羽紗子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

神隠し

「淡いへ繋がる扉って、いつでもどこでも開けるから、便利だよな」


「そうだね、今みたいに熊に出くわした時なんかは特にね」


 ピタリと閉じられた扉を背にして、よろよろと倒れ込みながら、スイは辛うじて彩へ言葉を返しました。


「大丈夫か? 顔色が真っ青だぞ」


「そういう彩だって、まだ震えているじゃないか」


「ぎりぎりだったな。あとほんの少し遅かったら、餌になっていたぞ」


「やめてよ……」


 想像するだに恐ろしい。暫くしてようやく落ち着いてきたスイは、握りしめていた傘を手放しました。彩は、傘を開いてふわりと美しい蝶のように宙へ舞い上がります。


「熊にあったときは、目を逸らさずにゆっくりと後ずさるんだって。前に師匠から聞いたことがある」


「ああ、だから後ろ向きで歩いていたのか」


「淡いの扉を開けたときに目を反らした瞬間、突然こちらへ向かって走り出したから、生きた心地がしなかったよ」


「そういえば、熊はあやかし者を喰うのかな?」


「どうだろう? 彩は、食いでは全くないから大丈夫だろうけど。ところで、ここは何処だろう」


「え、自分で開いたのに、知らないのか?」


「咄嗟に開いたから、目的地がどこかは深く考えていなかったんだ。淡いの世界であることは間違いないよ」


「俺は淡いの世界に詳しくないからなあ。見たところ誰の姿もないし、ただの森みたいだ。おや、綺麗な花が咲いているよ」


「本当だ、現世では見たことのない花だな。菊に似ている」


 花に近づくと、森が開けてその先に波打つ丘があり、斜面に綺麗な花畑が広がっています。とりどりの色に囲まれて、小さな子供が立っていました。その子はごろんと寝転がり、花の海に沈みましたが、すぐにひょっこりと起き上がり、こちらを向きました。


「あの子、スイにそっくりだぞ。兄弟なんじゃないか?」


「まさか」


 よく見れば、確かに、水溜まりに写した自分の顔によく似ています。その子は妖気を発しておらず、人の気配がしました。


「大変だ、迷子だよ。あのまま淡いの世界にいたら、帰れなくなる」


 スイは彩を片手に、花をかき分けて進みました。


「おおーい! こっちへおいで」


 手を振り呼び掛けますと、小さな男の子も振り返しました。


「わーい! 一緒に遊ぼう。一人でつまらなかったんだ」


 近くまで泳いできたその子は、嬉しそうに手を繋ぎました。間近で見ると、ますますそっくりに見えます。

 本当に、兄弟だったりして? いや、そんなばかな。僕はあやかし者だし、この姿は借り物で――。

 そこまで考えて、はっとしました。もしや、あの子の……?


「僕は、レンだよ。きみは?」


「あ、僕はスイ。さあ、君の家まで送って行くよ。きっと家族が心配しているから」


「えー、まだ遊びたいよ」


「ここは、ずっといると危険なんだ。帰れなくなってしまうんだよ」


「ふーん、不思議なところだと思っていたけれど、もしかして、お化けとか出るの?」


「大当たり」


「か、帰る! 早く行こう」


「あっはっは……!」


「ひっ! 今、誰か笑った」


 スイは傘を閉じて小脇に挟みました。


「さあ、行こう」


「うん」


 レンと似た気配の人がいる場所を念じて淡いの扉を開き、手を引いて境界を潜り抜けます。

 出た場所は、山の麓の村でした。人々が集まっていましたが、レンの、姿を見つけると、皆がほっとしたように集まって来ます。


「レン!」


 女の人が駆け寄ってきて、レンを抱き締めました。


「お母ちゃん……」


 わあわあと泣き出したレンを見て、周りの村人たちは、良かった、良かったと言いながらやがて帰って行きました。


「皆様、本当に有り難うございました。うちの子を探すのを手伝ってくださって」


 頭を下げる女の人に、村人は朗らかに笑いました。


「なあに、困ったときはお互い様さ。しのさん、ここらへんは、昔から神隠しが多いんだ。レンくんが帰ってきて本当に良かったなあ」


 灯籠の陰に隠れて様子を見ていたスイを、しのさんはどうしてか気がついていたようです。こちらへ手を差し出しますので、スイは恐る恐る前へ出ました。


「あなたも、神隠しにあったのね。あなたのお陰で、この子は帰って来られた。本当に、ありがとう」


 しのさんはスイをもう片方の腕で抱き締めます。スイは、胸の辺りがほっこりと暖かくなり、何故か目に涙が滲みました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ