【わわ、私が魔法使い…!?】
この物語はフィクションであり、実在する人物などとは関係がありません。
カーテンが閉め切られた薄暗い部屋で、本のページをめくる音と、コップに入った氷のカランという音のみが響くこの部屋に一人の少女がいた。彼女の名前は『ミリア・フェンリル』現在十七歳。本来なら学生だ。
だが、彼女は平日にも関わらず家にいた。何故かと言えばそう、彼女は幼い頃からのいわゆる『不登校』と呼ばれる引きこもりの少女だった。
人見知りで引っ込み思案。もちろん人との会話は大の苦手。一人をこよなく愛するその性格が、彼女をそうさせたのだろう。
「あっ」
コップの中の飲み物を口にしようとした時、もう中身が無いことに気がついた。しぶしぶ部屋を出て階段を降りた時、母親が声をかけてきた。
「あっ、ミリア!ちょうどいい所に!ちょっとおつかい頼まれてくれない?買い忘れちゃった物があって。ついでに外の空気でも吸ってきなさい。心地いいから。はいこれメモ♩じゃっ、そういう事でよろしくぅ~!」
「あ、え、ちょっと、おかあさ…」
良くも悪くもうちの母親は明るい性格だ。
だからまた、断る隙もなくおつかいを引き受ける事になってしまった。手には半ば強引に渡された買い物リストのメモがあった。『いつものスーパーでよろしくぅ~♡』の一言を添えて。
はぁ、とため息が出るものの、確かにたまには外の空気を吸うのも悪くないなと思ったので、エコバッグを持ち、そのいつものスーパーに向かった。
買い物を終えてスーパーを出た時、ふと空を見上げるとなんだか来る時より暗い雲に覆われている事に気がついた。
「いまから雨でも降りそうだなぁ。傘持ってきてないし、早く帰ろ。」
そう思った時、まわりの人々が自分の後ろ方向の空を心配そうに見上げていた。それを真似するように後ろの空を振り向くと、思わず「え?」という声が漏れていた。
その周辺の空は黒く、その中心を見ると円を描くように渦を巻いていた。まるでブラックホールみたいな不気味な雰囲気を醸し出しながら。
次第にその渦の中心が広がり、まるでドラゴンのように黒くて巨大な魔物が大きな唸り声を上げながら出てきた。
「な、なんで!?」ミリアは驚いた。
ドラゴン、ましてや魔物が登場するなどアニメや漫画などの世界だけだと思っていた。ましてや魔法すら現実世界には存在しないはず…。
というかこの状況、どうしたらいいの…?
夢か現実か、買い物を終えたエコバッグを持ち、あたふたしている少女に魔物は目をつけた。また大きな唸り声を上げ、迫力のある口を開けた。それを見た周囲の人は悲鳴を上げ、素早くその場から離れて行った。
訳が分からず、ただただエコバッグの紐を掴んであわあわしていると、魔物はミリアを目掛けてその開けた口から紫色の炎のようなものを勢いよく放った。
「…っ!」
思わずミリアは目を瞑った。ミリアと炎がぶつかるその時、魔法陣が広がりバリアの役目を果たし、炎からミリアを守った。恐る恐るミリアは目を開ける。
「え、なんで…ま、魔法陣!?」
魔物の炎が止み、ふと自分の手のひらを見た。火傷も怪我も無い。まさかの無傷だった。
その瞬間、手のひらの上に魔法陣と共に杖が表れた。アニメや漫画などの世界でよく見る、ぞくに言うあの『魔法の杖』
ミリアはそれを驚き混じりに見つめていると、急に頭上から声をかけられた。
「ねぇ、それ魔法の杖でしょ?なら、あなたも魔女なんでしょう?何そんな所に突っ立ってるのよ、早く私たちと一緒に戦いなさい」
「え、あの、…え?」
魔女?戦う?というかあの人普通に空飛んでる?
初めて見る人、初めて見る光景。何が何だか分からなかったが、とにかく私も戦うしかない…らしい?
いつの間にか上空には魔法の杖を持ち、長いローブを纏った人たちが魔物に向かって攻撃、いや、魔法を放っていた。
見よう見まねでミリアもエコバッグを置いて空へ飛んだ。髪が風に揺れる。さっきまでいたスーパーが小さく見えてくる。まさか本当に自分が空を飛べるなんて…。
ローブを纏った人たちは全員で四人、みんな呪文のようなものを詠唱してそれぞれ炎や氷、雷などの魔法を放っている。
「ほら!あなたも詠唱して!」
「え?あ、あの、詠唱と言われましても…」
「え?ごめん聞こえなかった!もう一度…って避けて!」
魔物の攻撃が一直線に来た。ミリアは慣れない空中で慌てて避ける。見てから避けたのでギリギリの所だった。
もう一度話しかけようと思ったが、さっきの子は街と人々を守るため、早急にやるべき魔物退治に集中しているし、ここで「詠唱も魔法も知らないし分からないんです。空を飛んだのも初めてです…。」なんてとても言えるはずなかった。
とりあえずミリアは杖を魔物に向ける。魔法はイメージが大切と何かで聞いた覚えがある。詠唱は出来なくても、イメージくらいなら…。
魔法はそんなに簡単な物か?と自問自答するも、この状況ではそんな事を考えている場合ではない。一か八かでやるしかなかった。
「イメージ、イメージ。何でもいいから、あの魔物を倒せる方法は…」
ミリアは頭をフル回転させる。見たところ、あの四人の攻撃は魔物にはあまり有効ではなさそう…。
炎魔法でも、氷魔法でもない攻撃は…。
「…そうだ!」ミリアは一つの案が思いついた。でも、もし倒せなかったら…?いや、今はやってみるしかないんだ!ミリアは空気を蹴って魔物の目線の先にきた。
魔物と目が合う。
「おい、何しているんだ!」
「ちょっと!危ないわよ!」
ミリアは声をかけてもらったが、ここを退けたらミリアの案は試せなくなる。
魔物は初めの時と同じように口を大きく開け、紫色の炎を放った。それとほぼ同時にミリアの杖から魔法陣が展開。力強い紫の炎を反射させ、魔物にそのままの炎を浴びせた。
魔物はさっきまでとは違う唸り声を上げ、淡い紫の光になりながら消えていった。やがて雲は薄くなり日が差して青空が戻った。
四人がミリアを不思議と驚きが混じった顔で見る。
「すす、すみませんでしたーぁぁ(泣)」
その空気に耐えられずミリアはエコバッグを持って全速力で走り、逃げるように家に帰ってしまった。
その夜、ミリアはベッドで今日の事を思い返していた。本当は魔物を倒した後、何か話をした方が良かったのではないかと。逃げてくるのは流石に変だったのではと。
最終的には魔法はそもそもこの世界には存在しないのだから、今はまだ夢の中なのだという事になった。
さぁ、結論が出たから今日はもう寝よう!と目を瞑った時、窓をトントンと叩く音がした。
「な、何事!?」
ミリアは恐怖で布団を握る。
「ねぇねぇ、いるー?起きてるー?」
人間の声がした。その声は聞いた事のある声だった。
そうだ、今日魔物退治の時に一番始めに私に声をかけてくれた子だ。「何そんな所に突っ立ってるのよ」とか言われた気もしないでもないけど…。
ミリアは窓を開けた。そこに居たのは、やはり想像していたあの子だった。
「良かった~起きてた。急に来てごめんね~。私、
『リリー・アエリアナ』って言うの。あなた名前は?」
「あ、えと、『ミリア・フェンリル』です…」
「ミリアちゃんか!よろしく!いや~それにしても今日の魔物退治、凄かったよ~!あんな攻撃、魔法陣一つで反射させちゃうなんて、やっぱり上級クラスの子?」
「じ、上級クラス…?」
「え?」
「…え?」
その後、リリーによると、どうやら数年前からこの世界に全員が使える訳ではないが魔法が存在し、あのドラゴンみたいな魔物を倒す役割を果たす組織がいる。そのための、いわゆる魔法学校というのもある。との事だった。
リリーはその組織の一員で、他のメンバーは今日ミリアが見た三人。
魔法学校の成績優秀で、三つに分かれている各級のトップにいる子たちで形成されているらしい。
なぜこの話を母親が教えてくれなかったんだろうと一瞬疑問に思ったが、まさか引きこもりの娘が魔法使いだなんて考えないよな。と思った。
「あの魔物一人で倒せちゃう魔力があるんだからもったいないよぉ~!一緒に魔法学校通おうよ~!ミリアちゃん居たらもっと楽しいからさ!ねっ!入学しておいで!入学試験も楽々のらくちーん♩だよ!」
「あ、え、いや、でも…呪文とか分かんな…」
「じゃっ!明日の朝迎えに来るから~♩おやすみっ!」
そう言うと、リリーはニコニコの笑顔で素早く飛んでいってしまった。
「おやすみ、なさい。…って、えーー!?」
こうして私、ミリア・フェンリルの魔法少女生活は幕を開けたのです。
〖作品を読んでいただいた方、少しでも覗いてくださった方へ〗
読んでいただき、ありがとうございました。
小説を書くことに慣れていないため、拙い部分もあったと思います。
ですが、少しでもこの作品を読んで良かったと感じていただけたら幸いです。