第七話 新たな婚姻の申し出
手続きが整えば、あとは待つだけ。一月もかからずにルドヴィク様と私の婚姻無効は認められた。
ロラン様は実に精力的にこの手続きを進めてくださった。ルドヴィク様の追放のことといい、彼がいなければ、こんなに円滑に事を進められなかっただろう。
(偶然にも、彼に出会えて……本当によかった)
ロラン様は、手続きが完了するまでの間にも、何度も我が家に寄って声をかけてくださった。名家のロラン様にご満足いただけるようなもてなしは難しいものの、シルヴァンと相談しながら、精一杯できることはしたつもりだ。
それに、何より。ルドヴィク様とエロイーズ様がいなくなったこの家では、もうお金の計算に頭を悩ませることはなかった。
* * *
婚姻無効の成立後、改めてロラン様が屋敷にお越しになると連絡があった。シルヴァンと二人、使用人たちに指示を出して、お気に入りの黄色い薔薇を飾り、できる限り屋敷を整えた。
私はシルクのラベンダー色のドレスを纏い、薄く化粧も施している。パールのネックレスも合わせ、我ながら似合っていると思えた。
「……奥様、いよいよでございますな」
シルヴァンが、感慨深い様子でこちらを見つめる姿に、私も喜びが湧きあがってきた。
(だけど、最後まで、冷静でいなくっちゃ)
「……シルヴァン。私はもう、奥様じゃないわよ」
「そうでしたな。つい」
「もう。あなたは——」
その時、来客を知らせるベルがなった。
……きっと、ロラン様だわ。
応接室に通し、シルヴァンと二人で出迎えた。
「今日は、君に話があるんだ。ほんの少しだけ、二人で時間をもらえないか……?」
紅茶を口に含むと、ロラン様は切り出した。
だけど——
「いえ、このままでお願いできませんか?……この家にとって大事な話であれば、シルヴァンにも聞いてもらいたいので」
ロラン様は、一瞬面食らった顔をしたが、気を取り直したようにうなずいた。
「……そうか。そうだな。わかった」
私は、笑顔でロラン様の言葉を待つ。
「オレリー夫人……いや、オレリー。どうか、私と結婚してくれないだろうか。あなたの慎ましやかで優しい姿に、心惹かれてしまったのだ」
彼は、甘やかな顔で私を見つめた。
「ロラン様……」
「我が家はセルジ家の寄親だ。あなたが、セルジ子爵家を再興したいというのなら、私が父に掛け合って、セルジ子爵を継ごう。……あなたは何も心配せず、私についてくればいい。オレリー、愛している」
果たして、オレリーの選択は?