第五話 夫からの解放
それからは、あっという間だった。私は、いつも通り屋敷で過ごしているだけだったが、七日も経たないうちに、ロラン様が早馬を走らせてやってきた。
ロラン様の馬は、白いたてがみが美しい、見事な駿馬だった。彼は馬から飛び降りるや否や、手綱を使用人に預け、こちらに駆け寄ってきた。
「オレリー夫人!やりました!貴族院に我々の要請が通りました。これで、あなたもようやく、あの男から解放されます……」
彼の目は、ひたすら真摯に私だけを見つめていた。
(ロラン様……なんて、頼りになるお方)
セルジ家の寄親であるヴェルナン家。そのロラン様が強固に推進してくださらなければ、こんなにも短期間での決着は見込めなかっただろう。やはり、上位貴族の権力とはすごいものだ。私には、想像もつかない世界だった。
「ルドヴィク・ド・セルジは、領地を顧みず家を傾けた咎により、子爵位と領地の管理権を剥奪の上、国外追放となりました」
(ではもう……我慢しなくてもいいのね)
私は、そっと胸を押さえた。
(でも……これで貴族家とのつながりが切れてしまえば、お父様とお母様はなんて言うか……)
「あとは彼に罪を認めさせるだけです。……ご一緒いただけますか?」
私は、ロラン様を見つめ返した。その顔が、ほんのりと朱に染まる。
「ロラン様、奥様。ルドヴィク様とエロイーズ様は、リゾートでの滞在を終え、三日後にお戻りの予定です。その時に……彼らに現実を突きつけましょう」
シルヴァンは、淡々とそう告げた。
* * *
ロラン様はその日、ヴェルナン家の私兵を連れてやってきた。
「……私のために、わざわざありがとうございます」
できる限り、丁寧に頭を下げる。
「いえ、あなたのような美しい方を守れるのは、男としての誉ですから」
ロラン様は、茶目っ気たっぷりにウインクをして見せた。
(ルドヴィク様は私のことを陰気な顔と言ったのに……こんなふうに思う方もいるのね)
「こ、これは何の騒ぎだ!?なんだ、お前たちは、人の屋敷に勝手に……!」
その時、帰還したルドヴィク様は、困惑したように言葉を放った。隣にいるエロイーズ様も、驚いたように室内を見回している。
ずいぶんとリゾートで楽しまれたのだろう。お二人とも、ご自慢の白い肌は小麦色に焼けていた。
ロラン様は、ルドヴィク様に鋭い視線を向けた。
「ルドヴィク・ド・セルジよ!お前は度重なる職務放棄と不品行により、子爵位を剥奪され、国外追放となった」
ルドヴィク様とエロイーズ様は、驚いたように体を固くし、その場から動けなくなった。彼の言葉に、周囲は水を打ったように静まり返った。