探索
病室の扉を静かに開け、私は廊下に足を踏み出した。
ここが何階なのか、この病院に何階あるのか、それを確認する必要があった。直感的に、同じフロアにナースステーションがある気がしていた。理由はうまく説明できない。けれど、この場所には——来たことがあるような、そんな既視感があったのだ。
予感は当たった。
「やっぱり……ここにあった」
壁に設置されたフロアマップ。私はそれを見つけると、誰かに見られているのではないかという不安を振り切り、駆け足で近づいた。
指先でマップの端をなぞり、自分の病室の位置を確認する。
「……B3-17」
このフロアが地下三階だと知り、胸がざわめいた。マップには地上階の情報は載っておらず、「地下1階」までの記載しかない。それより上の情報が、まるで初めから存在しないかのように消されていた。
「なんで……地下1階までしかないの……?」
地上がない病院なんて、あるはずがない。けれど、現にこの地図にはそれ以上の階層は描かれていない。
混乱する頭の中で、とにかく一つだけ確かなことがあった。
——ここから脱出しなければならない。
そのときだった。コツ、コツ……と、足音が近づいてくる。
私は反射的に、廊下の端にある縦長のロッカーに身を滑り込ませた。中は狭く、酸素が薄い。けれど、音はますますこちらに近づいてくる。
「……あの子、見つかった?」
女の声だ。低く落ち着いているが、どこか不自然だった。
「まだ。監視カメラにも映ってない」
別の声が答える。どちらも、仮面をかぶっているようだった。先ほど、病室のテレビで見た謎の人物たちと同じだ。顔も声も、偽られている。
「そう簡単にはいかないみたいね」
言葉を最後に、足音は遠ざかっていった。私はしばらく呼吸を殺したまま、ロッカーの中でじっと耐える。
――こうして、私の脱出劇は始まった。
--つづく