ep.7 兄
「父がお前に話した内容も少々興味はあるが、まあ今はいい。12歳の洗礼の儀のことだが、お前はスキルを取得し力を得てどうするつもりだ?」
こうして兄と顔を合わせるのは実は両親と違い、久しぶりではない。兄は何故か時折こうして俺の部屋の前に来ては自身の最近の執務や成果についてを簡潔に伝えてきたり、俺には到底わからないような話を振ってくることがあった。俺はそれを嫌がらせだと捉えている。声を大にして言いたいが、俺の知能が足りていないのではなく兄の頭の中にしかないような最新技術の話を振られて、この世界でそれについていける人間なんかいるわけないだろ。
今の精神状態では兄と話していてもただ疲れるだけだろう。適当に相槌打っとけば終わるだろうか?
そんな風に考えているのを見透かしているかの様に兄は少し眉を寄せている。
「え、と、自身のスキルを見て考えようと思っていますが、公爵家の一員として貢献できるように頑張り、ます。」
当然『スキルが発覚してそれが両親にとってゴミ判定されたら俺はあなたの盾として死ぬ予定なんです!なんせ兄弟なので影武者にぴったりだそうで!』なんて余計なことは言わない。
兄は俺のその言葉に首を少し傾げる、その動きに合わせて黒い髪が揺れた。
…こうして兄の顔を見ると両親の目は少し節穴なのではないだろうかと思ってしまう。俺は確かに兄のように赤い目だし黒い髪を持つがここまで眉目秀麗でもない。
「具体的には考えていないか。今で伝えておくが、俺はお前が洗礼を終え次第、お前を俺の傍に置いて執務に同行させ、補助の任を与えたいと両親に伝えるつもりだ」
「は、はい?俺…私がですか?!」
「なんだ、文句があるのか?それともそれ以上に公爵家に貢献できる術がお前にあると?」
父親とほぼ同じ言葉を話す兄に俺はどう返答していいのか黙ったままでいた。兄は俺のことを出来損ないと断じているはずなのに、そんな俺を何故自身の補佐に任命しようとしているのか理解できない。
「あ、の、私では力不足かと。それこそ、お兄様のレベルについていけるようなより優秀な方が補佐をしたほうがよろしいでしょう。最近はお父様と共に公爵家として領地を治める仕事だけではなく、正式に王国軍の指導役、開発部門トップにも任命されたのだとか。私では補佐などできません」
兄は今、公爵家として領地を取りまとめる仕事を父と担っているだけではなく、王城に赴き王国軍と共に新兵器開発や訓練指導なども任されている。部屋の外で使用人たちが自慢そうに話しているのを聞いたことがあった。そんな兄の補佐など、より出来損ないの弟というレッテルを貼られに行くようなものだ。