ep.6 迫るタイムリミット
書斎からでてまた自室までの道のりを亀のような鈍足で歩み始めた。生まれて11年、これほど両親に恐怖した日もないだろう。まさか実の息子の命を軽々しく盾として扱うとは思わなかった。
「タイムリミットは、俺が誕生日を迎えるまで。つまり後1週間」
それはあまりにも短いタイムリミットだった。
ふと、書斎に向かっていた時と同様に外を見ると豪華な馬車が到着し使用人たちと両親がそちらへ向かう様子が見えた。例の王家の方々だろう。
「12歳の洗礼の儀を終えたら、逃げられるだろうか」
無理とわかっていることを独り言として零す。仮にも公爵家だ、この国のどこにも俺の逃げる場所なんてあるわけもなく、たとえ逃げられたとしても公爵家から差し向けられた追手に殺されることは容易に想像がついた。
そのまま自室付近に着く、遠目ではあるが俺の部屋の前に誰かが立っているのが見えた。
「誰?あ、…お、お兄様」
そこに立っていたのは、現在俺の将来の死因第1位に踊り出た原因張本人だった。
「来たか。どこに行っていた」
「あ、その、お父様に呼ばれて書斎に」
俺の言葉を聞いて兄はまるでルビーがはめ込まれたような赤い瞳を細めた。
「父に?何の話をしていた。今更お前に父が話しかけることなどないと思っていたが」
「ッッ!いえ、そろそろ私も12歳の洗礼の儀が近いので、その話をしました。お兄様申し訳ありませんが、私は部屋に戻りますね」
兄はどうやら両親が俺に影武者をさせようとしていることを知らない様子だった。が、余計な事は言わないほうがいい。一刻も早くその場を去りたい俺はそのまま頭を少し下げ、自室の扉を開けようとした。
「待て、話は終わっていない」
兄は部屋に戻ろうとする俺の腕を掴んできた。
「痛ッ!な、なんですか」
「12歳の洗礼の儀と言っていただろう、俺もその件でお前に話がある。」
「は、話ですか?お兄様が、俺に?」
兄は俺のその言葉にも表情を変えず、やはりただ目を細めるだけだった。