ep.5 公爵家の闇
いくら完璧な兄とは言え、命を狙われた時100%無事でいられる保証は当然ない。兄を含めた公爵家を守るために、今も毒見役や屋敷の警護を任されている使用人はいる。そして俺が今まで生きている中でその使用人たちは最短で3日、最長でも1年は持たずに殉職した。
そんな危険な仕事をしたい人間などいるのかと疑問に思うが、命の危険が伴う分給料が良いのだ。が、今その仕事に就かされそうになっているのは一応仮にも守られる立場であるはずの俺である。
「待ってください。確かに私はまだ何もこの家に貢献できていないかもしれません。ですが、それは…」
それは俺に1年以内に死ねと言っているようなものだ。とは流石に言えなかった。
「もちろん、お前が12歳の洗礼の儀で我が家にとって有用なスキルや魔法属性を持つことが証明されるのであれば話はなかったことにしよう。影武者もまぁ…どうにかノクスに似た他の人間を雇うこととする」
だが、と父親は続けた
「暗殺しに来る侵入者や毒殺を試みることも最近増えてきている。その上侵入者はだんだん強くなっているし、毒も盛られることが増えている。そしてそれは、ノクスと王女様の婚約が決まればより強まることだろう。殺しに来る者達も馬鹿ではない、顔つきを似せても魔力の波動や相貌が少しでも違えば当然気づく」
「そう考えたら、やっぱり血縁であるあなたが一番の候補なのです。わかってねルナード。あなただって、自慢の兄がこの国の頂点に立つと思えばこの役割は光栄だと思わない?」
両親は当たり前の様にそう告げて俺を見る。その目は息子を見る目ではなく『王になる息子を守る肉盾』としてのもので…
「せ、せめて12歳の洗礼の儀までは待ってください。そこでもしご期待に沿えなければ、ご要望通りお兄様を支える盾となります。それでよろしいですか?」
俺のその言葉を待っていたと言わんばかりに両親は笑顔を見せると、
「この後、アウローラ様と王妃様が我が家にいらっしゃる。お前は表に出ずとも良い。わかったら部屋に戻れ」
とだけ捨て置いて俺を書斎から追い出した。使用人が忙しそうだったのはそれか。