ep.3 突然の来訪者
そうして机に座ったまま本のページをただ無造作に捲り続けていると、突然ドアからノックが聞こえた。
「いるだろう、出てきなさい」
外から男の声が入ってくる。これは父親の声だろうか、最後に話しかけられたのはもう何年も前のことであまり自信がない。
「今行きます」
緊張しつつもようやく絞り出した声は少し震えていなかっただろうか。部屋のドアを開け上を見上げると、やはりそこに立っていたのは俺の父親だった。
「私の部屋まで来なさい。話がある」
何年かぶりの再会だったが、父親は俺の顔すら見ずに直ぐ去っていった。正直嫌な予感しかしないし、絶対に行きたくはないが俺に拒否権なんてあるはずもない。
「行くか」
朝の食事調達以来に扉から出て歩き出す。父親の書斎まで歩くことさえ久しぶり過ぎてつい色んなものに目移りしてしまう。
(忙しそうな使用人が多いな。でも誰も俺を見たりしない。別に見たところで呪われるわけでもないけど、よっぽど両親が怖いんだろうな)
廊下をパタパタ駆け回る使用人や、窓の外に見える庭を剪定する庭師たち。…誰か来る予定でもあるのだろうか?
そうしてしばらく歩いていると父親の待つ書斎の扉が見えてきた。案外時間もかからずについてしまった…ここまで来てしまったらもう覚悟を決めるしかないだろう。
「お父様、ルナードです。入ってもよろしいですか?」
「さっさと入りなさい。私もこの後予定が詰まっているのだ」
自分から呼んだくせにという言葉を何とか飲み込みドアを開けると、書斎には父親だけではなく母親の姿もあった
「それで、私に話とは何でしょうか」
「決まっているだろう。12歳の洗礼の儀についてだ」
嫌な予感が的中した。早速自分の部屋に帰りたくなったが、話が終わるまでは帰れるはずもない。
「母様とも話をしたが、この儀でもしお前に貴族として恥ずかしくない属性や魔力量、スキルが身につかなければお前をノクスの影武者として傍につかせることにした。」
「……は?」