ep.1 公爵家次男の朝は早い
「もう朝か・・・あまり眠れなかったな」
遠くから聞こえる鳥の声、まだ空は少しだけ夜の時間を残している。
もう少しだけ眠りたいと訴える本能を無視してベッドから降り、シーツを軽く整える。服を着替えて、部屋の窓を開け朝の空気を取り込み一日が始まる。
顔を洗って後、少し髪を整えようか悩んだがどうせ誰も見たりしないのだからと寝ぐせだけ直して部屋の外へ足を踏み出した。
フィーニス王国公爵家の次男、ルナード・アトルム。これが俺の肩書である。
公爵家次男が何故全ての身支度を一人でやっているのかって?当然、雇われている使用人たちは両親の命令で俺に関わろうとしないからである。
俺が兄のような「素晴らしい成果」を出せないことを理解した両親は、4歳の頃から存在を無視するようになっただけではなく、使用人にさえそれを強要した。それまで優しかった使用人たちは手のひらを返したように俺を空気として扱うようになった。となると、当然衣食住の全てを自分でどうにかしなければならない。
そうして俺は使用人さえも起きてこないような早い時間にこっそり厨房に忍び込んで自分の食事を用意するようになったというわけである。公爵家といいつつ俺の生活はおそらく普通に暮らしている民でもなかなか体験のないような最低のものであると自負している。
「お、パンと卵はあるな。後は野菜でスープを作っておけば1日は持ちそう」
厨房にある食材をいくつか使って1日分の食事を作り、それをそのまま自分の部屋に運べば今日の外に出る用事は終了だ。別に外に出ていてもただ周りの人間に無視されるだけだが、万が一にも『アレ』に出会うと少し面倒なため、俺は数年もの間自主的な引きこもり生活を送っている。