ep.11 世界の危機と提案
「本当に申し訳ないと思っているよ。本来ならお詫びとしてお兄さんと同じように私から力を与えるべきなんだけど、彼の時は生まれる前だったから強大な魔力に耐えられるような体とスペックを与えられたんだ。でも君の場合はもう生まれてしまっているのもあって彼と同等の力を与えると体がもたない。」
「それなら、俺が生まれる前にどうにかしてくれればよかったのに」
「それも難しくてね、世界の制約で私がこの世界の人間に直接干渉できるのは12歳の洗礼の儀を迎える時のみなんだ。それにこれ以上この世界に同じような力を持つ人間を増やすこともできなくてね…」
「兄はこの世界の人間じゃないから、それに当てはまらなかったということですか」
その言葉に神は静かに頷いた。なるほど、俺は本当にとことん運がなかったというわけだ。
「話はわかりました。色々納得できないことも多いけど…でも、諦めるしかないんですよね」
「いや、それは違うよ。諦めないために、君の言う結末を変えるためにここに呼んだんだ。そこのそいつもね」
神はお茶目な表情で後ろの龍を指さした。
「結末を変える?でも今、俺には何も与えられないって…」
「与えられないのは強大な力のみさ。やりようはいくらでもある!」
「いくらでもって…それに、その精霊獣が何の関係があるんですか?」
「あぁ、その説明もしようか。ほら!不貞腐れてないでいい加減に起きなさい!」
神は背後を振り返って龍を突き出す。
「別に不貞腐れてなどいません。話が長かったから暇だし寝ていただけです。決してあなたの尻拭いに駆り出されそうになっていることへの怒りとか感じていませんとも、えぇ」
「不貞腐れてるし怒ってんじゃん…」
「人の子、私が光の精霊獣であることはそこのダメ神から聞いていますよね。そもそも私はどこの土地へも降臨することはなかった。それは何故か知っていますか?」
「いや、ごめんなさい。本には載ってなかったと思います。」
俺のその言葉にフンッと鼻を鳴らすと白い龍は口を開いた
「本来精霊獣は各地に降り立ち、その土地の守護をする他に司る属性の魔素を創り出す力を発揮する役目があるのです。私は他の6体とは違い、精霊獣が持つ神から与えられた力が弱まったときのみ降臨します。」
「魔素を創る?」
「はい、魔素とはこの世界において重要なものです。魔力と掛け合わせれば魔法を創り出し、土地と掛け合わせれば動植物全てに影響を与えます。」
それは俺も本で知っている。フィーニス王国は闇の精霊獣が守護する土地柄、出現する魔獣や存在する植物も闇属性を兼ね備えたようなものや、夜行性のものが多い。
「各属性の魔素は創り出された傍から、全ての生きとし生けるものたちによって消費されていきます。ですが、それを上回る量を精霊獣たちは創り出し続けるのです。私はその精霊獣達の力が弱まったり、魔素を創り出せなくなったり、不足したりしてしまう緊急時に降り立ち、光の力でもってそれを治癒・支援するのが役目なのです」
「なるほど。?、緊急時に降り立つということは今何か起こっているということですか?!」
聞き流していたが、この精霊獣は緊急時にしか降り立たないのに神は外に出るように命じているということはその『緊急事態』とやらが起こったということでは?
「えぇ、なんせ魔素が足りなくなりつつある原因もあなたのお兄さんなので」
「は!?」
「ごめんよおおおおお」
もはや机にめり込む勢いで謝りだす神。そしてその神を睨みつけながら龍は話を続けてきた。
「あなたの兄は4属性持ちということになっている。というのをそこのダメ野郎から伺っているのですが、事実ですか?」
「え、えぇそうだと聞いています。」
「それは虚偽申告でしょうね。このダメ野郎、光以外の全ての属性を彼に与えているはずなので」
「全て!?じゃあ、4属性となっているのは?教会で確認するんだから偽造なんてできるはずも…」
「忘れたんですか?彼は生まれる前に神から力を与えられていますよね。この世界にただ生まれただけの人間とは違って彼は洗礼前から力を使えます。そして彼のスキルは創造、あの膨大な魔力と組み合わせれば最悪新しい魔法だって作り出せるでしょう。例えば『4属性の色を宿しているように見せる』とか」
いくら何でもインチキ存在すぎないだろうか。うちの兄は。
「でも何でわざわざそんなことする必要が?」
「少なくとも、普通の人間ならほぼ全ての属性を持ちつつ強大な魔力を有している存在など脅威としか捉えません。若いうちに芽を摘んでしまえと思われたら終わりでしょう。その辺を彼も想定していたのでは?」
「確かに、今でも国は兄が他国へ行くことを禁じているくらいですし」
白い龍は机に突っ伏したまま嗚咽を漏らしている神を爪で突き始めた。少し可哀そうに思わなくもないが俺の人生の大半が狂った原因だと思うと止めようとは思えなかった。
「話を戻すと、彼がほぼ全ての属性を持っている上にバカみたいな魔力とそれに耐えきる体を持つことで、彼が生きていく上で必要な魔素の量はとんでもないことになったのですよ。それこそ、残り200年くらいは問題ないと言われて、悠々自適な生活を送っていた私をコイツが急いで外に放り出そうとするくらいにはね。」
「ごめんんんん」
「ごめんで済むならこの状況になっていないでしょうね。弟であるあなたへ詫びとして同等な力を与えることができないのもそれが理由です。多分例え与えられたとしても今度こそ魔素が完全枯渇してこの世界滅びます」
「世界滅ぶんですか!?いや、光の精霊獣であるあなたがこの世界に必要とされているのはわかりましたけど、結局俺と何の関係が…?」
龍はため息を吐いて神に続きを話すように圧をかけ始めた。
「まとめるとねぇ、君が最悪の結末を変えるためにはどう考えても国の外に逃げるしかないし、彼には他の精霊獣と共に魔素の件を解決してもらうために世界各地を巡ってもらわなきゃならない。っていう目的が一致しているじゃん?なので、君に提案したかったんだよね!…引きこもりの最強種と旅する気ない?彼を連れ出してくれたら、お礼に3つの願いを叶えてあげる」
「私はまだ、外界に降り立つこと拒否してますけどね」
「ねぇ今かっこいいとこだったじゃん!!!」
なんだか色々台無しだし、色々混乱してきた。