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莠の凪  作者: 藤泉都理
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カンカン帽子




(まあ、護りに来たでも、護ってもらいに来たでも、どっちでもいいけど)


 駅弁があるわよと言った母の隣席に座り、海鮮づくし駅弁の蓋を開ける。

 カニのちらし寿司、カニクリームコロッケ、エビフライ、イカフライ、サケと玉ねぎのマリネ、タコ、ふきのとう、タケノコ、ニンジン、麩の醤油煮、イカ焼売、抹茶わらび餅。

 どこから手を付けてやろうか。

 ニタニタと笑いながらも、母とおばあさんの会話に、ふんふんと相槌を打つ。


 どんなに荒唐無稽な話でも、否定せずに話を聞く。

 未来から来ましたよとかいう話でも、こちらに何か害がない限り、何かを買わされたり居座られたりしなければ問題ない。


「で、暴走した私の世話焼きアンドロイドから身を護る為に、真っ赤なリボンを付けたカンカン帽子。あ、カンカン帽子って言うのはね、平らな円筒形の山に水平の縁がつく、麦わらを組んで作った帽子の事なんだけど。その帽子がトレンドマークの電気屋のおっちゃん。じゃなくて。そうそう。息子さんが後を継いだんだった。電気屋のおにいちゃんが私をタイムマシンに乗せてここまで連れて来てくれたの。アンドロイドの暴走を止める為に必要なものを探して来てくれって」


 おばあさん流れるように話すなあ、と感心しながら、ふんふんと相槌を打つ。

 芥子とイカ焼売、なんて美味しいんだ。


「それが、十代の私の抜け落ちたばっかりの髪の毛と、未来ではもう絶滅してしまった七星天道。漆黒の七つの黒点に赤色の肉食天道虫ね」

「へえー。あれって肉食だったんだ」

「そう。でも肉食ってだけじゃなくて、ある特別な力も持っていたらしいの」

「へえー。特別な力」

「そう。聞く前に乗せられちゃったから分かんないんだけど」

「私の抜け落ちたばっかりの髪の毛も?」

「そう」

「アンドロイドから狙われているって言ったけど、おばあさんは何か偉業を成し遂げた人なの?」

「いいえ。なーんにも。平々凡々。年を取ってからはとにかく健康寿命を伸ばそう、を目標に頑張っている」

「なるほど」


(天道虫まではいいけど。うーん。私の髪の毛、かあ。そこらへんに落ちてるし、なあ。一本渡したってどうこうなるかな。うーん。いやー、でも。うーん。糸でも渡して誤魔化すか。やっぱ他人に髪の毛渡すなんて嫌だし)


「期限は三日間。もしかしたらその間に刺客が襲ってくるかもしれないけど、あなたの傍にいたら大丈夫だって言われたし。やっぱり、己を護るのは己のみ。が鉄則なのよねー。だから」


 よろしくね。

 

 満面の笑みを浮かべたおばあさんに、はあと曖昧な相槌を打ちつつ、隣の母に視線を送れば、これまた素敵な笑顔を向けられて、どうか変な詐欺者ではありませようにと祈るばかりであった。


 海鮮づくし弁当はとても美味しかったです。










(2022.4.22)




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