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霊媒師ウラマチの悔恨②

「そんなある日のこと。残念なことに、人死にが出たんだな。聞くところによれば、亡くなったのは若い女性だったんだとか」


 緑茶を少し口につけると、ウラマチさんは立っているのが疲れたようで、自動販売機にどかりともたれかかった。


 悪霊に殺された女性。それは、わたしのことだろう。


 ウラマチさんは、どうやらこの場所の過去のことを知っているらしい。

 二人の会話に加わるかのごとく、わたしは自動販売機に近づいた。


「すると、不思議なことに、それ以降は幽霊騒ぎがなくなった」


「じゃあ、悪霊は成仏したっていうことですか。それにしちゃあ、今もーー」


「今、この場所には、私が思うに二人ぶんの霊が漂っている」


 言葉を遮られたハルヒコさんが、額を冷やしていた缶をかしゅりと開けてちびちびと飲み始める。

 途切れた台詞の続きを口にする気はないようだった。


「言うまでもなく、その悪霊と、殺された女性の霊だ。そして、これまた私の想像なんだがね、二人は多分、仲良くやっていたんだろうな」


「いやいや、まさか。殺したやつと殺されたやつが仲良くなんて、無理ですよ。おれだったら、殺した相手が悪霊だろうが、呪い殺しますね。それが無理なら、末代まで祟ってやります」


 本日二度目の笑い声。

 わたしも、思わず笑ってしまった。

 悪霊を末代まで祟る、などといった内容もさることながら、ハルヒコさんの真剣なのか冗談なのか分からない妙な調子の口ぶりが、笑いを誘って止まなかったのだ。


 仲良くしていたのかと聞かれて、迷いなく、はい、と答えられるほどわたしと彼女との仲が良好なものであったのだという自覚はないけれど、険悪な仲でなかったことは確かだろう。


「あくまでも推測だよ、これは。ただ、その女性の霊は、もともとここにいた悪霊の寂しさを紛らわすために、一役買っていたんじゃないかと思うわけさ」


「寂しさ、ですか」


「ここの悪霊は、幼い子供なんだよ」


 へえ、と声を漏らしながら、ハルヒコさんはちょりちょりと顎を掻いた。


 本人から聞いたわけではないけれど、彼女の寂しさを紛らわすために一役買っているというのは、わたしの認識と一致している。

 ハルヒコさんの連れてきた運転手とも霊媒師ともとれる男性は、いったいこの場所のことをどれだけ知っているのだろう。


「人死にを出したのは、寂しさを和らげるための仲間が欲しかったからなんじゃあないのか、とね」


 つけ加えるように、許される話じゃあないが、とつぶやいてから、ウラマチさんは深いしわの刻まれた口元をにやりと笑わせる。


「そう考えれば、それ以降被害者が出ていないのにも納得ができるし、だとすれば、仲が悪くちゃあだめだろう」


「まあ、そうなりますかね」


 気のない風に言って、ハルヒコさんはメロンソーダをあおった。


「それが最近になって、この騒ぎだ。いや、騒ぎと言うほどの規模ではないか」


「喧嘩でもしたんですかねぇ」


 やはり気のないハルヒコさんの言葉。

 にもかかわらず飛び出した当たらずも遠からずな喧嘩という表現に、わたしは目を見張ってしまった。


「そこまでは知る由もないがね。とりあえず、何か状況の変化があったのかも知れないな。若い女性の霊を見たという君の言葉を信じるのならば、殺された方が成仏したというわけではなさそうだが」


 そこまで言うと、ウラマチさんはよっこらせ、と口にしながら自動販売機から背中を離した。

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