真夜中のprime time②
しばらくすると箱の中からは案の定リングが姿を現して、目的の指に辿り着くと、満足そうに自動販売機の明かりをきらりと反射させた。
嬉しかった。
自分のことのように、という表現は、ちょっと違うような気がする。素敵な物語に触れた時の、満たされた気持ち。
嬉しくて、
嬉しくて、
嬉しくて、
寂しくなった。
理由は、はっきりとした理由は、分からない。
なぜか寂しくて、なぜか分からない。
置いていかれちゃった。
そんな言葉が、どう捉えたらいいのか分からない言葉が、心のどこかから浮かび上がってきた。
寂しさに、下を向いた。
二人の姿は見えなくなって、ドアの閉まった車内からは話し声が漏れて来ることもない。
わたしは、置いていかれてしまった。
めでたしめでたし。よかったな。
わたしは何をやっているんだろう。
後ろめたさが、もやもやとした切なさを巻きつけながらごろりと戻って来る。
こんな、虫の声さえも聞こえないような真夜中に、わたしは他人の色恋を覗き見て、いったい何をしているんだろう。
勝手にどきどきして、勝手にそわそわして、勝手に喜んで、勝手に寂しがって。一人で熱くなって、独りで冷めてしまって。
視線の先では、アスファルトが闇の中で冷たく横たわっている。
このアスファルトは自分の上で、わたしの前で、暖かい空気が育まれていることを知っているのだろうか。
そんな風に、思いを別の場所に這わせてしまっていたからだろう。
わたしはその声が聞こえてくるまで、異変には気がつかなかった。
「 」
知っている声だった。それでも、その声が何を言っているのかを理解するまでには時間がかかった。
慌てて顔を上げたのだけれど、手遅れだった。
彼氏さんに寄り添うようにして、狭い車の中で窮屈そうに、その子は、
赤い服の、その子供は、
お下げの女の子は、
笑っていた。
車の中から漏れてくる、悲鳴。
悲鳴の主は乱暴にドアを開けると、転げ落ちるようにして運転席から飛び出し、わたしのすぐ脇を通り走り去って行った。
呆然とするしかなかったのは、この一瞬のうちに何が起こったのかを把握できなかったからではなくて、この一瞬のうちに起こった出来事をどう捉えれば良いのかが判断できなかったから。
後ろ姿を追おうかと一歩を踏みだして、やめた。
視界の端に、一人取り残された女性が映る。子供の姿は、既に掻き消えてしまっていた。