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第四十一話 一党との一期一会


夜明け前に目覚めて、缶飯食って体操して準備して、夜明けの薄明の中、出立。

集落の門番に挨拶して、遮蔽物を退かすのを一緒になって手伝い、手を振って自転車を漕ぎ出す。

港町は北西だ。


--


今日は早朝から二人のラミアの朝ごはんにされそうになった。

前後から猟犬代わりの巨大地虫を合計四匹嗾けられ、自転車でダッシュで逃走。

変な網とか予め張られていたら危険だが、幸運にもそういうこともなく、容易に逃げることが出来た。



次は山賊6名、剣闘士も4名!

これは危険だ。

ただ、街道の周囲が草丈が低い、走りやすい地面だったので、躊躇せず街道から外へ出て力走。

逃げ切った。


ああいうのが待ち構えていたのなら、先行配達者が未帰還なのは、奴らの犠牲になったのではないだろうか?


--


午前中に今日一つ目の宿場に着いたので、道中の危険について教えておく。

ラミアだの剣闘士だのと聞いても、それほどは動揺しない連中が頼もしい。

茶と一膳飯を忙しく掻っ込むと、娘さんを呼んで勘定の銅銭を置いて、すぐにまたサドルに跨った。


--


昼前、無事に次の村に到着。

大体村が近づくと畑が広がってるから分る。

長老さんに挨拶して、立った儘自前の茶で喉を潤しながら旅の状況を話して、すぐに出発。


村はずれでまた落ちぶれた物盗りを見つけたが、自転車から降りもせず、突っ切った。


--


午後、今日三つ目の集落に到着。

ちょっと疲れたので、大休止。

村長さんとこで、お茶を貰った。

のんびり寛ぎながら、道中あった事を語る。

次の宿場の事を訊いて、旅立つ。


--


街道の右手から、侮れない敵、術者が登場。

できるだけ低い姿勢になって、関り合いにならないように全力で走り抜ける。


ジジ、パリパリと微かな音を立てながら光る物体が曲射軌道で空から降ってくる!

でも、それを自転車のお蔭で忽ちおいてけぼりにして、遠く去ることが出来た。

多分雷撃系の呪文だろうから、喰らったら術者の前衛として走り寄って来ていた小人達に捕まって、控えめに言っても酷い目に遭わされていた事だろう。

逃れられて良かった。


--


夕方、今日四つ目の集落、宿場に到着。

今日はここの旅籠でゆっくり休もう。

馬じゃないが、自転車を盗まれないように見て貰い、翌朝早く出立することを告げて、その夜はのんびり休もうと決めた。


----


旅籠の同宿者は四名の青年パーティ。

愉しそうに賑わってるので、情報交換と行こうじゃないかと、地酒を手に近寄った。

彼らが語るには──



魔道の学生ジョン、19才だと。

占い師の梢。年齢不詳、多分若いんだろうけど……不詳。

浪人侍の月影。若いけど十代ではないのは確実。

神殿の下っ端神官クイルラン。若い。


挿絵(By みてみん)


彼らはレイシア国の王都ミュクスナングで、同じ貧乏長屋で暮してる若い仲間。

ジョンは魔道を志す若い学生で、自分達の生活だけでも大変なのに、更に身寄りのない小坊主の伊能を引き取って育ててやってる。

それを仲間達も支えてやってる。

・・・毎月赤字である・・・


そんな中、南方の自治都市ナーストレンドの宿屋の女主人キャロラインさんが、とある事情から王都に留まっていたのが三月以上前。

やっと自治都市に帰る、というのでジョン達が小遣い稼ぎになるからと、護衛の名目で王都を出て、道中ハートゥーンで偉い人達とぶつかりそうになったりしながら、無事送り届けた。

護衛といっても大した危険にも遭遇せず、初めて見る辺境は珍しくて愉しかったらしい。


そんで折角こんな遠くまで出張ってきたからと、まだまだ未熟な連中でありながら、危険な「仕事」なんか請けたりして。

偶々そんな仕事が自治都市に残ってたそうだ。

古い不気味なお城にもぐりこんで、全身黒ずくめの物騒な連中と戦ったりしてしまった。

でもって、なんとかエラそうな人(?)までやっつけてしまった。

・・・意外に彼ら、大したモンであった・・・


「でも、やばそうだったり堅そうだったりする鍵開けはアタシが様子をみて開錠したし~、特攻して敵を切りまくったのは月影だったし~」

「僕だって、魔法できるからライトニングを連発して薬まで使ったりして、大活躍したんだぞ」

なんとなく次はお前の番的に皆から見つめられたクイルラン君が、自慢することが無さ気に、微妙な顔をしている。

それをフォローするかのように月影氏が盃を嘗めつつ、

「・・・いや、クイルランも囮の役をしっかりこなしていたような気もするぜ・・・気のせいでなければ」

「ま、いーや。しかしそのあと、脱出には苦労したよ~」

そう言って酒に手を伸ばす頬の赤い梢に代わり、ジョンが話のあとを継いで

「敵の首領はやっつけて、でも流石に俺達も怪我してたりしたけど、怪我に効く魔法が使える僧侶の人がいないから休むしかないんだ」

クイルランがコップで顔を隠す。

「流血の部屋はやだし、通路を移動していたら残党には見つかるし、とりあえず逃げるかと思ったら下の広間は手下が巡回してて見つかりそうになって慌てて逃げ込んだのは狭い階段部屋さ」

「あん時ゃハラハラしたね~」

頷く月影氏。

「怪我が治るまでそんなとこに隠れてのんびりしてるわけにもいかないので、テキトーに疲れが取れたところでまたそっと覗いてさ、抜き足の差し足の、でやっと逃げ出した。で依頼達成して今此処」

ほへえ~

「結構な冒険してきたんだねえ、無茶にも程があんよ! 若者の特権? ま、もう一献」

「お、どうも」

「あ、あたしにももう一杯っ」

「お前はそのくらいで止めておけ。限界を見究められない者の後始末はせぬよ」

「それってまた僕に吐いたこの人の介抱しろという宣言なのでしょうか」


わやわや言ってる連中と別に、治癒の手も覚束ないらしい下っ端神官さんが話し掛けてくる。

「えっと、ヤスエさんでしたっけ」

「いや、ヤスコだよ、クイルラン君」


そこへいきなり頓狂なはしゃぎ声で割り込んでクイルラン君の努力をぶった切る娘。

「ねえねえ! ヤスコってアタシの故郷の名前じゃない! 安泰の泰子? それとも井上靖の靖子?」

「井上靖の靖子だよ。っていうか、なんでアンタ井上靖なんて知ってるの!? 人名じゃん」

「ん~、人名だよね? 有名な小説家だよね? やっぱアタシの故郷の人か! うひょー! お姉さんごちになります!」

「ええ……(困惑)」

「ごめんなさい、この子、もう酔っ払ってるんですよ」

「そうみたいだねえ、なんか不思議なことも口走ってたけど……あ、一応言っておくけど、多分あたしこの子と同郷じゃあ無いと思うよ。偶然の一致があった気はするけど」

「随分お互いに話が通じ合ってたようでしたけど、そういうこともあるんですねえ」

盃を置いて、おちついて箸で肴をつまむ浪人が、

「いや、俺達は同郷だろう? 井上靖は俺ですら知ってる有名な作家だ。靖子という名前からしても、ひわの国の生まれで間違いなかろう」

「いや、ひわじゃないよ、あたしはにっぽんという国の生まれ。ね、違うでしょ?」

「だが、他国に井上靖という有名作家など二人と居るわけがない」

「そこはあたしだって不思議に思うけど、事実としてあたしこそこんなとこで、そのひわという国にも同名の有名な作家さんが居たなんて聞いて、とても驚いたよ」

「にっぽん? 聞いた事がない名前ですね、その国は」

「にっぽんだし、にっぽんの首都は東京だし。いや、京都が正しいという論もあるけど」

「ひわの首都は『しはら』だな」

「いや『しばら』でしょー!」

「酒で濁ってるおつむで首都の音を濁らせるな、『しはら』だ」

何やらあっちでも論争がある模様。

今のうちに肴を摘まむ。旨い。

「靖子殿はたしかにひわの産だと思ったが……なにか仔細な事情があるのであろうか。もしも逃れてきたのだとして、此処は海を越えた遥か遠い大陸の果ての地。良ければ力にもなり申そう」

予想外に食い下がる浪人に、箸を持ってない方の手を振って

「いあいあ、本当に無いから。 ひわという島国から逃れなければならなかった事情なんか。あるのは異国じゃなく、異世界から来たという事情でね? お姉さん、魔法とか魔道とか無い世界から来たのよ」

「マ……! あ、いや、それは、召喚されたという事でしょうか!?」


やっぱりそういう話題に抵抗も無く、食いつきかたも違うか、魔道学生さんは。

きっと世界の不思議を日々追究する変わり者でないと成れないのが魔術師なんだろうし。


「違うと思うよ? あたしン家に、なんか知らないうちに変な穴ができてたから、探検してたらこっちの世界に出られたんよ。行ったり来たりしてるんよ。これがもう愉しくてやめられないんYO」

「そんな事が! こっちの何処に出たのですか!? その穴って、僕も通って逆にそっちの世界に行けたりするんでしょうか!?」

「おいおい、お前そんな、今日知り合ったばかりの女性にいきなり無理言っちゃいかんぜ」

「うっすいません」

この勢いだと、「この間お城の騎士さんたちがうちに来たよ」とかうっかり言えないなあ、絶対来るだろ。

「あのぅ、あのぉ、ちょっと訊いてもいいでしょうか? ヤスコさんはこれから南方へ行かれるところですか?」

「うんにゃ? 南のロンドヒルスから西のルートゲルトの港にちょいと用があってさ」

意外そうな表情で神官は、

「あれ、そうだったんですか!? 前の村でも街道でも、俺達とは会いませんでしたよね」

「うん、ちょっと急いで来たもんで、追いついちゃったんだね」

「そうだ、ヤスコさんはどうしてルートゲルトまで?」

「それは秘密だよ。仕事でと言っておこう」

「ああ、『仕事』ですね、分りました。訊いてすいませんでした」

「おっと、まだ『仕事』中だったんですね」

「俺達は大仕事が終わって羽根を伸ばしてるところだったんで、つい気を抜いてた。すまない」

「いいよいいよ、あたしも実はこれが初仕事で、お互い聞かないもんだってことも今知ったくらいだからさ」

「おっ! 初仕事ですかあ! 何となく見当がついちゃいましたけど、黙って応援することにしますよ」

「応援はするが、金は出さない。それが俺達の正義」

「懐かしいなあ、その」

その時、娘が動いた。

「うぅ、きぼちあうい」

警報発令!

侍と目が合って、促された魔道学生が渋々といった風で、娘を厠へ連れて行った。


ふう。

「やっとこれで落ち着いて食える」

盃に注いでやり、

「いい子だよね」

「……そう、だろうよ」

一言だけで、色々な含みが理解できるこの浪人侍も、若そうなのになかなかだ。

苦労しているんだろうな、と苦笑して、自分の頼んだ皿を彼の前に押し遣ってあげる。

そこへ、心労が凄そうな三等神官さんが、

「えっと、あの」

「悪かったね神官さん、何度も話の腰折って。それで、聞きたいのは何だいね?」

「すいません、さっき訊きたかった事はもういいんですが、それより道中の話を伺いたいです」

「ロンドヒルスの町から街道を結構早く走ってきててね、昨日のお昼前くらいに出て、今日此処」

「速いですね。馬にでも乗ってるんですか?」

「まあ、似たようなものだね。それで、食い詰め者はともかくとして、ラミアとか呪術師とか剣闘士くずれの山賊なんかと行きあったね。足が速いから全部逃げ切ってきたけど」

「おぉ、二日でそれだけ出会いましたか、結構高頻度ですね」

「やっぱりそうかい。昨日はそんなじゃなかったんだよ。今朝からだ。四つ前の集落を出てから、頻度が高かった。あんたらもこれから先は少し気をつけた方がいいだろうよ」

「助言、感謝する」

「貴重な知らせで、助かります」

「まあ、ここまでの区間がとりわけ危険になってただけかもしれないけどさ、ほら、これも食べなよ」

「ああ、有難う。こっちも旨いぞ」

「うん、さっき食った、もう一皿頼もうかな」


暫くすると、へろへろの梢を介抱して出てきたジョンが

「よっこらしょっ、と。もー寝てろよ、いいなー?」

「ん……」

さてと、明日も早いし、と彼らを後にして、先にゆっくり休んだ。


--


翌朝、お勘定を済ませて、自転車で出立。

旅は続く。



拙作を御読みいただき、ありがとうございます

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