第四話 いよいよダンジョンに第一歩を
更に翌日。
またまた事前の準備作業。
(´・ω・`)まあ、慌てる乞食は貰いが少ないっていうし
何事も慎重に用心して準備を重ねて行かないと。
太腿部分はプラスチックの外殻が無くて、他と較べて装甲がちょっと薄いのが気になる。
ツナギの上のチタン板だけだ、一枚あるだけかなりマシではあるが……。
その上にカーゴパンツを履いてるが、これは上半身の警備服と違って防御力は皆無。
今は何か買うゆとりがないし、どうしようか?
発泡スチロールも金属板も余ってないし。
適当に木を当てておこうかな……
前に剪定して沢山切ってあった、直径2cmくらいの庭の梅の枝が玄関の隅っこに沢山あったのを、拾い上げて長さを揃えて切り直し、刺々しくいっぱい突き出てる細い突起をちまちまカット。
それを作業ズボンの上から、身体に合わせて一本一本太腿にダクトテープでべたべた貼り付ける。
気休め程度の即席防具だが、薄っぺらい合成樹脂の板と同程度の防御力は得られたろう。
変に嵩張ってるのが欠点だけど。
チタン板で腿の裏側が守られていなかったので、特に注意してみっしり敷き詰めるように貼り付けた。
但し、太腿側面ポケットの上は貼らずに空けておく。
ポケットには『中和剤』を──右ポケットに重曹、左ポケットにクエン酸──販売時の袋のまま放り込む。多少の重さはあるが、まあ良かろう。
救急用のキトサム止血包帯も一応念の為にポケットに突っ込んでおいた。
封を切って傷口に押し当てるだけで効果的に止血できる使い捨ての救急パッドだ。
こんな分厚く重ね着してたら、使う機会あるかどうかわからんけど。
こんな分厚く重ね着してても切り裂かれたら、それはもう止血包帯程度では駄目なやつなんじゃないのかと。
鎧の上から腹に太いベルトを締め、工員の道具入れを幾つもぶら下げる。そこに幾つかのブツを放り込んでおく。なくしても構わないが、あると便利そうなものだ。
それとは別に武器を入れて運搬する各種容器を吊るすベルトも巻いてある。
武器は最初はベルトに挿し込んでダクテ止めにしていたが、色々改善を試みた結果、この方が咄嗟に引き抜き易かった。
武器も一部は長柄化加工を施したりしたから、そういうのは運搬方式をかなり変える必要があったし。
もう着ないシャツで一部裁断してしまったものなど、薄っぺらいボロ切れがあったので、それを『敵が掴んでも剥れる』ようにする目的で一番外側にガムテで簡易貼り付け。
さて、これで準備は良かろう。
まだ時間があるし、少しだけ行ってみるか。
鬼が出るか、蛇が出るか。
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押入れに身を屈めて入り、古新聞の上に腰を下ろしてブーツを履き、ツナギの裾を、チタンの臑当てと作業ズボンとプラスチックの臑当てごと、ブーツに入れようとしたが、無理だったので、最外殻の樹脂製臑当てだけ取り除き、編み上げ紐を締める。これ、鬱血しないといいけどな……やめた。
押入れから身体を引き出すと、畳の上でムートンごしに腰を下したまま、作業ズボンの足首のファスナーを開き、中のチタンの臑当てを一旦外して、ファスナー締めて押入れに潜りなおし、ブーツを履いてから外側にチタン製臑当てと樹脂製臑当てをどうにかとりつけた。マジックベルトがぶち切れないか心配だし、あまりしっかり固定されてないような気がしたので、ダクトテープで巻いた。
毎回ブーツ履く度にこれやるの?
いいんだよっ、今はとにかく行こう!
愈々、初のダンジョン行だ。
観音開きの扉を開き、全開にする。
暗い。
左手にランタンを提げて、点灯。
左右の腿にダクトテープで貼り付けた軍用のL字ライトも点灯。
左が前方、右が後方へ光を照射する。
一歩目から罠があると嫌だから、一歩を踏み出す前に、まず杖で空中や地面を探ったり、見えづらい上方を手鏡とライトで観察したりして、問題ないと当たりをつけてから、足を中へ踏み出した。
最初の日にいきなり頭を突っ込んだのはちょっとやばかったか、と今更ながら思う。
踏み出した処は押入れの床よりも少し低かった。
一歩目は、どうやら問題ないようだった。
ダンジョンだから、光が異様に闇に吸われて視界が利かない、なんてこともあるかと怖れていたが、今のところはそれはない。ホラーチックに今後そういう展開もあるかもしれないが、そうなったら恐らく死ぬ時で、気づいた時には間に合わないってのが相場だろうから、覚悟を決めて前進しよう。
おっと、その前に、入ってきた処が消滅していたりしないか、確認しよう。
問題なかった。ちゃんと押入れに戻れるのを確かめて安心する。
安心とは言え、壁にぽっかりと口を開けてる出入り口を見ると、ダンジョンの中に怪物が居たら、幾らでも家の中へ入り込んで来てしまうのではないか、と不安になった。
押入れに残した幾つかの長物を次々に容器に格納。
最後にクロスボウを取上げて、右肩にスリング。
再び盾と金剛杖を握り、ランタンも左手に持つ。
うーん、ちょっと持ちづらい。
一歩ごとに前方を叩いて確認して進む。
洞窟に見えるのに不思議と湿気もない乾いた空気の闇の中、ランタンだけでもそれなりに視界が得られるが、更にライトで照射しているのでかなりよく見える。
それでも踏んでいる砂っぽい地面がじゃり、じゃりっと音を立てるだけで無音の闇の中を、自分唯一人だけで行くのは、恐怖を感じずには居られない。
ドキドキする。
岩の壁と天井、岩と砂と土の地面。平滑ではなく、凸凹がそれなりにある。歩き慣れない環境で、うっかり転んだりしたら痛そうだから、一歩一歩用心して歩く。
少しだけしか進んでないが、まだ何にも出喰わさないうちに、先にランタンを掲げる盾を持った腕が重たくなってきてしまった。
(´・ω・`)これはどうも上手くないなー
引き返す。
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ダンジョンから出てきて、扉を閉めた。新聞紙の上でグローブとブーツを外す。
よっこらしょ、と重たい身体で押入れから出た。
すぐに畳に腰を下ろす。
ヘルメットとゴーグルとマスクを外す。
はあー、疲れたっ。
今回はランタンが重かったし、もしもゴブリンやスライムと戦闘になったら、地面にそっと置くとして、ランタンが地面スレスレまで下がるから光が遮られたりして視界が悪くなる。どうしよう。
そうだ、三脚だ。
クローゼットに突っ込んでおいたアルミの三脚を取り出した。
自分ではカメラ撮影などする趣味はないのだが、先日亡くなった叔父の遺品として貰ってきたものだ。
これに紐を結んで、そこにS字環をとりつけて、ランタンを引っ掛けた。さっきより重くなったが、ダンジョンに入ったらランタンをつけた三脚を左腕に抱える。
抱えれば少し身体から離して照らせるから、わざわざ掲げようとしなくて済む。
左肘で三脚とランタンの重量の均衡をとることで抱えやすくなる。
右手の金剛杖で地面を確認しつつ前進、いざ遭遇・戦闘となったら、一旦金剛杖を左手に持つか急ぐなら放り出して、三脚を下して適度な高さを保ってランタンで照らし出し、盾を構えて守りつつ、武器を掴んで引き抜けばよい。
家の中でその動きをイメージして、ちょっと試しに動いてみる。
実際やってみると、杖は絶対に放り出すべきだと思った。
左手がごちゃごちゃして扱いに気をとられるようじゃ、いざという時には致命的だ。
では、二度目のダンジョン突入だ。
その前に、トイレ……
分厚い重ね着のデメリットを痛感。
洩れる寸前にやっと便座に座れた時の安堵感といったら……ふぅ。
とにかく不慣れなことだらけで、何をしても疲れる感じがする。
今日はもう仕舞いだ。
さっとシャワー浴びよう。
拙い綴りをお読み戴き、有難うございます。