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第三十七話 ふつかめいろに


大休止。



敵の死体は通路に転がしておく。

迷路や死人の荒野では、魔物の屍骸は転がしておけばそのうち吸い込まれるように消える。

焼却処理しなくて済むので楽だ。

このダンジョンではきっと、半魚人の方が色々と例外だったんだろう。

部屋から自分で出てきたり、死体が消えなかったり。


負傷者は居ない。

ただ、術で水を呑んだり叩きつけられたり、拘束されてたりしただけだ。



それにしても、盾を背負ったまま戦闘に入るのは、転んだ時にどうもあんまり宜しくない。

転んだ時に起き上がろうとしても盾がえらく邪魔だった。

盾が球面のような丸みを帯びていれば、そんなことにもならなかったろうけれど、俺の盾は単なる平たい板だからなあ。


盾をどうしようか。

ゴブリンや盗賊相手には要らないし、逆に鬼みたいなパワー系相手なら、構えていても真上から叩き潰されてしまうだろう。

別に要らないかな。


矢でも射掛けられない限りは。

槍を防ぐにもいい。

貫通力のある刺突武器から身を守るには、鎧だけじゃ心許なくて、盾が有用だ。


なのだけれど、必要となった時には、既に構えておかなければまず間に合わない。

常に全力で盾を構えて防禦に専念しているわけじゃないから、切替が難しい。


難しい道具だなあ、盾も意外と。

やや大きめのバックラー、くらいのが使いやすいかなあ。

左右の前腕につけて、顔と鼠径部を咄嗟に庇えば、よほど貫通力がない限り、ほぼカバーできそう。

でもないか。

腋とか、今回ひやりとしたけど、防具で護ってないからな。

チェインメイルがあれば良かったのに、無いから、隙があるんだ。

腋の下だけチェインメイルがほしい。あと鼠径部と膝。

「昔、膝に矢を受けてしまってな」

とか言いたくない。

まあ、いいや。

左肩にスリングでひっかけて、左肘にかけておこう。

それで射撃投擲に気づけば咄嗟に頭を隠すくらいはできるし、左からいきなり突き刺されても防げるし。


鮫剣は抜き身で右肩に担いで、10フィート棒は左腋と左手。


長柄武器を後ろ腰に提げてるのも、これも宜しくない。

戦闘に入る前に、使わない武器は近くに抛り出して置かないと、身体を自由に動かせずに危険だ。

あと、もうちょっとじっくり走りこんで、鮫剣を振り回し続ける体力をつけないとな。

端的に言って、鍛え方が全く足りてない。

幸い、敵剣闘士を倒して、奴らの剣を鞘と腰の剣帯ごと手に入れた。

それを三人分全部貰えたので、当分は剣には困らなそうだ。

自作の長柄出刃と鮫きりは、哀れ充分な活躍の場も得られずに、とりあえず完品を収める袋へ退場。



腰に帯を巻き、剣を一振り佩いた。

何度も鞘を払い、剣を振っては、また納める。


剣闘士の片手剣も悪くない。

盾と一緒に使えるのが良い。


「どう、それ? うまく使えそう?」

仲間の手当てを一通り終えたシコーキがやってきた。

「大丈夫! 軽い軽い!」

「そう、良かったわね」

「三本とも貰ってよかったの?」

「うちで貰っても一旦鋳潰して打ち直すことになるから、すぐ使いたい者が居るならそっちへ回した方が無駄が無くていいわ」

「ふーん、そんなもんなんだ」

「自分の剣を持てるのは騎士の証なのよ、近習は見習いだからまだ持てないの」

「戦利品みたいに他人の手垢がついた剣は厭ってことか」

「騎士の魂だからね剣は」

「剣闘士が持ってたじゃん」

「あれはあれ、これはこれ、他の民も騎士でない戦士が剣を持ったりしているけど、レイシアのようにこの大陸に覇を競う国々で王に仕える騎士の間では、そうじゃないってこと」

「兵士さん達は長い槍と短剣だよね。剣は持たせないの?」

「予算の都合でね……充分な数の兵士に行き渡らないのなら、槍だけの方がマシという判断ね。槍衾は戦場では強いから」

「あ~、なるほど。わかった。ならこれは有難く貰っておくよ。凄く助かるから!」

「遠慮なんかすることないわ。でも柄は革を巻きなおしたほうがいいし、研ぎなおしておかないと駄目。疵や欠けはいいけど、罅とか割れとか無いか、よく確かめないと駄目よ」

「うん、わかった。有難うね」


荷物は荷物持ちさんに運んでもらって。

これでいつでも行ける。


--


また10フィート棒の出番だ。

ぐっぐっぐっぐっ、と前方をよく観察しながら、床5壁2くらいの割合で押しまくる。

あまり早く行かなくてもよい。

急ぐとマッパーさんの負担が増えてしまう。

その点、マーカーさんは気楽なもんで、楽な分は後方警戒・後衛さん達の護衛を兼任してる。


--


通路の先の暗がりから、毒霧が漂ってきたらしい、シュッツが警告してる。

ここはシールドとマスクで護ってる俺の出番だ。

俺を残して、隊列を50フィート後ろまで後退させてゆく。

少しだけソロな気分が出てくる。

敵が迫ってくる。

グリーンモンスみたいな感じの厭な怪物だ。

ゆさゆさ、のそっ、のそっ。

ぐおお、と不気味な腕を伸ばしてくるのへ、

「オウリャッ!」

と鮫剣でブチかませば、ずばあっとまあよく斬れること。

斬られても迫り来る怪物に、右に左に斬り削りつつ後退。

痛みなんか感じないんだろうな。

毒をまともに吹きかけられるとシールドにべったり付着して見えなくなって、慌てて腕で拭う。

毒霧を撒かれて床が濡れてるので、転ばないことだけ気をつけつつ、間合いは適当に勘で計って、腰より下まで太い体駆を細切れにしてやって、やっとそれ以上動かなくなった。

足元に転がる濃緑色の塊を、どうしようかと、悩ましく思った。

良い毒を瓶にでも保存できれば、戦で使えるんじゃないのかと。

でも未知の毒は研究を充分にしてからでないと危なくて使えないから、今は捨て置くとギデア様が決定。


吹きかけられた毒が厄介で、綺麗に拭い去らないといけないのに水が足りないから、撤退することになった。

俺も顔を早く洗いたい。

酷く爛れたりしてもシコーキに治して貰えるけど、なんとなく気持ち悪くなったとか微妙な場合にまでいちいちやってもらうわけにも行かない。

今度は最後尾を皆と離れて尾いてゆく。


----


撤退先だが、ギデア様の希望で、俺の家になった。

だいじょーぶかな?

前から疑問だったんだけど、うちの押入れからダンジョンに入った俺以外が、(でぐち)を認識できるのかな?

よくラノベであるじゃんね、「見えない」と云われるパターンが。


まあ、とりあえず近いし、うちなら水道でじゃぶじゃぶ洗えるから。

毒って本当に厄介だなあ。

次から何か対策とらなくちゃあね……どうしよっか?



真っ暗な中央通路を、俺チャリ、シコーキキックボード、あとの皆には悪いけどひたすら走ってもらって、ダンジョン最初の部屋に帰って来たぞ。

開放してある扉から洩れて来る天井の岩の灯が明るいな~、いつもながら。


「本当に話していた通りね!」

キックボードのおかげで余裕しゃくしゃくのシコーキ。

残りは余裕はあるけどハアハア息していてあまり会話に入れない。

「あの部屋の先がうちだよ~、あとちょっと!」

「いきなり御免ねえ。ご家族さんを驚かしちゃうわね」

「ああ、まあそうなったらなったで仕方ないけど、多分まだこの時刻なら、おそらくだけど皆まだ留守だと思う」


でなかったら俺も即座にOKは出さない。

いつもの洗浄場で除染する心算だけど、濯ぎは……濡れてるのはポリ袋に入れてシャワールームで濯ぐ。


「ちょっと待ってね」

全員が最初の部屋に入ったところで、中央扉に閂をかける。

いつも通り、短く切ってある鉄パイプ三本の出番だ。

それから最初の扉を開けにゆく。

【訓練場】への扉はいつもきちんと鎖だけはかけてある。

さっと鉄鎖の下を潜って──扉下部にべったりと毒が移ってしまった──通路側からシャックルを外して全開放。

みんながさっさと通れるようにした。

みんなが居るから、多分開けっ放しでも大丈夫だろ。

この時点でうっかりL字ライトの電池を替えてないまま点けっぱなしにしていて、光が暗くなってるのに気づいた。

家で取り替えないと。


拙作を御読み頂き、有難うございます。

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