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7・勉強会


 『異世界帰還』をはじめようーーーなどと思ったはいいものの、現実はそうそう上手くは行かない。

 あの後、ナターシャと話し、今後の協力は得られた。

 『楽しそうね♪異世界の技術!』とナターシャは言ったが、実際問題の所、時間が足りないのだ。

 食事を得る為にしている村の手伝いだけで半日以上を費やしているし、アンナさんに教わっている勉強もまだ終わっていない。

 ナターシャも一部の村人や、領主の問題から、村に居続ける事は難しい。

 グレタさんに相談し、畑の時間を減らして、採取の時間を増やして貰い、その採取の合間にナターシャと話をする生活が始まる。

 そして、夜はアンナさんとの勉強会だが……。


 「おかしい」

 

 パンタシアの言葉をほとんど覚えてしまったのだ。

 元の世界に比べれば、語彙も少なく、物体も少ないので覚える単語が少ないので、覚えやすいのは理解出来る。

 けれど、たった一度教えられたものを発音も含めて問題なく出来るのは流石に異常だ。

 異常なのはそれだけではない。

 パンタシアの知らない筈の知識を思うと、稀に激しい頭痛と共にその知識を得る事がある。

 まるで知っていた事を思い出すかのように……。

 しかし、これで得られる知識は、村での生活と齟齬を感じる物も多い。

 特に頭痛と共に思い出した食事風景は久しぶりに食欲を掻き立てられる物だった。

 村での食事は生きる為に食う物であって、美味しい!食べたい!って感じの食事じゃないからな……。

 まるで、誰かの記憶を覗き込んでいるかのような違和感。

 誰かの記憶であるならばと昔を思い出す思考をすると、思い出すのは元の世界でした幼馴染達との馬鹿な思い出ばかりだ。

 "鷹藤 勇吾"幼馴染連中の中でも一番行動を共にした奴で、小学校の頃に低学年をイジメる高学年の連中を相手取って喧嘩したのが、思い出深い。

 その妹の"鷹藤 優衣(うい)"とも仲が良い。

 そう言えば、最初に会ったのは優衣だったな。

 勇吾と快の遊びに付いて行こうとし、置いてかれて迷子になっていた所で俺と会い、そこを戻って来た勇吾が勘違いで俺に殴り掛かり、俺は殴られた仕返しと妹を置いていく無神経さ腹が立ち喧嘩にしたのが連中との付き合いの始まりだった。

 他にも快、伊緒名、貴暁の幼馴染-ズに加え、今では翠歌も加えたメンバーで良くつるんでいた。

 少子化の影響で校内の部屋が余っているからと同好会にも部室が提供されると聞けば、同好会を建て、そのメンバーで放課後に屯っていたものだ。

 

 「はぁー、駄目だな。良くない」


 ホームシックにでもなってるのか?

 困った状況の時に良かった頃の思い出を思い出すのは良くない兆候だ。

 とりあえず、この知識が誰の記憶の物だろうと、俺は思い出せて、その上でおそらくだが、これの影響で言葉を覚えるのが早かったのだろう。

 利用できるのなら、この現象が何故起きるのかも、誰の記憶かもひとまずはどうでもいい。

 今はそこに重要性はない。

 今、重要なのはこの記憶か知識かを上手く利用できるかどうかだ。

 利用できれば、この世界で生きていく上で上手く立ち回れるかもしれない。

 ひとまず、直球で異世界への帰還方法を"思い出そう"としてみる。


 「ゥぎ……、ぅん、これは?」


 激しい痛みと共に見事に思い出す。

 

 「マジか……」


 無いだろうと思っていた内容だけに驚く。

 その内容は二つの世界の物体を入れ替える魔法の事だ。

 細かい術の構成までは俺に知識がないからか、霞掛かった様に思い出せない。

 けれど、この記憶の持ち主は元の世界とこの世界を繋げる方法を知っていた訳で、そうすると、この世界の何処かには二つの世界を繋げる魔法がある筈……、待てよ?

 この記憶で思い出せたのは二つの世界を繋げて、その世界の物体を入れ替える魔法だ。

 この魔法の効果は、条件をある程度絞れるが直接指定できないので、入れ替える物を知っていないといけない。

 こちらが指定する物はいいが、向こうから送られる物は魔法陣に書き込んだ内容を満たした"何か"となる。

 さらに少なくとも、術者が等価だと思う物を魔法式に組み込まないといけない。


 「駄目だ。この魔法は穴だらけだ」


 この魔法では帰還の役には立たない。

 一に、繋げる先の異世界が一つとは限らないので、飛んだはいいものの、違う世界に飛んでましたとなりかねない。

 二に、いざこの魔法で帰還するとなった場合、俺はこの世界の物体として飛ぶわけだが、俺が自らと等価だと思える物を向こうの世界から選ぶ訳だが、この条件に明文化できる物という条件も加わる。

 当然、魔法式に文字として書き込む訳だから、書き方は箇条書きでもなんでもいいが、明文化は必須だ。

 もし、少しでもズレが生じれば、意図しない物と交代したり、最悪の場合、向こうから送られる物と俺が等価だと思うものが俺の身体から奪われるかもしれない。

 三に、座標指定の問題だ。

 これは一個の個体と個体が交換された場合は問題ないが、こちら一に対し、向こうから三個も四個も交換された場合、その物体があった座標のどれか、もしくはその物体の座標の中間に飛ぶ可能性もある。

 そうなった場合の最悪のケースは、飛ばされた時点での座標に送られたり、その中間に送られた場合、宇宙空間に放り出される可能性もある訳だ。

 他にも細々と試してみないと不安な内容が魔法の内容にある。


 「はぁー、楽は出来ませんねってことか」


 まぁ、元々はこの記憶を考慮に入れてなかったので、そういう魔法もあるって事でいいか。

 いや、待て。

 記憶、交換、等価……。

 まさか、俺と入れ替わりに向こうの世界に渡った人間がいるのか?

 いや、しかし、てっきり、あの黒い化け物がこの世界と繋がった理由だと思っていたのだが、そうすると、あの黒い化け物はなんだ?

 そもそも、俺はこの魔法でこの世界に呼ばれたのか?

 ここで考えていても仕方がない事なのだが、なんかモヤモヤするな……。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 パルウム密林、ナターシャが住む場所で、魔物の生息が極端に少なく、採取の面でも質の良い物が取れる場所でもある。

 しかしながら、このパンタシアの大地において、有数の危険地に近いこの森に採取に来る者は少なく、同じく近隣に住処を構えるファブール村の糧となっている場所だ。

 その場所で採取の仕事を済ませ、ナターシャの所に寄り道する。

 

 「蒼司だ。ナターシャ、居るか?」


 ノックをしながら声を掛ける。

 

 「―――、うぅ~ん。はいってゃー」


 発音は怪しいが、入って良いと言う事だろう。

 少し躊躇うが、すぐに行動に移してドアを開ける。


 「え?」


 ドアを開き、疑問符で頭を埋め尽くされる。

 室内にはベットの上でナターシャが薄いシーツに包まれ、シーツから零れる様に生足が太腿の辺りまで露わになっている。

 さらに、寝起きといった様子のナターシャは、こちらに背を向けながら寝ていて、シーツはその背中を隠さず、ズレていた。

 その所為で、室内に足を踏み入れようとした俺の視界にはかなり扇情的な光景が繰り広げられている。

 

 「んー、着替え着替え、どこやったっけー?んぅん?こっちかな」


 ごそごそと目を覚ましたナターシャが動き出す。

 けれど、寝起きの状態で異性を部屋に上げるナターシャの警戒心が強い訳もなく、こちらに尻を向け、フリフリと振りながらベットの周辺を探っている。

 尻に僅かに引っ掛かったシーツがその揺れに合わせ、ゆっくりと、僅かにズレていく。

 小柄な割に尻がデカいのか、揺れてズレていく割にシーツは引っ掛かったままだ。

 その様子をハラハラしながら見つめる。


 「ゴクッ」


 意識せずに喉が鳴る。

 このまま見ていていいのか?この後気まずくならない?なるよね……。

 どうしよう?え、どうするのが正しいんだっけ?

 意図せずに女性の着替えだったり、際どい姿を見た時にどうすればいいのかなんてわからん。

 いやいや、待て待て、見なければいいんだよ!

 なんで気が付かなかったのか、気が付くのを本能が拒否でもしたのだろうか?

 なんであれ、気が付いたからには対処するべき事柄である。

 慌てて目を瞑り、振り返ってから室内を出て、ドアを閉める。

 ドアに寄り掛かり溜め息を零す。

 すると、室内から衣擦れの音が聞こえて、気程の映像がフラッシュバックする。

 ハーフドワーフだからか、ナターシャはかなり小柄だ。

 独り立ちしているのだから、子供って訳でもないのだろうが、小柄なその体躯は幼いとも評せるもので、見てはいけないもの感が凄い。

 しかし、俺も年頃の男なので、自分から見ようと思わずとも、視界に入ってしまうと抗い難い。

 この場合、室内に入る許可を出したナターシャが悪いとは思うのだが、勝手に罪悪感を覚える。


 「ねー、どうかしたー?入って来なよ」


 「着替え終わりました?」


 罪悪感から敬語になる。


 「ん?おわったけど」


 「それは、はい。良かったです」


 改めて室内に入り、ナターシャに向き直る。

 先程までと違い、短パンと厚手のキャミソールの様な物を着ている。

 

 「それは?」


 「それって、この服の事?これは普段着」


 ファブール村で見た服とは大分意匠が違うが、そもそもの話、村の服の方がおかしいのだ。

 着てさえいれば、後はどうでもいいとばかりに服装。

 資金面など、仕方がない事もあるのだろうが、なんとも日本の現代の常識からすると、ホームレスの方が上等な服を着ているとさえ思える。


 「で、これが作業着!」


 ドヤ顔でツナギの様な服を着始め、ドヤる。

 まぁ、安全面的にも、短パンとキャミソール姿で作業する訳ないだろうとは思ったが、どんな環境でも人は似たような物を作り出すものだと感心する。

 元の世界にある物がこの世界にもあったりするのは驚きもするが、同時に納得も出来る。

 それだけ、これまで人は新しい何かを生み出してきたんだ。

 今までの物に何にも依らない物体を作り出す事は不可能な程に。

 だから、この世界で生まれる物も必然、元の世界に在った物か、あるいは在る物と類似点を含んだ物が多いだろう。

 

 「さぁ、準備万端!ねぇ、早く異世界の知識を教えて」


 さて、どんな事から始めるか。

 知識から与えて実践してもらうか、それとも実践形式で教えながら簡単な物でも作って貰って、ナターシャの腕を確認しながらやるか。


 「じゃあ、ノコギリとかって作れるか?」


 「ノコギリ?それってどんなの?」


 どんなのって聞かれると説明が若干難しいなと思いつつも、説明していく。

 正確に何時の時代から在ったかは知らないが、十何世紀だかには水車を利用したノコギリの様な物があったし、その原型に至っては古代とか太古と言って差し支えのない時代から在った筈だ。

 まぁ、切れ味も含め、俺の知っている物とは大分違いがあるだろうが……。


 「って感じだ。分かるか?」


 「ん、返しって言うの?その左右に刃を曲げるというか?」


 「正式名称は覚えてない。悪いな」


 多少知識があろうとも、十数年生きただけの学生なんだ。

 持っている知識にも偏りがある。


 「どっかで見た事あるんだよな~?」


 「見たことある?」


 ノコギリを?

 いや、さっきも思ったが、多少環境が違えど、人が作る物だ。多少の共通点は存在して当たり前とも言える。


 「あ、思い出した。古文書だ」


 「古文書?」


 「うん。昔あった技術を書いてある書物で、文字が読めないから、詳しくは分かんないけど、その本に載っていた絵にそっくりな気がする」


 「昔に存在した技術か、それはどうして今も使われていないんだ?」


 「あーと、魔法があれば要らないからかな?」


 「いや、流石に魔法があるのと、この技術があるのは別じゃないか?」


 「魔法が発達しきる前は、魔法以外の技術もかなりあったらしいんだけど、魔法が発達するにつれて、魔法で代替、もしくは上位互換できる物は全部排除したって」


 「排除?」


 「うん、排除。相当昔の話だからどこまでホントかは知らないけど、魔法で世界を支配してた国が在ったんだって」


 支配、そこまで魔法って便利なのか?だとしたら、この世界の貧富の差は意図的に作り出してる物か?


 「それで、その国の一部の人間が残して置いたのが古文書。でも、知識や経験者とかは長命な種族でも生きてないぐらいの昔だから、現存するのはいくつかの古文書だけで、私がいたドワーフの街にも一つあったわけさ」


 それにノコギリが載っていたと……。


 「その魔法を広めてた国ってのは?」


 その国に行けば、異世界からの帰還方法も分かるかもしれない。


 「それも、相当前に滅んでるよ」


 「滅んだって、なんで?」


 魔法が発展してたんだろう?


 「昔は魔物も少なかったし、危険度も高いのがいなかったらしいんだけど、急に強い魔物が大量発生して、魔法も戦闘用魔法もほとんどなかったから……」


 「魔法が発展してたのに、か?」


 「うん、それで慌てて、戦闘魔法を発展させようとしたんだけど……」


 時すでに遅くって奴か。


 「滅ぶ前に、魔法ともう一つ、人間の魔物や動物との融合実験をしてたんだよ」


 融合実験、キメラとかそういうのか?

 倫理観とかを無視すれば、有効なアプローチの一つかもしれないな。

 

 「それで色々あって亜人が生まれたって訳」


 大分端折ったな。


 「亜人って?」


 「ああ、そっか。まだ見た事無いか。有名なのは犬人のクストス族、猫人のシャガット族、兎人のバニット族かな?」


 「つまり、亜人ってのは獣人の事か?」


 「獣人も亜人に含むってだけ、どの種族からも排斥されてるけど、魔物と合成させられた魔人とかいるから」


 亜人は作られた種族の合計で、獣人は動物と混ぜられた人種、そして、魔物と合成させられたのが魔人。

 他にも種族は存在するだろうが、今は重要度が低いので後回しで良いだろう。


 「で、その魔法大国は亜人とも揉めて、魔物とか亜人との戦いに負けて追いやられて滅んだ訳」


 「でも、人は国を作って生きている。って事は、まだ何かあるんだろ?」


 「その国から避難したり、見切りを付けて脱出していた人たちが国を作ったの。それがこの辺り一帯を治めるアスファレス王国」


 「ほー、そうすると、周辺に沢山の国があるみたいだが、元々はアスファレス王国から分離していったのか?」


 「そう言うのもあるでしょうけど、それとは別口に逃避した先で集落やら村から発展した国もあると思うよ」


 なるほど、確かに逃げた先が一カ所とは思えないから、ナターシャの言う通り、その魔法大国の滅亡で方々散っていき、そこで国を立ち上げ、さらにその国が分裂していったって形だろうな。


 「じゃあ、アスファレス王国って由緒ある感じなんだな」

 

 最初に出来た事が分かっている唯一の国と言う事だろう。

 さらに、現在まで残っているのだから。


 「そうだよ。まぁ、もう何代も前から衰退し始めてるけどね」


 「衰退?」


 「知る訳ないか……。そう、衰退」


 「何かあったのか?」


 「ん~、この土地の事も詳しく知らないんだよね?じゃあ、グレタとか、アンナとかに聞いた方が良いと思う。私の情報はどうしてもドワーフから見た外の情報になっちゃうし」


 「そうか。分かった」


 気にはなるが、そう言うのなら仕方ない。

 話を終え、ノコギリや金槌など、設計図を詰めていく。

 設計図と言っても俺がどんなものかを書き殴り、それをナターシャが質問しながら直した物だ。

 それにノコギリはまだしも、金槌なんかは釘打ちとしてではなく、武器としてのハンマーや金属の加工に使う大槌や小槌もあるので、設計図とよりも寸法の書いた紙といった有り様だ。

 

 「明日までに試作品作っておくから!明日はいよいよデンキの話ね!」


 「明日!?試作品を一日で作るのか……。分かったよ。理解してもらえるか分らんが、明日は一回電気とかのエネルギーの話をしよう」


 やる気に満ち満ちているナターシャに別れを告げて、村へと歩を進める。



更新しました。

次回更新は二週間後です。

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