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6・開拓者達


 グレタさんは石造りの家の扉の前に立ち、扉をノックし、呼び掛ける。

 

 「ターシャ!」


 「「…………」」


 少し待つが、まったく返事はない。

 再びグレタさんがノックする。

 それでも、それに答える声はない。


 「どこかに出掛けてるんでしょうか?」


 それぐらいしか返事しない理由を思い付けず、グレタさんに質問する。


 「いえ、出掛けてませんよ。いつもの事です」


 いつもの事?

 グレタさんの呆れた声を聞きながら疑問に思っていると爆音が響く。

 

 「これ、大丈夫なんですか!?」


 「大丈夫、大丈夫です。多分ですけど、本当にいつもの事なので」


 いつも?これも?

 職人だと聞いたが、この世界の常識が向こうとは違っている以上、この世界の職人が俺の職人とは乖離している可能性が出てきた。

 俺としては、職人とは生産業みたいな加工ができる人、特に鉄の加工などが出来れば、この世界に知っている道具がなくとも、知っている道具を作って貰えるかと思ったのだが……。

 この世界の職人も魔法でどうにかする物で、この爆発音も魔法の使用の際に出る音とか?

 この世界で未知の現象に出会うのは楽しくもあり、同時に怖くもある。

 まぁ、グレタさんの態度からも今回は危険はないのだろうから、純粋に何が起こっているのだろうかという疑問と興味本位の気持ちが強い。


 「ゴォー!」


 扉の向こうから低く唸るような声がする。

 そして、扉がゆっくりと開いていく。


 「けっふ!けっほ!」


 扉の向こうから黒煙と共に現れたのは煤汚れた少女だった。


 「もう!またそんなにしてぇー、大丈夫?」


 グレタさんが煤少女に呆れた様子で声を掛ける。


 「ん?なんだグレタか、驚かさないでよ」


 「驚いたのはこっちだよ。いつも通りと言えば、いつも通りだけど……」


 さっき言ってた通り、いつもの事らしいな。

 それはそれで大丈夫か?


 「それで、大丈夫なの?」


 「あー、うん。『大丈夫、大丈夫』なんてね♪」

 

 少し茶目っ気のある様子で『大丈夫、大丈夫』と発音する。


 「それは私の真似のつもりかな?」

 

 グレタさんは煤少女の肩を掴んで目を見据える。超怖い。


 「ちょ、ちょっとふざけただけじゃん。そんな怒んないでよ」


 「悪質な真似の仕方をするからだよ。私は心配してるの!ちゃんと大丈夫か答えないのが悪い」


 「分かった、分かった。大丈夫だから、ふざけてごめんってば」


 なるほど、大丈夫ってワード、特に二回繰り返すのはグレタさん特有の口癖なんだな……。

 で、それをからかわれたと……。

 でも、村で見るよりもグレタさんの表情は豊かで、心配している様子も含め、何処か楽しそうに見える。

 おそらく、この煤少女は気兼ねしなくて済む、数少ない友達なのだろう。

 煤少女がこちらを見ている。

 俺を気にしているのだろう。


 「ん、まずは―――」


 そうだな。俺も自己紹介をしなければ―――


 「ごはん!」


 そう言って、食事の入った籠を俺から奪い取る煤少女。


 「……もう」


 グレタさんが溜め息を吐きながら頭を抱える。

 俺は呆気に取られ、その場には煤少女の咀嚼音だけ響く。

 

 「はぶっ、ガリッ!むぐむぐ」


 食事中に話しかけるのはあまりよろしくないのだろうが、初対面の人物を無視するという失礼な行為を向こうから働いたのだから、こちら側も考慮する必要はないだろう。


 「どうも。俺は蒼司と言います」


 この世界では、苗字を持つ者は極端に少ないらしく、必ず持っているのは貴族ぐらいで、後は大商人などが金銭で買う物だ。

 そこら辺の経済に関してはまだ、詳しく調べられていないのだが、どうやら、通常は遺産を引き継ぐのに金銭が必要で、引き継ぐ際に税金を払う必要があるらしい。

 けれど、苗字を持つ者は相続に掛かる税を一律にするという法律みたいなものがあるらしい。正確には法律とは違う様だが……。

 つまりは土地、家、畑、家財など、個別に相続税を払わずとも、遺産という名で一纏めにして払える制度だ。

 普通の農家とかそういう所では苗字を獲得する為に払う程の価値はない。

 でも、貴族や大商人の場合は引き継ぐ遺産が莫大な為、それら一個、一個に相続税を払うと金額的に結構な額になる。

 その為、どれだけの遺産が在ろうと、払う額が一定になる制度が必要だったと言う訳だ。

 まぁ、簡単に纏めれば、金持ちが必要以上に損しない様に、同じく金と権力を持った貴族が作った制度だな。


 「ぅぶん?わだぢは、ゴクン。ナターシャだよ」


 口に食べ物を詰め込んだまま答えようとして、グレタさんの圧に負けた煤少女、改め、ナターシャは口の中に詰まっていた物を嚥下して答える。

 

 「えーっと、ナターシャさん?よろしく頼みます」


 「よろしく?なんで?」


 『なにを』ではなく『なんで』と来たか……。

 これは中々に面倒な手合いかもしれない。

 つまり、これは何で私がよろしくしなければいけないのかって話をしているのだろう。


 「ターシャ、ソージは異世界人なんだけど、ナターシャに頼みもあるみたいで」


 グレタさんが間に立って話してくれる。

 森に来るまでに話した職人がいるなら頼みがあるという話も通してくれるようだ。


 「異世界人!?!」


 何だ?凄く驚いているが……。


 「よろしく」


 改めて、簡易的に挨拶する。


 「嘘吐き!!異世界人はこの世界の言葉は喋れないんだよ!!」


 えぇ……嘘ではないのに、滅茶苦茶キレてらっしゃる。


 「私の純情を弄んで何が楽しいの!?」


 純情!?


 「ちょっと、ターシャ。落ち着いて」

 

 「これが落ち着いていられますかってんだ。グレタは知ってるよね!私の憧れ異世界人様!なのに、なのに―――」


 憧れ?様!?何が何だか……。


 「いいから、落ち着きましょうね?」


 「「……はい」」


 何故か俺まで答えてしまった。

 怒鳴る訳でもなく、声量がデカイ訳でもないのに、グレタさんの呼び掛けには、従わなければと思わせる何かがあった。

 ……ちょっと、怖かった。


 ―――

 ――

 ―


 それからしばらく、グレタさんによる説明が入る。

 途中で再びヒートアップし始めたナターシャにグレタさんは根気強く説明していく。

 その間、俺はと言うと、手持ち無沙汰になったので、森や周りに咲いている花を眺めて寛ぐ。

 ふと見ると、肩で息してる二人が立っていた。

 どうやら話し合いは終わったようだ。


 「あ、終わりました?」


 「……はい。でも、ソージさん?良い御身分ですね?」


 グレタさんは、何やらご立腹のご様子だ。

 まぁ、面倒を押し付けた感じだからな……。

 

 「あはは、まぁ、なんというか、すいません」


 「はぁ。まぁいいですけど」


 「今度何かお礼をしますから」


 今の俺の状況で出来るお礼なんてたかが知れているが、これでも俺は恩義だけは忘れないと自負している。

 ポンポン。

 聞き慣れた音が聞こえてきたと思ったら、いつの間にか俺はグレタさんの頭を宥めすかす様に叩いていた。

 

 「あの~、これは?」


 「ああ、すいません。つい癖で」


 幼馴染の妹、まぁ、その子自身も幼馴染なので幼馴染って説明だけで当てはまるかもしれないが、その子の身長とグレタさんの身長が近かったので癖でやってしまった。

 俺が行方不明になって、優衣も元気にやっているだろうか?や、優衣は大丈夫か。

 心配するなら翠歌や勇吾や貴暁なんかの方がよほど心配だ。

 優衣と伊緒名、それから快なんかはそれなりに上手くやるだろうが、他の三人は偶に気持ちや勢いのまま突っ込むからな。

 いや、待てよ?兄貴である勇吾が絡むと優衣もすぐに対抗しようとして気持ちを乱すからな……。

 そういう意味で頼れるのは伊緒名か……。

 快はマイペースというか、自分の事中心というか、趣味に全力というか……。まぁ、場をかき乱す様な奴ではないから問題はないか。

 こう考えると、なんとも纏まりのない面子だな。バランスが悪いと言うか……。

 そんな事を思い出しつつ、考えていると、なにやら視線を感じる。


 「異世界人様♪」


 「ナニコレ?」

 

 ナターシャのキラキラとした妙な視線にたじろぎつつ、グレタさんに疑問を投げかける。

 

 「さっき、ターシャ本人も言ってましたけど、異世界人に憧れてるんです」


 「……異世界人はやっぱり珍しい訳ですよね」


 「そうですね。珍しくはありますね」


 アンナさんも村に来たことがある人は数人とか言ってたからな。

 だからか?

 しかし、物珍しさがあるのは理解するが、珍しい事が憧れる理由って訳でもないだろう。


 「物珍しいのもあるのでしょうけど、稀人は知識が豊富な事が多いですからね」


 「知識ですか」


 確かに、稀人……つまり、異世界人が日本人を指すなら、最低限の知識は有しているだろう。

 けれど、実際はどうだろうか?

 実際の所、日本人が転移して来た所で、大抵の人は言葉の壁で詰まるだろう。

 それを乗り越えても、今度はこの世界でも当てはまり使える知識があるかという問題も出てくる。

 例えば、小中学校では年々と薬品を使った実験が減っていると聞いたが、知識という文字だけで会得した物を見知らぬ世界で実際に出来るかと聞かれれば、答えはノーだ。

 より正確に答えるのであれば、難しい、あるいは出来ない人も多く居るとなるだろう。

 体験に勝るものなしと言われる様に、体験に勝る知識はない。

 料理に例えてみようか。

 普段ある程度料理をする人でも、初めて魚を捌くのを文字や言葉で伝えられた知識のみで上手く捌くのは難しい。

 じゃあ、魚を捌ける人に『目の前の獣を血抜き処理して解体しろ。目の前で指示はしてやる』と言われても、毛や内臓の処理なんかの理由で難しいだろう。

 特に獣の解体なんかは力仕事だから、料理が出来ても女性だと筋力面で厳しいに違いない。

 俺だってこの世界に迷い込んだ際に、哲夫という偉大な先人が居なければ、あるいはその娘で日本語を扱えるアンナさんが居なければ、更には哲夫が手記を二つの世界の言葉で同じ内容を残していなければ、俺はここまで早くこの世界の人とコミュニケ―ションを取れなかっただろう。

 では、他の異世界人がこの世界に豊富な知識を残したと?

 可能性としてはゼロではない。

 改めて読んだ哲夫の手記には『それぞれの文化を尊重する為、私はこの世界に外科的な医学以外の知識は持ち込まない』と書かれていた。

 便利にだからという理由だけで、一方的な善意の押し売りをしない哲夫の考え方は尊敬に値するが、そういう考えに至る者の方が稀有かもしれない。

 でも、先にも考えた通り、この世界で知識を披露する為の敷居は高いと言わざるを得ない。

 その敷居を飛び越えて、異世界人は知識が豊富と言わしめた人達、そう人達がいるのだ。

 たった一例では『異世界人』とはならないだろう。『異世界人の中には』となる筈だ。


 「けれど、稀人の方はどうにも知識を出し渋る方が多くて」

 

 「そうなんですか?」


 哲夫と同じ考えの人が多かったのか、それとも、知識のみで実践する程の深い知識がなかったのか、あるいは自らを高く売り込む為に知識を隠匿したか。

 なるほど。そう考えれば、先程の言葉の意味も理解出来る。

 つまりは、実際の"知識"を放出し終えてても生きながらえる方便にもなる訳だ。


 「ターシャはドワーフの血が入っていますから、その"知識"に興味津々なんですよ」


 そう言えば、ファンタジー物ではドワーフと言えば、鍛冶職人とか炭鉱夫みたいなイメージがあるな。

 後は寸胴の男ってイメージも……。

 そういう意味では目の前のナターシャは低めな身長と元の世界での一般的な人に比べると、やや体付きも良い。

 貴暁がこの場に居れば『ナイスバルク』と言うだろうと思わせる。


 「あ、ドワーフは鍛冶を得意としてる方が多くて、小柄なのに筋力も強く、採掘も得意なんですよ。ただ、商売の相手は選ぶと有名ですけど」

 

 名称は知っていてもどういう種族かは分からないと思ったのか、グレタさんからの追加情報が入ってくる。

 日本で娯楽作品のアニメや映画に触れていれば、一般教養とも言えそうなぐらいに知っている情報が正しいと教えてくれる。

 ここまでくると、この世界に迷い込んだ人が向こうに情報を持ち帰った可能性もあるのでは?


 「……魔法なんかはほとんど使えないけどね」


 「でも、自分では使えなくても、武器や防具に魔法効果を付与するのは得意じゃないですか」


 「それぐらいしか褒める所が無いの!あんまり良い様に取るなよぉ」


 同族嫌悪って奴か?

 ナターシャはドワーフの良い所を挙げるグレタさんに噛み付く。


 「でも、本当に凄いと思いますよ」


 「うがぁー!ダメダメだよぉ!あいつらは仕事中も、仕事終わりも、休みの日すら、ずぅーーっと飲んだくれてるんだもん」


 「それは確かに嫌ですけど」


 個人の自由だと弁護したい所だが、種族、あるいは集落全体で酒を飲み続けるのは確かに問題がある。

 まぁ、酒豪なイメージで日本の教養通りだ。


 「しかもだよ!イビキは五月蝿いし、何よりも食事が土くれだよ?!信じられる!?」


 つちくれ?つち?……土?もしかして、土くれって事か?

 食事とかけ離れた言葉に頭の中で上手く変換できなかった。

 そっかー、土食べちゃうかー。


 「しょうがないじゃない。そういう種族ですから。それに普通の食事だって摂れる訳ですから」


 なんだ、土も食事になるだけで、主食って訳ではないのか。

 勘違いする所だった。


 「頻度が低いの!三日に一度だよ?グレタはそれでいけんの?」


 「あーと、私、人間ですので……」


 「いやいや!私だって半分人間なんだから、グレタと同じでしょ!ちゃんと人間の味覚を持ってるの!確かにドワーフ譲りの頑強さはあるけども!」


 まぁ、気持ちは分かる。

 簡単に例えれば、菜食主義の人が焼肉大好き人間の集まりに頻繁に参加するような物だ。

 本人からすれば『コレジャナイ』感が半端じゃないだろう。


 「じゃあ、ナターシャはそれが嫌でドワーフの村、集落か?それを出たのか?」


 少し気になり問いかける。


 「う~ん?無いとは言わないけど、それよりも人間の技術を知りたかったからかな?」


 技術か。確かにこの世界の技術力は俺も知りたい所だ。

 ファブール村の生活からのみで、この世界の技術力を判断するのは早計だ。

 元の世界の技術や知識を知っている身からすれば、バランスに欠けている可能性はあれど、一分野、あるいはそれ以上の分野で、この世界の方が高い技術力がある可能性はあるのだから。


 「で、居場所もなく彷徨って、あの村に保護されたって事」


 なるほど。詰まる所、俺と同類って事らしい。

 けど、それじゃあ、どうしてこんな所で暮らしているのか?少し疑問に思うが、ファブール村の人の全てが善人って訳でもないのが理由だろうと考え直す。

 グレタさんやアンナさん、ファティマさんからの庇護があるから生活出来るが、村の中でも偶に面白くない物を見る目を向けられる。

 それは完全な同族とは言えないナターシャにはもっとだっただろう。

 この世界に限らず、人は他者との違いに価値を見出し、己の価値観を基準に他者に優劣を付ける生物だ。

 自らの人種は優れているのだから、それ以外の人種は劣等種だと、そんな価値観は世界中の情報にアクセスして、世界中の価値観を覗けるようになった今でさえ、在る。

 まぁ、冷静に考えれば、異世界人とか名乗る奴の方が警戒対象だろうとも思うが、これも哲夫の遺産だな。

 本当に先達には感謝しかないね。

 

 「食事も毎日ではないけど、持って来てくれるしね。大助かりってね」


 「それはお互い様だよ。ターシャには鍬や機織り機も直してもらったでしょ?他にも薬剤の調合用の道具も作ってもらってから」


 「そう、他にも便利道具も開発してあげてるしね」

 

 開発?つまり、発明家って事か?


 「……そうですね?」


 おい!グレタさんが首を捻ったぞ!


 「何ぃさ!便利でしょ私の発明品!」


 「うん。便利な物もあるね?」


 疑問形、所により否定。


 「うぅっ!?!何が要らない子だってのさ~?!」


 ナターシャが半目で抗議する。

 発明品を子供と称する人種の様だ。

 自分が作った物を子供の様だと言う人は結構見るが、実際に会うのは初めてだ。


 「何が、と言われると……、そ、そんな事よりも!」

 

 落ち込んだナターシャの様子に、グレタさんが慌てて話を変える。


 「ソージさんが道具が欲しいらしいんだけど」


 「道具って?」


 「えーっとそれは―――」


 グレタさんが困った様にこちらに視線を寄越すので、俺は話を引き継ぐ。


 「家を修理する為の道具だな。コウグって言っても伝わらないよな……」


 「家の修理ね。流石異世界人!アスファレス王国で建築に魔法を使わずにやるなんて」


 ナターシャまでこんな反応か……。

 でも、発言というか、言い方に違和感があるような……。

 ……そっか、アスファレス王国って、この国に限定してるんだ。


 「アスファレス王国以外では魔法で建築するのは普通なんだな?」


 「普通かは分からないけど、他所の国では建築は魔法以外でもやるよ」


 「そうなんだ?!」


 グレタさんが驚く。

 俺としてはグレタさんから聞いた話に納得いってなかったので、ナターシャの発言に納得できた。


 「でもじゃあ、なんでこの国では家を建てるのに魔法を使ってるの?」


 長年の知識との食い違いにグレタさんが疑問の声を上げる。


 「そんなの魔法の有用性の維持の為でしょう!」


 有用性の維持?


 「魔法なんて、本来は生活する為に必要ないものだもん。だから、普通の生活に魔法を使用する事を組み込んで、魔法の必要性を高くするの。そうすると、おのずと魔法を扱える貴族と、その貴族の出の三男、四男とかが暮らす場を作りつつ、貴族の必要性から反乱も起きないってぇこと」


 なるほど。貴族の地位を不可侵にする為か。

 すべてがナターシャの言う通りかは不明だが、納得は出来る。


 「理解出来た。それで、建築に使う道具は用意出来るか?」


 貴族の地位の向上とか言われてもピンっと来ないグレタさんが疑問符で頭をいっぱいにしてるのを感じながら、ナターシャに問う。


 「う~ん。出来る事は出来ると思うけど、でもソージの世界と同じ物ではないと思うよ」


 「だろうな……」


 そこまでは高望みが過ぎるってものだ。

 使い方さえ教えて貰えれば、なんとかなるだろう。


 「そこで!異世界の知識で、異世界の道具を作るってのはどぉう?いいアイディアだね!」


 自画自賛!?


 「作るって簡単に言うがなぁ」


 元の世界に在った物は太古から色んな人が気付いて、築いてきた物だ。

 ある程度原理を知っているからと言って、簡単に作れるモノには限りもある。

 いや、建築に使う工具ぐらいなら何とかなるか?

 さすがに電ノコとか電動の釘打ち機を作る訳でもないし……。


 「でもなぁ?技術力が違い過ぎる」


 「どういうこと?」


 基本的な技術は勿論だが、この世界には発展性を見出せない。

 例えばだが―――


 「エネルギーとか、デンキ、デンリョクって知ってるか?」


 「エネルギー、デンキ、デンリョク?!何それ!どんなの!」


 興味津々といった様子でナターシャが食い付く。

 エネルギーの説明って意外にしんどいぞ……。

 腕を振るだけでも発生する物だが、それとなくでも概念を知ってないと把握できるかどうか……。

 だけど、元の世界でだって、一人で、瞬間的に理解した訳じゃ無い。

 地動説しかり、多くの困難や苦難に見舞われながらもその声を上げた、もしくは行動に移した人がいるから、元の世界は発展していったんだ。

 電気の生まれ一つ取ったって、ニコラ・テスラやエジソンが一代で作り上げた物じゃない。

 発見者達、琥珀に電気を溜めたと言われるターレス、電気と空から落ちてくる雷が同系統の物だと発見したフランクリン。

 そして発明者達、電池を作ったボルタ、磁石とコイルを使って気軽に電気を溜めれるようにした『電気学の父』ファラデー、発明王と称され数々の物を作ったエジソン、そのライバルとも言われ交流電気方式など現代の電気の基礎を作った二コラ・テスラ。

 電気工学一つでも、偉大な開拓者達が何年にも何代にも亘って切り開いてきた物なんだ。

 普通にやっては何年もそれこそ、二千年近くの時間が必要になるかもしれない。

 でも、ここには異世界人と呼ばれ、その開拓者達が蓄えた知識の一部を持つ俺がいる。

 簡単ではないだろうけど、それでも可能性はある。

 遺跡を調べようにも魔法師は村におらず、魔法師は貴族の出の人間だけだ。頼むのにも金が掛かるだろう。

 この世界の知識だって全然足りてないし、村への恩返しの方法だって考えてる最中だ。

 もし、ナターシャの発明が上手く行き、金に成るなら村への恩返しにもなるし、ナターシャは異世界の知識と実績も金も手に入り、そして俺だって遺跡の調査する魔法師を雇う金だって手に入るかもしれない。

 この世界に来て、初めて光明を見出している。

 勿論、そうそう上手くは行かないだろう。

 それでも、いつ帰れるとも知れずに日々を過ごすよりはどれだけ良い事か。

 ここから、はじめよう『異世界帰還』を―――。



更新をしたつもりで一回すっぽかしました!すいません。

このままもう一話投稿するか悩みましたが、来週に投稿する事にしました。

許しておくれ……。

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