第1話「散る前に」
A「ねぇ、来月取り壊しなんだって……」
B「何が?」
A「私たちが昔住んでたとこ」
B「そっか……」
A「最後に、見に行かなくていい?」
B「いいよ……」
A「もう二度と行けないよ。いま建物を管理してくれてる人が、特別に解放してくれてるんだって」
B「だから……いいって……」
A「でもさ……」
B「あそこは過去なんだよ!! ……っごめんっ……俺、もう行くわ……」
A「ちょっと! ……待って!」
(Bが出ていき、扉が閉まる)
A「午後から……雨降るって……」
(Aのその声は独り言になってしまう)
(土砂降りになり、傘を持たないBは雨宿りしていた)
B「いま降ると……今年、桜は早めに散るか……」
(Aが探していたBを見つけた)
A「あ! 居た!」
B「追いかけて来たのか?」
A「傘。コンビニのビニールだけどね?これ届けに来たの。今持ってないと思って」
B「ありがと……」
A「うん!どういたしまして」
B「桜……」
A「ん?」
B「桜……散る前に見に行かないとな……」
A「そうだね……せっかく蕾をつけて冬を耐えたんだから」
B「明日、行こうか」
A「どこに? 花見?」
B「ううん違う。昔俺たちが住んでた場所。行っても何も変わらないかもしれない。でも今行かないと一生嫌な思い出だけが残っちまう」
A「うん! 楽しい思い出も沢山あったもんね! じゃあ、久しぶりに帰ろうか」