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世界は廃忘と共に  作者: 依神十和
第一章 聖都陥落編
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第一節 七項 物語の始まりは暗闇と共に

吉野に連れられて、俺達は長室から観測室に移動してきた。

目の前には幾つものホロディスプレイが連なっていて、一つには画面いっぱいに広がる雄大な草原が、一つには真っ赤に燃え上がる炎が、一つにはまるで中世のヨーロッパの街並みの様な景色が、他にも様々な景色が映し出されていた。

 

「このホロディスプレイの映像は、すべてリアルタイムで観測されている世界各地の映像で、観測員はこの映像と各地に設置している機械から送られてくる気温や酸素濃度などの様々な情報を観測して、この記録所在書を作成するのが仕事なんだ。」

 

ホロディスプレイの下にいる観測員の前にも、ホロディスプレイのパソコンがあって、その画面には、記録所在書と呼ばれている書類が表示されていた。

 吉野は、観測員のパソコンを借りるとキーボートを操作して画面に数字やグラフを表示させた。

 

「この数字やグラフは、機械で計測された気温や酸素濃度を数値化して変化がわかりやすい様にグラフ化したものだよ。」

 

確かに数字の横に英語で文字が書かれていて、それが画面が切れるまで続いていた。しかし、英語をほとんど知らない俺は、何が書かれているのかまったく分からなかった。

 吉野は画面に直接触ってスワイプさせていると、一番下に気になる文字が書かれていた。


―――――――――――curse  54%――――――――――――


 やはり何の意味か理解は出来なかったが、その文字が示す数字だけ他の数字よりも大きく表示されていたから、何か特別な意味でもあるのかと思っていると、吉野はまた俺の心を読み取って疑問に対しての答えを提示した。

 

「この英語の意味は、[呪い]。観測している世界に漂う呪いの濃度を計測した数値だよ。」

「呪い!?」

 

俺はこの廃亡の都と呼ばれる場所に来る前の友達が呪いを纏った人間に殺される瞬間を思い出してしまって、急に寒気と吐き気がしてきた。

 

俺の狼狽した様子を見て、吉野は座っていた席を立ち俺の方を見ると思わず顔を歪めた。どうやら千里眼で、俺の心を読み取ったらしい。

なぜ俺が狼狽しているのか理由がわかった吉野は、俺を抱きしめて優しい声色で言葉を掛ける。

 

「そうか・・・蛍は、強すぎる呪いの瘴気にやられた人間に仲間がどんどん殺されていくのを間近でみたのか・・・振り返ることも、友人に涙を流すことすらも出来ない極限状態で辛かっただろう。悲しかっただろう。でも大丈夫だ。ここには呪いで暴走する人間はいない。蛍を襲う人間は一人もいないんだよ。だから心の中にある叫びを、涙を、思いっきり吐き出していいんだよ?」

 

俺はそんな優しい言葉に、屈したくはなかった。まだ初めて会って間もない男の胸の中で泣く事など、男として出来ることでは無かった。でも、想像以上に俺は滅入っていたのだろう。俺は吉野の優しい言葉に抗えず、周囲を憚ることなく声を上げて大粒の涙を零して泣いてしまった。


周りの人間は俺がなぜ泣いているのか、理解出来ないだろう。でもそれは俺も同じことだ。会って間もない男で泣くことなど、父親でもない限りないだろう。でもなぜか、吉野の胸は包み込む様な暖かさを感じて、俺は俺を抑えることが出来なかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 俺が泣き終わるまで三十分間、吉野はずっと胸の中で抱きしめてくれた。そのおかげで、吉野のアロハシャツは涙でびしょ濡れだった。

 俺は吉野の胸から顔を上げると、周りにいた碎や瑠依葉をはじめとした観測員全員が俺と同じ様に泣いていた。なぜ泣いているのかと思っていると、観測員が使っているパソコンの画面に俺が体験してきた、逃避行のすべてが映し出されていた。

 

「落ち着いたかな?本当にここまで生き延びてくれてありがとう。僕は本当にうれしいよ。」

 

吉野は他の誰よりも泣いていた。もしかしたら俺よりも泣いていたかもしれない。吉野はもらい泣きしやすいタイプなのかと思っていると、後ろからいきなり碎が飛びついてきた。

 

「お前辛いんだったら早く言えよっ!言ってくれなきゃ気付けないだろうが!」

「しょうがないでしょ。蛍さんだってこんなこと言い出しにくかったでしょうから。」

「・・・それもそうか。でも大丈夫だからな。これからは俺がお前の事を死んでも守ってやっから!」

「あ・・・ありがとう。でもさっき碎達は、こういう出来事は珍しくないって言ってなかったっけ?」

「確かにそんなことも言いましたけど、本人の体験を映像として見るのは初めてでしたから。こんなにも辛い思いをした蛍さんを放っておくことは私にも出来ませんから、全力で蛍さんを支えます。」

「・・・ありがとうございます。」

 

二人から熱い言葉をもらって、萎んで(しぼんで)いた気持ちが徐々に戻り始めた。そんな時に、ふと疑問に思ったことがあった。

 

「そういえばなんで、俺が体験した事を画面で見ることが出来たんだ?」

「それはこの観測システムが、僕の千里眼の力を組み込んで作ったシステムだからだよ。映し出している映像も計測している機械も僕の千里眼の力を組み込んでいるから、ある意味ここにある機械は僕の体の一部みたいなモノなんだよ。だから蛍の心の中の映像をホロディスプレイに映し出すことは容易いことなんだ。」

 

だから、ここにいる全員が俺の過去を追体験できたのか、と納得していると吉野が言葉を続けた。

 

「でも観測するためには、僕の千里眼を使ったシステムにプラスして廃亡の都からそれぞれの世界に繋がっているパスを使わないと観測することが出来ないんだ。で、このパスこそが廃亡の都が世界の観測をすることが出来る所以にもなるんだ。」

「パス?」

「そう、パス。このパスは他の世界と廃亡の都を結ぶ橋の様なモノであって、ある意味生命線でもある。このパスが廃亡の都に繋がっていないと、どんなにシステムを向上させても観測をすることは出来ないんだ。で、ここでさっきの呪いの話が出てくるんだけど・・・話しても大丈夫かな?」

 

吉野は心配そうに俺の顔を見つめてくる。確かにさっきの俺の取り乱した姿を見ていたら、そりゃあ心配もするだろう。でも、俺はさっき散々吉野の胸の中で泣き喚いたおかげ心の中がスッキリしているから、問題はない。あまり胸を張って言えることではないが・・・

だから俺は、吉野に向かって頷いた。

 

「そうか・・・でもキツかったらいつでも言ってくれよ?無理に説明は続けないから。」

 そう言って吉野は、改めてパソコンのキーボードを操作してさっきの数字がたくさん表示されている画面を開いた。

「この廃亡の都には、呪いを吸収して溜め込む性質を持っているんだ。この性質が、他の世界に漂う呪いを引っ張ることになり、引っ張っている呪いによって出来た道がパスと呼ばれる。だからこのパスは、呪いを主成分としているから世界を観測する上でも絶対に計測しなければならない数値になる。もしこの数値が0になった瞬間、この廃亡の都からその世界を観測することは出来なくなる。」

「・・・じゃあ逆に、100に近い数値が出たらどうなるんですか?」

「・・・廃亡の都からその世界を観測することは出来る。でも、その世界で起きていることは想像もしたくない程の惨状。蛍が見てきたモノと同じことが起きていると考えていい。本来はその呪いの数値が50を過ぎた段階で、碎をはじめとした調査員をその世界に派遣して機械で観測することが出来ない部分を調査してもらう。調査員は全員能力持ちだから呪いへの耐性は持っているけど、100に近い数値を出した世界ではそれも無意味となる。1歩でも足を踏み入れた途端、自分を持ってかれる。そして二度と自我が戻ってくることはない。だから100に近い呪いの数値を出した世界を、実際に観た人は誰もいないんだよ。」

「・・・」

 

正直俺は頭が真っ白になっていた。俺が見てきた惨状が他の所でも起こりえるなんて・・・呪いに対抗できる唯一の手段である能力でさえも、濃い呪いの瘴気には耐えることが出来ないなんて・・・


「まぁ、そんな数値を叩き出した世界なんてほとんどないけどね。」

「今までなかったんですか?」

「無くはないけど、叩き出した瞬間にその世界は消滅しちゃうからほとんど情報がないけどね。」

「・・・消滅?」

「・・・うん。呪いが強すぎる世界は、呪いの瘴気によって自己崩壊を始めて最後には塵一つなくなって消えてしまう。そのような世界は、観測してきただけでもかなりな数があるよ。」

 

・・・消滅する?じゃあジィとユウは?・・・・・・まさか死・・・


「それはないと思う。」

 

吉野は俺の心を読んで、俺の恐ろしい疑念をキッパリと否定した。

 

「あのジィさんの事だから、他の世界への抜け道を使って逃れてると思うよ。ジィさんはパスへの理解は僕よりも上だから。もちろんその友達のユウさんも無事だと思うよ。ジィさんと一緒にいる限り。ただ・・・蛍がいた世界はもう消滅していると思う。その時の記録所在書を確認したら、確かにほぼ100に近い数値を出している世界はあった。でもすぐに観測出来なくなったし、その世界がジィさんのいる世界だとは思いもしなかった。早く対応出来なくてすまなかった。」

 

吉野は俺に向かって深々と頭を下げた。

いきなり頭を下げられた俺はどうすればいいかわからず、あわあわしていると見かねた碎が頭を下げた吉野に向かって言葉を掛ける。


「・・・お前が頭を下げてもしょうがないだろ。世界は無数にあるんだから、見分けなんて出来る訳じゃないんだからよ。蛍だってそう思うだろ?」

「・・・うん。吉野さんの言葉を訊いている限り、防ぎようのないことであることは事実みたいだし、ジィがどの世界にいるのかもわからなかったからしょうがないと思う。だから吉野さんが謝ることではないですよ。」

「・・・ありがとう。」

 

吉野は頭を上げて俺と向き合った。俺に向けられている目は、何か救われた様な目をしていた。

 

「・・・?そういえばさっき見せてくれた画面の数値が、50を越してませんでした?」

「あぁ・・・あの世界は最近革命が起きたから、数値が上がっているんだよ。呪いは、人の憎しみや悲しみから発生するモノだから争いが起きれば必然的に数値が上がる。この革命でも多くの死傷者が出たから、呪いの数値は一次85%まで上昇してたんだ。でもそれも9年前のことだから、これでも数値は落ち着いてきている方なんだよ?」

 

歴史で習う中世や近代ヨーロッパの様な出来事が別の世界でも起きていたなんて・・・やはり可能性の世界というだけのことはあるからなのか、ホロディスプレイに映し出されている街並みや風景は何処となくヨーロッパの雰囲気に似ている気がする。

 

「さてと・・・ここまで呪いのデメリット部分を教えてきたけど、ここからはメリットの部分を教えていこうか。」

 

吉野は使っていたパソコンの画面を元に戻し、観測員に返すと吉野は立ち上がった。

 

「蛍のいた世界には車があっただろ?車はガソリンを燃料として動いている訳だけど、それは能力も同じことで、能力は周囲に漂う呪いをエネルギー源として発動させることが出来るんだ。僕がさっき見せた千里眼の能力も同じだよ。」

「呪いがエネルギー?」

「そう。不思議だろ?でも事実、能力を使うことで周囲で観測されている呪いの数値が減少しているから間違えはないんだよ。でだ、ジィさんからもらった手紙には蛍が能力に目覚めている可能性があると書かれているんだが、確かにあの濃度の呪いの中を生きられた訳だから目覚めていることに間違えはないだろうけど・・・なんか心当たりとかないか?」

「・・・・・・特に何も無い・・・」

「まぁだよな・・・あったら心を読み取った時にわかるからなぁ。なんか方法はないかなぁ・・・」

 

吉野が頭をポリポリと掻いて考えていると、訊いていた碎が嬉しそうな顔で提案してきた。

 

「なるほどな。能力持ちでまだ自覚が出来ていないんだったら、もうやることは1つしかないよなぁ! おい蛍!外で俺と戦え。それが一番手っ取りばぇ。」

 

おいっ!なんでだよ! 今日初めて会った人に戦えって言われても無理に決まってるだろ!

そもそもどうやって戦うんだよ! 武器は無いし、年下だし、あ~~っ!色々こんがらがって何が何だかわからなくなってきた。

 

「そうだな。能力持ちの人間と戦えばなにか感じ取れるかもしれないな。碎、戦うんだったらフェールも必要じゃないか?」

 

吉野も碎の意見に、「それだっ!」と言った感じの顔をしていた。

 

「確かに、能力の事ならフェールも必要かも・・・ねぇちゃん。」

「わかったわ。まだどこかにフェールさんがいると思うから探してくるわ。」

 

全員乗り気らしい・・・俺の意見を訊く気はゼロかよ。

 

「あ~、武器の事だけどジィさんのことだから剣道を教わっていただろ?携帯用の刀があるからそれを貸すよ。だから安心して戦っていいよ。」 


気遣ってほしいのはそこじゃねぇんだよ! 

俺の心の叫びは誰にも聞こえないまま、俺は外の庭園に連行されていった。



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