ラクレイド話の世界設定②
Ⅱ 姓名のシステム①
貴族の姓である『……ノ』(レライアーノとかリュクサレイノとか)には
『……という土地の主』あるいは『……という名前の者の子』
という意味合いがあります。
例として、カタリーナさんがわかりやすいのであげましょう。
彼女の正式名は
『カタリーナ・デュ・ラク・リュクサレイノ・ラクレイノ王太后』
です。
事実上ごく短期間女王だったとはいえ、彼女の正式な身分はあくまで『王太后』になります。
この長ったらしい名前のうち、『デュ・ラク・リュクサレイノ』には『リュクサレイノ家当主の正統な血筋の子』という意味があり、お嫁入りしたのが王家(ラクレイノさんち)なので、最後に『ラクレイノ』がつきます。
また、アイオールさんの場合。
正式名は
『アイオール・デュ・ラクレイノ・レライアーノ公爵』
です。王になった彼は
『アイオール・デュ・ラクレイノ王』通称『アイオール王』
になります。
王が『デュ・ラクレイノ』以上なのは言うまでもないことですので、儀式以外では『アイオール王』と呼ばれます。
もちろん、面と向かった場合は『陛下』ですが。
また、あえて返上しない限り、彼が『レライアーノ公爵』であることは打ち消されません。
だから家名と爵位は即位後も保持していますけど、王なので公爵位は有名無実。
彼の領地・フィスタは王領になります。
後に彼の子供が臣籍に降る場合、この家名ごと爵位を与えるのは可能……という感じですね~。
『デュ・ラクレイノ』にはラクレイドの主の子(つまりラクレイド王の子)であることを表し、『レライアーノ』には『レライラの子』『レライラ領の主(彼の母であるレライラは、レーンのレライラ島の名目上の領主であり、彼女の子であるアイオールまではその資格を保持、というのがレーンとラクレイド間の取り決めという設定)』という意味があります。
まあ、外国人の母の名前や外国の形式上の領地を家名にすることには、当時、かなり物議をかもしたようですけど。
彼の兄であるセイイール王が押し切りました。
彼の家名には、ラクレイドの硬直した常識にとらわれない、新しい風になってほしいというセイイール王の願いが込められているのです。
話を戻しましょう。
基本、『デュ』は『当主の血筋の者』を意味し『デュ・ラク』となると『当主の正統な血筋の者(正式な配偶者との子)』を意味します。
相続などでは『デュ・ラク』である者に優先権がありますけど、『デュ』であるからという理由で積極的に虐げられる訳でもありません。
(それとない冷遇は、やはり存在するものの)
貴族階級以上の殿方には、複数の妻を持つことが許されています。
第二夫人や第三夫人、単なる愛人の子であっても、当主が認知した子には相応の権利が発生し、条件が調えば後継者にもなれる……という感じです。
この国には女性の当主もいなくないですが(基本は第一子が相続するのが慣習。ただ、第二子以降に優秀な男子が生まれた場合、譲る場合が多い)やはり少ないですし、愛人を複数侍らす女傑も歴史上、いなくもないようですが『慎みがない』と嫌われます。
さてさて。
正妻の子(というか、当主の正当な血筋の子)は本来尊重されますけど、そもそもが『実力主義』なお国柄。
家にとって、有益な能力を示せる者の方が尊重されます。
故に骨肉の争いも多発しますが、それを乗り越えられてこそ当主、という風潮もこの国にはあります。
それでも近年は太平の世が長く続いているのもあり、『正統な血筋』を有り難がる空気が高まっていました。
……という雰囲気の宮廷で、レーン(南洋の海洋国)出身の母を持つ王子・レライアーノ公爵が台頭!となると。
そりゃあ……宮廷内もガタガタしますよね~(笑)。
Ⅲ 姓名のシステム②
ところで、士族階級の姓が『……ン』(タイスンとかクシュタンとか、コーリンなど)なのは、士族という微妙な?階級が発生した成り立ちに関わってきます。
貴族階級というのは、爵位を持っていてナンボ。
たとえ豊かで有力な貴族の御子息・御令嬢であったにしても、爵位を継がないものは正しく『貴族』ではなくなります。
そういう子供たちのうち、自分の能力をトコトン磨いて社会で生きる者が現れます。
後に、武官や文官、医師や薬師になる者を多く輩出する『家』の発生です。
そういう家の始祖になった『お貴族様の子供』(デュ・ほにゃららノの名を持つ者。貴族でなくなっても本人がデュ・ほにゃららノであることは終生変わらない)。
その人の子供世代以降は貴族としての姓名を名乗れませんが、『ウチの親(御先祖)はお貴族様の血をひくんだぞ~』という名残りは残したい……と考えるのが人情。
そこから自然発生的に生まれた姓が『ほにゃらン』姓。
『ほにゃららノ』という本来の姓を短くし、『ノ(NO)』をより軽くする為に母音の『O』を発音しない形『ほにゃらン(N)』にした家名を持つようになったのです。
『タイスン』さんも『コーリン』さんも、大本をたどれば、貴族かその土地の豪族の血筋……です。
例えば。
武勇で鳴らしたクルサテ(地名。古い時代はタイシェンクルと呼ばれていた)の豪族・タイシェンターノ氏(すでに豪族としては滅亡している模様)の血筋であるタイスンさん、とか。
クリークス(これも地名。古くはコリエス)に古くから住み、御領主様(ウエンレイノ伯爵の祖先)に仕えていた名参謀・コーリエーノ氏(当主は当時の王にスカウトされてコリエスを去り、後に王から子爵に叙されて王都で暮らすようになる。家としては絶えた模様)。
その弟たちの血筋がクリークスに残り、コーリンさんになった……と。
まあ、こんな感じですね~。
士族姓は貴族のように、爵位と一緒に国で管理されている訳ではありませんから、士族姓を持つ親から生まれた子はみな、その姓を名乗れます。
が、『家』として存続できるか否かは当人の力量。
士族姓を持つに相応しい、特殊な技能を必要とする職に就けない場合は、姓を持っていること自体、恥とされるのが社会通念です。
また、聞けばどこの血筋か大体わかる(名のある貴族や有名な豪族の家名の数は、せいぜい二、三十。一般教養として、先祖代々平民だった根っからの庶民でも大体の見当はつく)ので、勝手に家名を捏造して名乗っても駄目、速攻でバレます(笑)。
当然、既存の士族姓を勝手に名乗るのは詐欺罪になります。
士族の家にも当然、古い新しいがあります。
子供に一定以上の教育を与えられ続けなければ長く『家』として続きませんし、平民に没落しやすい身分でもあります。
ですので古くから『士族』であり続ける家は、尊敬の対象になります。
『名乗りの作法』が生まれた経緯もその辺でしょうね。