『やがてキュウ』の世界設定⑤
⑥ 『やがてキュウ』を書いての雑感~あるいはヒーローの下剋上
『書かなければわからない』。
そういう面、物語書きをしているとあります。
と言いますか、ほぼすべてがそうだと言っても過言ではありません。
設定をごちゃらごちゃら組み上げ、切り貼り切り貼りしてその形を整える作業を、私は長くやる方の書き手だとは思いますが。
それでも、その設定を元にキャラを動かして初めてわかることや、この場合の心の動きは不自然だなと気付くのは、『書くこと』でしか判明しなかったりします。
私がよく『台本』と例えている部分も、まずは書き出してみて、見返して、また書き出してみて、見返して……を繰り返す果てに、決まってきます。
大切なエピソードや肝になる台詞も、そこで出てきます。
作者ではなく、キャラクター……私がたとえ話として使っている『役者さん』が、アドリブをかましてくる(笑)ことで初めて出てくるエピソードや台詞も、あります。
そして、そっちの方が『お話の流れから、正解』だったりもします。
一番すさまじいアドリブを経験したのは、ラクレイド話ですね。
別に死ぬ予定のなかったトルニエール・クシュタンさんが、返り血だらけの状態で壮絶に戦死するとか。
敵方の刺客であるアンリさんと、地味で真面目なラクレイドの宰相・フレデリールさんが、実は若い頃恋人同士(BL)で、やけぼっくいに火がついただとか。
かなり……、予想外でした。
だから、スイくんが『おそろしい子』(笑)だったとしても、そう不思議でもないのでしょうが。
物語の根幹に関わるほどの力をアドリブでもたらしたキャラは、彼が初めてかもしれません。
そして。
主人公設定だった筈なのに、怪演につぐ怪演のせいか本来の仕事を忘れ?、ヒーローの座から滑り落ちたヒーローも、彼が初めてです(笑)。
ええ。
見てはいけないものを、私は見たんですよ。
ヒーローの下剋上。
そんなことがこの、場末のささやかな物語屋・かわかみ商店で起こるなんてね。
いまだに信じられません。
……くだらない茶番は茶番として。
いやホント、この話が真ん中辺りに差し掛かる頃くらいから
『あれ? スイがヒーローだと思っていたけど。これって……マドカの方がよっぽど、ヒーローなのでは?』
と思うようになっていましたが。
マドカくんが腹を括り、【eraser】としての自覚を持つようになってくると俄然『大きな声では言えないけれど、ヒーローはマドカくんだよな』と感じるように。
まあでも、彼が作中でお亡くなりになるまでは。
ギリ『ヒーロー』と言えなくない、かも?
と、作者は思っていました。
でも、『エピローグ』で確実に『九条円がヒーロー』だと、はっきりしたと思います。
プロローグで『丘』にいたスイとキョウコさんはいなくなり、エピローグの今、そこにいるのは円くん、のみ。
お話の主は確実に移り変わりました。
この話は、『九条円』が主人公のお話。
バディものというよりは少年の成長譚、というカテゴリーの作品になってしまいました。
なってしまいました、というのは、いささかいい加減な表現かもしれませんが。
元々九条円の『成長譚』要素は考えにありました。でも主眼ではなかったのです。
しかし書きあがった今、九条円という少年の『成長譚』が主眼のお話になっていて……作者としては、やや複雑でもあります。
何故こうなったのか、自分でもよくわかりません。
ただ。
『やがてキュウ』という作品で表現したかった、あるいは表現せざるを得なかったものは、かなり遠慮なく詰め込めたとは思います。
かなり歪で、ストレスフルな物語でしょうが。
作者としてはやはり、可愛い我が子ですね。
ではでは。
この辺で、この章を終わりたいと思います。
最後までお付き合い下さって、どうもありがとうございました。




