第8話 初デート。
SIGN 序章
第8話 初デート。
さてと…
ずっと寝てたから体が鈍ってるな。
「お姉ちゃん!ちょっと散歩にいってくるね!」
「病み上がりなんだから、あんまり無理しないようにね!」
「はぁーい!いってきまーす!」
優は勢い良く玄関を出た。
今日は快晴!
こういう日はやっぱりランニングに限るわ!
「よぉし!
準備運動をしてっ…と!」
優は門前で軽く柔軟をしてから走り始めた。
「とりあえず…商店街のほうは避けていこうかな」
色々とあれだしね。
優は人通りの多い場所を避けて走り始めた。
「はっ…はっ…!」
優は走りながら考えていた。
あの時…自分の体に狐の霊魂が入ってきて…。
私はどうやって倒したんだろう…。
天城君の声が聞こえたような気はするけど…そこからは何も覚えていない。
お姉ちゃんの話だと、力を使い切って倒したっていうけど…。
私にそんな力あったのかなぁ?
とりあえず、もう下手な過信はすべきじゃないなぁ。
私だけならいざ知らず…他の人にまで迷惑をかけちゃうもん…。
あの時、お祖母ちゃんたちが来なかったら…きっと私達は殺されていた。
…。
お祖母ちゃんが帰ってきたら、本当に一から修行しよう。
今まで中途半端な気持ちだったんだ。
「!」
あれは…?
河川敷脇の道を走っていた最中、川原に目をやると素振りをする人がいる。
優は急遽道を変えて川原に下りていった。
やっぱりそうだ!
「天城君ーッ!」
「!…白凪さん…!?」
優の呼びかけにすぐに気づく勇。
凄く驚いた表情をしている。
「はっ…はっ…!こんちわっ!」
「も、もう体は大丈夫なの…?
白凪さん3日も休むんだもん…心配しましたよ」
ほっとしたような表情で微笑む勇。
「ごめんごめん!この度はご心配をおかけしました!
それと、この間はごめんね…。
また君を危険な目に合わせちゃって…反省してる」
「そ、そんな!頭を上げてくださいよ!
僕はなんとも思ってないんですから!」
優はゆっくり頭を上げた。
「それからね…」
「え?」
「ありがとう」
最大級の笑顔だった。
勇はドキッとした。
「…?
どしたぁ?顔赤いぞ?」
「な、ななな…なんでもありません!」
そう言うと、勇は急いで後ろを振り向いてしまった。
「?…変な人ねぇ相変わらず。
でもよかったね…無事にこうやって会話が出来る」
「そう…ですね」
しばらく二人は黙ったまま、風の音に身を任せた。
「天城君…君はここで剣の稽古?」
「はい!何事もそうですが努力は嘘をつきません。
こうやって日々、振り続けるだけでも振りの型が安定しますし、剣速も上がります。
僕は才能が無い分、必死に努力しなきゃなって…」
「偉いなぁ…君は。
私は逆…。霊術とかに関して、私は才能があった…。
飲み込みも早かったし、お祖母ちゃんも驚いてた。
そんなんだから努力をしなかった。
でも、それじゃダメなんだってわかった。
私は才能に甘えて何もしてこなかったタダのお馬鹿だった」
「そんな事はないと思うよ?」
「え?」
「何もしてこなかった…そんな事はないよ。
僕が知るだけでも2人救ったんだもん」
…ありがとう。
「私、これからは真面目に修行しようと思うんだ。
お祖母ちゃんやお姉ちゃんのように強くなりたい。
ちゃんと一人で救えるぐらいの力を手に入れたい…
そして今も何処かで苦しむ人や…霊を…一人でも多くこの手で救いたい。
それが…選ばれた人間の使命だと思う」
昔はこんな能力も、霊の存在も大嫌いだった。
だけど今は違う…!
この力に感謝している。
「僕も…
僕も強くなりたいです…。
いや…なりたいじゃないな…
絶対にあなたを守れるぐらいに強くなります!
だから…一緒に戦わせてください」
天城君…。
「危険な目にあうよ…?
下手をすれば死ぬかもしれないのよ?」
「そうならない男になってみせます!
すぐには無理かもしれないけど…必ず!」
勇の目は本気だった。
なんだか、凄く嬉しかった。
今まで家の中だけの話だった。
それを共有してくれる友達がいてくれる。
家族とはまた違った、この理解者が優にはとても嬉しかった。
「!…や、やだ…私…」
優の目から涙がこぼれた。
それを見せまいとすぐに目をこすってなんでもない振りをする。
「白凪さん?」
「…なんでもないわっ!
じゃあお祖母ちゃんが帰ってきたら、一緒に修行しよっ!」
「はいっ!よぉぉおおぉしッ!
なんかやる気出てきたぞおぉっ!」
「あはは!」
この人といると、なんでこんなに気持ちが安らぐんだろう。
―――
――
PM21:00――
白凪神社・優の部屋―――
「はぁ〜…いい湯だったなぁ…!
お風呂に入ってると、こう生きてるって感じするよねぇッ!」
PiPiPi…
メールの着信音だ。
今日、天城君とメアドと携帯番号の交換をしたのだ!
「早速メール送ってきおったかな?」
6/20(土) 21:02
天城 勇
件/明日よろしければ
―――――――――
こんばんわ(^ω^)
天城です!
もし白凪さんの都合がよろしければ
明日映画にでも行きませんか?
今やってる『Magic Heart』見ませんか?
アクションファンタジーものなんですけど…。
興味ないですかね><。
勇気を振り絞ってお誘いしてみましたです(´・ω・`)
「あやつ…顔文字なんて使っちゃって…。
それにしても…映画の誘いなんて…
こ、これって…デ、デート………なのよね?」
わ、私そんなのしたことないっての…!
あの男…この手馴れた感じ…初めてではなさそうね!
純情ぶって…実は裏で獣の顔を…
(´・ω・`)←こんな顔文字に騙されてたまるものですか!
(´・ω・`)→(`ω')こんな顔なんでしょ!!
―――
――
翌日―――
AM10:00――
聖ヶ丘4丁目・大園公園前
「ま、待った…?」
「う、ううん!今来たとこですっ」
何だかんだで優は映画の誘いを受けたようだ。
オシャレとはほとんど無縁だった優だが、ここぞとばかり姉に頼み込み…
姉の服でコーディネートされてやってきた。
薄い青の花柄ワンピース。
孫にも衣装といった感じか。
「…」
勇はぼーっと優を見つめている。
「な、何よッ!
そんなじっと見ないでってば!
ほら!映画見るんでしょ!急ぐわよ!」
「は、はい!」
もぉ!なんだっていうのよ…!
こちとら4時まで寝れなかったのよ!
おかげで朝方ちょっと寝ちゃって焦ったじゃない!
「あ、白凪さん!こっちですこっち!」
優はあらぬ方向へズカズカ歩いていたようだ。
恥ずかしがりながら勇のもとへ走る。
――――
―――
「いやぁ!面白かったですね!」
「ええ!
私ああいうアクション映画好きだな!
見ててスカっとするしね」
二人は2時間の映画を見終え、映画館をあとにする。
「まだ13時…ですね。
丁度お昼ですけど…白凪さん昼食でも食べて行きますか?」
「そうね…まぁそのくらいは付き合ってあげるとしますか!」
二人はファーストフード店で昼食を済ませ、他愛無い話などで1時間あまりを過ごした。
「ふぅー!さてと…まだ14時回ったくらいね…。
どうする?」
「んー…そうですねぇ。
あ!あそこにカラオケがありますけど、どうです?」
カラオケかぁ…
参ったな…。
実は私はかなりの音痴…
お姉ちゃんはお父さん譲りでめちゃ上手いのに…私はお母さんに似たせいで音痴だよ…。
「白凪さん?
あ、カラオケ苦手だったりします?」
「べ、別にそんなんじゃ…!」
「大丈夫っすよ!自分も超音痴ですから!」
気を使って言ってくれたのか本当なのかよくわからないけど…。
まぁ…この人の前で何かとキャラ作るのもメンドクサイわよね。
いいわ!
私の音痴に勝るかどうか見てあげようじゃないの!
二人はカラオケに向かった。
そこから4時間。
二人は声がカスれるほど歌った。
―――
――
「うー…ノドが痛いわ…」
「自分もです…。
久々に歌ったものだから、かなり痛いっス…」
時間はもう18時を回っていた。
日も暮れはじめている。
「結構時間経ってたのね…
そんなに時間が経ってたなんて…なんか早く感じなかった?」
「ですね!
それじゃあ帰りましょうか!
亜子さん心配してますよ!」
二人は夕暮れ道を並んで帰った。
「今日は色々ありがとう…楽しかったわ」
「いえいえ。
こちらこそです!急な誘いだったのに…ありがとうございました」
「ううん。
私も休みはこれといって予定もないし…。
まぁ今度はもうちょい事前にいってくれるとありがたいわね」
「了解です!」
ザワッ…!
「!」
…冗談はやめてよね…。
もお!
いい気分で今日が終われると思ったのに…。
「どうしたんですか?」
「感じるの…ざわつきを…」
「え!?…サインですか?」
何処?
周りに結構人はいるわね…。
優は辺りを見回す。
!
いた!
あの金髪ギャル!?
禍々しい霊気を感じる…。
間違いなさそうだ。
「お姉ちゃんから聞いたけど、サインが出るのは憑依されてる人間だけじゃないんだってね…」
「ええ。
なんでも他からターゲットにされてる場合でも、自分の感知できる範囲にいれば感じるそうです…」
でも、今この辺りで感じられる不穏な霊気はあのギャルだけ。
まず間違いなくあれね…。
「どうするんですか?」
「…私のポリシーに反するけど、首を突っ込むのはやめておくわ…。
もうあなたを危険な目に逢わす事は出来ない」
「白凪さん…」
この悔しさは自分にぶつけなさい…優…!
「そうだ!お姉さんに…亜子さんに頼むのはどうですか?」
亜子ねぇに!?
確かにお姉ちゃんがいれば問題ないはず。
「わかった!連絡してみる」
―――白凪神社
――
PiPiPi…
「はいはい!今出ますよー!」
ガチャッ!
「はい。こちら白凪神社でございます」
『あ!お姉ちゃん!ちょっと聞いてほしいの!』
優は詳しい事情を話した。
「わかったわ…。
あなたは下手に手を出さないこと!
それは約束しなさい!いいわね!すぐいくから」
そう言うと電話を受話器に戻した。
亜子はエプロンを脱ぎ捨て、準備をはじめた。
第8話 完 NEXT SIGN…