最終話 夏休み編/夏祭り
SIGN 序章
最終話 夏休み編/夏祭り
ピピピ…!
目覚まし時計が鳴り響く。
「うあ…うぅ……」
優は寝ぼけながら時計を止めた。
今日は8月30日…日曜日。
商店街のお祭りの日だ。
夏休み最後のお楽しみと言えるイベントだ。
「ふにゃあ…まだ9時か…」
お祭りは16時スタート。
まだ時間はある。
優は寝ぼけ眼でリビングに向かった。
「おはよぉ…」
「おはよー!今日は遅かったわね!」
亜子が家事をしながら挨拶を返した。
昨日の疲れが出たのかな。
なんかちょっと疲れ気味だ。
「今日は商店街のお祭りでしょ?もちろん行くのよね?」
「うん!夏休みはずっと修行ばっかだったからね。
今日はうんと羽を伸ばすんだぁ!」
多分皆も来ると思うしね!
「あ!そうだ!優ー!これ着てみて!」
亜子が持ってきたのは白地にピンク色の花があしらわれた綺麗な浴衣だ。
「わぁ!すっごい可愛い!どうしたの!?それ!」
「お祖母ちゃんからプレゼントだって。
修行を最後までやりとげたでしょ?そのご褒美だって!」
「ありがとう!お祖母ちゃんにもお礼が言いたいわ!
今何処にいるの?」
「ん…お祖母ちゃんは今駅に行ってると思うわ」
え?
「石動さんと、神楽君ね、朝方奥里に帰るって…その見送りに駅に行ってるの」
「な!?なんで!?夏休み明日まででしょ!?
なんでそんな急に帰るのよ!!」
まだ、お別れもなにもしてないのに…。
「和馬さんがね、恥ずかしそうに言ってたわよ。
優たちの顔見たら帰りづらくなる!ってね。
だから何も言わずに帰るって」
「そんな…勝手な奴!」
今日はお祭りなのに。
「あと、"少しは大きくなれよ"だって。
よくわからないけど身長のことかしら?」
あんの…エロハゲめ!!!
「けっ!…会おうと思えば…また会えるよね?」
「ん…。会えるよ。きっとまた」
それからしばらくしてお祖母ちゃんが帰って来た。
浴衣のお礼を言ってから、早速着てみることに。
「…」
ど、どうなんだろう…。
私なりに…い…いけてるつもりなんだけどな。
優は亜子と茜の前に出て行った。
「どう…かな?」
「わぁ!可愛いじゃない!」
「馬子にも衣装じゃな…なかなかよいのではないかの」
二人の反応も上々だ。
「ほ、ほんとに!?」
「うん!頑張ってね!」
頑張って!?
「な、何を頑張るっていうのよ!」
「ふふ…さぁ何かしら?」
不敵な笑みを浮かべる姉。
なんだか恥ずかしくなって優は家を飛び出した。
「はぁっ…はぁっ…もう!なんなのよ!」
てか、私なんで飛び出してきちゃったんだろう…。
今更戻るのも恥ずかしいしなぁ…。
まだ13時…時間あるなぁ…。
まぁいいや…ぶらぶらしようっと。
ザワ…
「?」
目の前に見慣れない学生服を着た少女が立っている。
長い黒髪が綺麗な少女だ。
「…白凪…優さん?」
「え!?」
ザッ…ザッ…
少女は優に歩み寄ってくる。
「気をつけてね…近いうち……この辺りは戦いの舞台になるかもしれない」
「どういうこと!?」
「私の名は鹿子 流華…また近いうちに会いましょう」
そう言って優の横を通り過ぎていった。
「ちょっと待って…!…ってあれ…?」
いない…?
今の子…一体……。
この辺りが戦いの舞台になるって…どういう意味……?
「あれ?優じゃん」
え?
「あ!須藤先輩!」
前から声をかけてきたのは須藤彰だ。
「?…どうかしたか?」
「い、いえ。なんでもないです。須藤先輩もお祭りですか?」
「あぁ!祭りか!だからそんな恰好してるんだな。
俺は単にブラブラしてただけさ」
「そうなんだ。16時から商店街のお祭りなんですよ。
出店とか、ほら…この河川敷では花火も上がるんですよ。
規模は小さいですけどね」
「そうなんだな。俺生馬の出身で、こっちに来たのは去年からだからさ。
あんましらねぇんだわ」
そうなんだ。
「一緒に行きません?暇だったらですけど」
「な!?なななな…!?」
?
何を慌ててるんだろう?
「お、俺でいいのか…?」
「??…あの…何かものっすごぉーーーっく勘違いしてませんか?」
須藤は顔を赤くして走っていってしまった。
「ちょ!先輩っ…あちゃぁ…行っちゃったよ…」
私何かまずいこと言っちゃったかなぁ…。
優はそのまま辺りをぶらつきながら商店街に向かった。
―――
――
PM3:45――
「あら!?巫女様じゃない!?」
「あ…あはは…」
すぐに商店街のオバチャンにからまれる優。
「今日は可愛い浴衣着ちゃって!見違えちゃったわぁ!」
「い、いえ…そんなことは…」
うう…懐かしいなぁ…このやりとり…。
巫女様なんて呼ばないでよねえ…!
「優…さん?」
「え?」
前方に立っていたのは天城勇だ。
普段着の彼がポカーンとこちらを見ている。
「あ、天城君」
「こ、こんにちわ…白凪さん…なんていうか…その…
すごい似合ってますね…その浴衣」
「そ、そかな?ありがとう勇君…」
「え!?今なんて…」
「な、なんでもないっ!それより天城君もお祭り?」
「え、ええ。もしかしたら皆さんに会えるかと思って…」
勇がそう言った矢先に声が聞こえてきた。
「おーーい!」
「御暑いねぇお二人さん!」
「ケッ!見せ付けてくれますねぇ」
岡島大樹、日下部新二、椎名一のお馴染み三人集だ。
「皆もお祭り?あれ…瀬那先輩と司はいないのね」
「ここに居ますわ!」
「うわっ!」
いつの間に背後に…。
う…この子も浴衣じゃない!
しかも…可愛いじゃないの…。
「ういッス…なんかいつもの面子が集まっちゃった感じですね」
瀬那先輩…夏真っ盛りだし、流石にニット帽はやめたのね…。
でも手ぬぐいって…。
結局この人何か頭にかぶってないと落ち着かないのかしら。
「ほほ!これが人の祭りか…。なかなかと面白そうじゃの!」
って…
「あ、あんたシロ!何してんのよ!」
「?…何がじゃ?たまにはよかろう人の姿で歩くぐらい」
いやいやいや!
「そこじゃない!なんであんた…み、水着でうろついてるのよ!」
「小うるさいガキじゃのう。
そんなに露出が嫌いか?男共はそうでもなさそうじゃがな」
ニヤッと岡島達を見るシロ。
「もう!司!あんたどういう教育してんのよ!」
「優は真面目な女子高生ですものね。仕方ないですわね。この上着を羽織なさいな」
司は持ってきていた上着を渡した。
「いやじゃぁ!あつぃぃ!」
「文句は受け付けませんわ。少しだけでもその恰好できてよかったでしょう?
そんな恰好で歩かれてお巡りさん何か言われたらお祭りが台無しでしょ」
そう思うなら最初から服着せてこいよッ!
「まったく…お!出店も始まった見たいね!」
「ですわね!皆楽しみましょ!」
楽しそうにする優たちをコッソリ覗く者がいた。
「おい」
「ギャッ!」
「ギャッって…お前何コソコソしてるんだよ片桐…」
「す、須藤…!お前こそ…こんな所で何してんだよ!」
「お、俺は別に…た、たまたまだよ!」
「お、俺だってたまたまさ!たまたま通りかかったら祭りがやっててだな…」
「あー!!あれ片桐先輩と須藤先輩じゃない!?」
『!!』
二人はあっさり見つかってしまった。
「先輩達……まさか…そういう関係…?」
「!!ち、ちがっ!!」
「つ、司!おま!何を!?ち、違うわッ!誰がこんな奴と…!」
「焦る姿が余計怪しいんですけど…。
まぁいいですわ。先輩達も一緒に祭りを満喫しましょう」
「そうそう!皆で回ったほうが楽しいぜ!」
「司…岡島…」
瀬那はクイっとクビで"来い"と合図してニヤっと笑った。
「瀬那…………ったく!どいつもこいつも!」
「しゃあねぇな。行くか須藤」
二人は皆に合流した。
焼きそば、焼き鳥…焼きイカや玉せん…わた飴、りんご飴。
色々な食べ物がある。
ゲームも金魚すくいや、射的…水風船や輪投げと定番ぞろいだ。
皆はそれぞれ時間を忘れて楽しんだ。
―――
――
「あー楽しかったね!」
「ですね!それにしても…片桐先輩金魚すくい上手すぎですよね!」
いつの間にか優は勇と二人きりになっていた。
「だね!まさかあんな特技があったとはね!
なんかあの片桐先輩ってとこがギャップあっておかしかったわ!」
「ですね。思わず笑っちゃいましたよ!」
ひゅーー…
ドンッ!
闇夜を照らす、美しい花…花火が上空を照らした。
「あ!ほら花火だよ!もう上げる時間なんだね!」
「河川敷でしたよね?確か!」
「うん!いこっか!」
「ええ」
自然に二人は手をつないで駆け出していた。
―――
――
「はぁ…はぁ…!ふぅ…!皆もう集まってるみたいね」
「ですね!…あ!すみません!」
勇が手を握っていることに気づいてパッと放した。
「あ、ごめん!つい…」
「い、いえいえ…嬉しかったですし」
しばらく二人は目を合わさずに、無言でいた。
花火の音以上に胸の鼓動がやたらと大きく聞こえていた気がした。
「いつの間にか…二人っきりだね」
「ですね」
「天城君…これからも……ずっと」
ドンッ!
「え?今なんて?」
花火の音が丁度優の言葉を遮った。
「ううん!なんでもない」
そう言って最高の笑顔を見せる優。
それを見て赤くなる勇だった。
「あの二人、上手く行ってるのかしら?」
「さ、さぁ…わからないッス」
優と勇を隠れて観察していたのは司と瀬那だった。
「上手くいくといいわね」
「部長は応援してるんッスか…?」
「まぁね。あの子、多分初恋なんじゃないかしら?
天城君はいい子だから…あの子だったら優をちゃんと守ってくれるし
お似合いだと思うわ」
「…お、俺は…部長のことが…」
「え?」
「俺……絶対部長守れるぐらい強くなります…。
そしたら俺と……俺と付き合ってください!」
ドンッ!
突然の告白…。
司は戸惑った表情を見せる。
「…ダメ…ッスかね…」
「ううん。…みのりんだったら…ステキかも」
「え!?それじゃ!」
「だーめ!まだ…あなたは私を守れるほど強くないでしょ?」
「う…そうッスね…」
「でも期待してるからね…頑張ってね!」
「!…はい!」
―――
――
結局その日、天城君とは何事もなくお別れしちゃった。
でも、凄く楽しかったし…すごい胸がドキドキしたし…ま…いっか。
まだ高校生活は始まったばかりだものね!
焦らず…だね。
「はぁー…明日で夏休み最後…か」
優は一人星を眺めながら帰宅した。
―――
――
その頃…。
とある場所で会合は行われていた。
灯りは唯一つ…周りを闇に包まれた薄暗く冷たい部屋だ。
「ようやく…準備は整った…。
君たち7人は選ばれし者たちだ…。
腐った人間共を滅ぼす勇者として選ばれたのだ」
先頭に立つ男が大声で周りの7人を称えた。
「皆、それぞれ独自に動けばいい。
各自思いは違うのだからな…ただ…我々の契り…
絶対の約束事…"人間を滅ぼす"…これだけはくれぐれも忘れぬように」
「もちろんです…我々は境遇こそ違えど…
人を殺したいほど怨んでいる点では皆同じ…。
滅ぼすことにためらいなどありません」
「くく…そうだったな。
さぁ始めようか"SeVeN's DoA"の諸君…
Dead or Alive…生死を問わず…食い殺せ…!
生きた奴らも漂う霊魂も…全てを…全てを滅ぼすんだ…!!
手始めはこの…久木だ…くく……!」
優の知らない所ですでに事は動き始めていた。
これから始まる惨劇…果たして止められるのか…。
それはまさに…
"神のみぞ知る"
次章『SIGN ニ章SeVeN's DoA』へ続く…
最終話 完