第38話 夏休み編/修行17
SIGN 序章
第38話 夏休み編/修行17
岡島先輩と片桐先輩を倒したのは霊気弾だ…。
正面にいた天城君が目視出来なかったようだが…恐らく見えないように工夫した攻撃。
霊気は高い場合、霊視能力の低い者でも見ることが出来る。
だが、さらにそれ以上の力でコントロールすることで見えなくする事も可能…。
今の攻撃、見えてたのは私や司…シロくらいだろうか。
とにかく今の一撃といい、先ほどの拡散的な霊気弾といい…。
まだまだ先の戦いで見せてない手の内はあるみたいね。
今無事でいるのは
私…司に由良葉君、シロに椎名一に日下部先輩の6人か。
一と日下部先輩じゃ、そう長い時間戦えないだろうな…。
ここは…
「シロ…お願いよ、まだ戦うだけの力は溜め込めていない…。
時間稼ぎをお願い!」
「時間稼ぎ…?なにを言うておる…わらわは"あれ"と遊ぶつもりじゃ…。
まぁ見ておれ」
そう言って軽いステップで前に出るシロ。
人間の姿は成人女性…。
特に筋肉質でもなく、本当に一般的な体系だ。
「いくぞ…人形」
「ふむ…精霊に近い霊気…これは油断できぬかの」
シロは正面から傀儡ちゃんに向かって駆け出した。
「は、速いッ!」
一瞬にして間合いを詰める。
これには茜も一瞬驚いたようだ。
「ハッ!」
シロの上段蹴りが放たれた。
バシッ!と軽い音が響いた。
だが、実際問題この戦いは肉体の勝負ではない。
人形の霊力を全て消耗させればそれで終わり…。
ゆえに物理的な攻撃力はなんら意味はなさないのだ。
「なかなかやる…今の一撃の霊力消耗…。
そう易々と喰らい続けるわけにはいかんようじゃ」
当然といえば当然だ。
以前霊気を計測したとき、シロの霊気値は5120。
それに対して茜の霊気値は2230…。
この差は大きい。
それゆえ攻撃を受ける際にもしっかりと-の霊気でガードしなければ、
勝負の行方はシロに傾くだろう。
「思ったよりやりおるわ。
あの一瞬であそこまでガードされるとはの。
ではこれでどうじゃ?」
「む!?」
シロはサッカーボール大の水弾を生み出した。
「水蓮華」
生み出された水弾は傀儡ちゃん目掛けて放たれた!
かなりのスピードで飛んでいく。
「性質がわからん以上うかつに迎撃せんほうがよいのう…。
ここは回避じゃ!」
速いとはいえ、軌道は直線。
傀儡ちゃんは余裕で回避をした。
「咲き誇れ…水蓮華」
水弾が傀儡ちゃんを横切る寸ででシロがそう言った。
その瞬間水弾が弾け、横に立つ傀儡ちゃんに水が降りかかった!
「なんと…!」
傍目には水が掛かった程度にしか映らないが、実の所…細かい霊撃が降り注いだわけだ。
直撃は無かったものの、完全回避にも程遠い5割の被弾!
流石にこの瞬間では一点集中の霊気強化のガードは間に合わなかった。
それゆえ今の一撃は大きなものとなった。
「くく………ぬ!?何事じゃ!?」
急にシロがわめき出した。
その瞬間だった。
ボンッ!
「へ…?」
なんと人の形から再びフワモコアザラシのぬいぐるみの姿に戻ってしまった。
「どうやら今の一撃で力を使い果たしたようじゃな」
「ば、馬鹿な!あんな稚拙な技の一つ程度で底をつくようなわらわではない!
な、なんでなのじゃ!」
よくはわからないが、これで強大な戦力が一つ消えたわけだ。
「俺達が行く番だな。一」
「ちぇ…やられ役は辛いぜ」
「新二君…一…ごめんね」
「謝らないで下さいよ部長!俺等に今出来る精一杯をやるだけだからさ」
「ぜーったい!いつか…やっつける側に回ってやるぜ…!」
一はメガネを外して傀儡ちゃんの前に立った。
新二はそれを後ろで見ている。
どうやら一人ずつやりあうつもりのようだ。
「…君には前回一発食らわされて何もやり返せてない」
「…」
「だから。今日は一発入れてやる…!」
「椎名君か…まぁ意気込みは合格じゃな」
一はダッと駆け出した。
正面からではない。
傀儡ちゃんを中心に円を描くように回りだした。
「翻弄するつもりかの?無駄じゃ」
ビュッ!
一瞬にして一の前方に立ちふさがる傀儡ちゃん!
「…うわっ!」
ドガッ!!
渾身の一打が傀儡ちゃんに与えられた。
正面の一の一撃ではない。
「ッ!…効いた?」
一が隙を作り、そこに新二が打ち込む作戦だったようだ。
この作戦、実力が伴っていれば有効だったであろう。
「…」
ガードする必要も無いほどの低威力…残念ながらダメージは与えれなかった。
ドガッ!!
強烈な回し蹴りが新二の胸に食い込んだ。
もちろん霊撃!
一撃のもとに沈む新二。
「うあああッ!!」
ドカッ!
一の拳打が傀儡ちゃんの腹部に当たった。
だが、やはりこれもダメージはなかった。
ビュッ!!
すかさずカウンターが一を襲った。
近距離からの蹴り…しかも水月にそれはヒットした。
「が…ハッ……」
霊撃でなくても悶絶モノの一打だ。
一はおなかを抱えたまま崩れ落ちた。
「へ……へへ…一発くれてやった…へへ」
「なんと…あの一瞬で性質変化、霊気を腹部に集中させる操作を行ったというのか!?
これは意外な才能をもっておるの!」
一は今の一打に耐えた。
が、一瞬にして希望は潰える。
頭部狙いの蹴りが放たれたのだ。
もちろん悶絶する一にかわすことなど不可能。
何も出来ぬまま崩れ落ちた。
「皆…ありがとう」
「皆がくれた時間のおかげで準備できたわ」
「やっちゃうもんね!」
司、優、由良葉の3人の準備がようやく整ったようだ。
3人が準備をしていたのは"霊気の充填"。
霊気は一瞬で一気に噴出し高めることも出来る。
実際いつも最大の霊気値をはじき出す場合、この方法をとっていた。
だが、それ以上に霊気の底上げが出来…かつ、最大級の霊気を連続して扱える方法がある。
それが霊気の充填だ。
強力な霊撃…全身に湧き出す最大限の霊気を霊力でもって放つ。
この時消耗するのは霊力だけではない。
霊気にも乱れは出る。
特に強力な一撃であればあるほど、その乱れは大きい。
先の戦いでも優が最大級の狐火を放ったあと、霊力に余力があるにも関わらず連射できなかった。
これは霊気が乱れていたためである。
この乱れを回避するために有効なのが霊気の充填だ。
外側に霊気を強めるイメージではなく、内側に溜め込むイメージでそれを行う。
肉体強化と似た要領であるため、難易度は高めだ。
それなりの霊気の操作技術が必要な方法。
優と司は、それをこの2週間で見事に会得したのだ。
これにより、あらかじめ霊気を練っておけば、
最大限の攻撃直後…再び体内の霊気を爆発させ乱れた霊気を上回る霊気で元の状態に戻せる。
こうなれば、すぐにまた最大限の攻撃が放てるというわけだ。
だが、霊気の充填にはメリットだけではなくデメリットも、もちろん存在する。
まず第一に霊気を充填するのに時間が掛かる。
これは実戦において、致命的だ。
そして第二に充填した霊気もを使い切ったあと、
霊気が乱れるどころか、体外に放出することも困難なほどになる。
こうなってしまえば、攻撃も防御も出来ない。
"無力化"してしまうのだ。
それゆえ熟練者ほど、この高リスクな霊気の充填はしないものである。
熟練者にもなれば霊気使用後の乱れを少なくし、また立ち直りの時間も速い。
それゆえ充填など滅多には使用しないのだ。
だが今の優たちは熟練者ではない。
それゆえ、今はこれが最善の一手。
「ほっほ!三人とも準備はよいようじゃな。
じゃが私もそう易々とは負けてやれぬぞ!」
傀儡ちゃんのほうから3人に突進してきた!
「由良葉君、行くわよ!」
「OK優ねぇちゃん!」
由良葉と優が手を重ねて傀儡ちゃんの方に向けた。
「む…?何かするつもりか…?」
『双炎玉!!』
二人がそう言うと、勢い良く巨大な炎弾が噴出した。
白い炎と紫の炎が絡み合い、美しい光を放っている。
「なんと!!」
ドッガーーーーーン!!
炎弾は突っ込んできた傀儡ちゃんに直撃した。
「よしっ!当ったわ!」
「優!まだよ!あの程度で倒せたら苦労しないわ!」
二人を置いて、司は駆け出した。
自慢の鞭を振り回しながら土煙の中に姿を消した。
バキッ!バシッ!!
土煙で見えないが、司の鞭の音が響いている。
ザザッ!
司が後退して来た。
「ふぅ……
やっぱまだまだ元気みたいね…何発かもらっちゃった」
「もらっちゃったって…あんた大丈夫なの!?」
「平気…とは言えないけど、ちゃんと-の霊気でガードしたからなんとか…。
霊気の充填をしてなかったら多分耐えれなかったかも…」
「でも、あの一撃を受けてもまだ全然平気だっての?
一生懸命編み出した必殺技だったのに…」
「それよりも…あの土煙の中で攻撃してくるんだもの…!
お祖母様との距離はあんなに離れてるのに…凄いわ」
やっぱ一筋縄じゃいかない…か!
「ふむ…狐火を球体状に練りだし、高速で放つか…。
よくぞそこまで成長したものじゃ。
司ちゃんも+と-を上手く切り替えて戦っておった。
皆それぞれに成長しておるが…やはり素質か…この二人は群を抜いてセンスがある。
由良葉はどうかな…?」
「ふにににににぃぃいいい!!!」
由良葉は全力の狐火を両手に纏っていた。
「今もてる最大の攻撃力!!オイラも本気で行っちゃうからね!!」
土煙が消えかかったと同時に由良葉が飛び出した。
「あれはあなたが教えてた技?」
「技って程のものじゃないわ。単に狐火を両手に纏って攻撃するだけだもの。
でもあれはこないだの由良葉君の炎弾とは比べ物ならない威力のはずよ!
私も行くわ!司…サポートよろしくね!」
二人も由良葉に続いて駆け出した!
第38話 完 NEXT SIGN…