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SIGN 序章  作者: WhiteEight
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第37話 夏休み編/修行16

SIGN 序章


第37話 夏休み編/修行16



8月29日(土)―――


傀儡ちゃんと初めて戦って2週間が経った。

先週はあえて挑むのを止め、今日という日に合わせて修行を続けてきた。


その結果…


私達は強くなった。


少なくとも2週間前とは違う。



午後2時―――

場所は朝霞山頂上。


天気は晴天…蝉の声が耳につく。



「修行の締めにはもってこいのラストバトルね」


「どれだけ強くなったのかワクワクしますわね」



皆それぞれ思いは違えど、気持ちは高揚していた。



「ふふ…皆本当に、今日までよくついてきた…。

 皆よい表情になったのぅ…」




「今回はわらわも"この形"で参加させてもらおうぞ」



シロは司の呪印レベルを弱める事で、人の姿に化けるまでの力を取り戻していた。

今回はフワモコあざらしの姿ではなく人間の姿で参加するということだ。



「もはやここに来て、細かい事を言うまでもないの。

 全てはこの一戦が示してくれるはずじゃ」


「ええ。お願いします!」



優たちは各々の立ち位置で構えた。


すでに辺りを緊張感が包んでいた。



「よかろう…ハッ!!」


茜は傀儡人形…傀儡ちゃん壱号に霊力を注入した。



「では始めようか…何処からでも掛かってくるがよい!」



そう茜が言った瞬間駆け出したのは須藤彰と片桐亮だ。



「ふむ…なるほどの」



傀儡ちゃんはその場で構えた。

明らかなカウンター狙いだ。


痛みも恐怖も感じない人形。

ゆえに相当の攻撃でない以上は一発を凌いでからすぐにでもカウンターが放てる。



須藤彰の霊力では一撃でも当ててしまえばそれで終い。

そうふんでのカウンター狙いだ。



「はぁッ!」


須藤の長身からの跳び蹴りが傀儡ちゃんの腹部を狙う。



ドガッ!

直でそれを受け止める傀儡ちゃん。


両手でしっかり脚を捕まえている。



「フンッ!!」


なんとその態勢から、空いた左足で頭部を蹴り飛ばした。


この一撃で傀儡ちゃんはグラついた。

右足を掴んでいた両手も緩み、その場から脱出する須藤。



そして態勢を崩しているその一瞬を見逃さず、今度は片桐が追い討ちの蹴りを放つ。


これはガードも間に合わなかったようで、少し吹き飛び、しりもちをついた。



「今だ!」


須藤の呼び声で勇が木刀を振りかざして飛び掛った。



「全身全霊の一撃ですッ!!はぁッ!!」



木刀を纏う霊気が激しく光を放っている。

小手先の一打で手数を増やすのは、やはりこの短期間では無理だった。


そこで覚えたのが全霊力を木刀に伝わせ、それで攻撃するものだ。

強大な霊撃力を持つ勇だけに、この全霊力を込めた一打の破壊力は相当のものだ。



ドガッ!!!


地に這う傀儡ちゃんに容赦のない一振りが放たれる!

避けることも、ガードすることもなく、その顔面に見事にヒットした。




「ふむ…危なかったの」



茜の咄嗟の霊気操作で、今の一打は防がれてしまったようだ。


何処を狙っているのか解ってしまえば、そこに霊気を集中し、性質を−に変えてしまえばいいだけのこと。

霊術戦はいかにわからぬように打ち合うか…。


とはいえ、こうも早く霊気の操作、及び性質の瞬間的変換は茜ほどの熟練者にならなければ難しい所ではある。

並みの者であれば、今の一撃は防御も間に合わなかったであろう。


しかし今の一撃、想像以上の威力だったのか、防御を貫き、確実なダメージを与えていたようだ。



「勇!もう下がってるんだ!」



須藤の指示の元、勇は下がった。



「さぁ…来いよ!…終わりじゃねぇんだろ!?」


「…」



傀儡ちゃんは黙って立ち上がった。



「ふむ…全力で行くぞよ」



ダッ!

傀儡ちゃんが須藤目掛けて駆け出した。


意識は奪っていない…が、相当な速さだ。

肉体強化的な方法なのか、とにかく尋常ではない動きだ。



「うおッ!」


一瞬にして間合いに入る傀儡ちゃん。

同時に跳び膝蹴りが須藤の腹部を狙う!



ドガッ!


「く…ッ!ぅう!」


須藤は一瞬早く膝蹴りを両手で掴むようにガードした。

だが勢いに負け吹き飛んだ。



「なんと!…やるのう」


「はぁ…はぁ………し、凌げた…」



今の跳び膝蹴り…もちろん+の霊気が篭った紛れも無い霊撃。

だがそれを須藤は−の霊気を両手に纏って防いだのだ。



「俺も片桐も…そして瀬那もなぁ…。

 この−の霊気を操作する修行に重点を置いてやってきたんだ!

 お前に勝つためだけに、攻撃は捨てた!」



「なるほどの…元より肉弾戦において、強みのある三人じゃ…。

 あえて攻撃を捨てることで、ダメージは与えれなくとも、接近戦で動きを封じることに専念するわけか。

 −の霊気を常に纏っておれば、少々の攻撃も防げる道理。

 考えたのぅ」



「はぁ…はぁ……

(んだぁ…!?まだ全然動いてないのに息切れ…?

 というか若干眩暈がする…だと!?)」



須藤は自身に起こった異常事態に戸惑っていた。



「ふふふ。一撃防いだのは賞賛に値する…が、甘いのう。

 私の霊気はそんな弱いものではない。

 防ぎはしたが、元より少ない霊力じゃ…くく、もう一押しすればそれで終わりだ」



「須藤ッ!下がってろ!あとは俺がやる!」


「俺達がっ!だろ!片桐ッ」



片桐と瀬那が飛び出した。



間合いに入られる前に傀儡ちゃんは回し蹴りを放つ。

それをしゃがんでかわす瀬那。


「ッラァッ!!」


瀬那は懐に入ると同時に近距離から右拳を腹部目掛けて放った。



ドスッ!!



「ほう…!

 今の一撃…霊撃かッ!」


「俺の長所は運動神経、動体視力ともにいいことだ。

 ようはあたらなきゃいいんだろ!?かわせばいいんだ!」



確かに瀬那稔は身のこなしに関しては群を抜いている。



「ほっほ!その自信…是非ともへし折ってみたくなったのう!ほい!」



「!!」


瀬那の攻撃をものともせず、カウンターの右フックが放たれる。

だがそれを紙一重でかわす瀬那。


さらに蹴りや拳の乱舞が飛び交うものの、全て紙一重でかわす瀬那。



「ほう…口だけじゃないようじゃな」


「はっ!なめんじゃないっての!」



かわすだけじゃなく、今度は攻めに転じる瀬那。

だが、瀬那の攻撃は軽くあしらわれる。


長所である身軽さは、その小さい体に起因する。

だがそれが逆に短所の力の無さを生むことにもなる。


ちなみに霊撃力のほうも威力はさほどでもないようだ。



だが瀬那のこの時間稼ぎは後につなぐのに必要不可欠だった。


今こうして戦っているのは瀬那たちだけではない。

優や由良葉は霊気を高めていた。


強力な一撃を放つためには、現状の力量では瞬時に引き出せない。

それゆえ、その力を蓄えるための時間がどうしても必要なのだ。



「ふむ…やりおるのう瀬那君。

 仕方ない。少々汚いかもしれんが、ここで眠ってもらおう」



傀儡ちゃんは大きく後ろに跳んで、瀬那との距離をとった。

と同時に両手を前に突き出して構えた。


「!」


瀬那はそれを見るや否や、すぐに追うのをやめ左に跳んだ。



「前回の戦いをしっかり学んでおるようじゃな。

 だがこんな霊気弾もあるのじゃ」



傀儡ちゃんは突き出した両手を左右に勢い良く振った。


すると、傀儡ちゃんから180度前方に細かい霊気弾が飛ばされたのだ。



「皆!!しゃがんで!!」



後ろに控えていた優は技を見るなりすぐに掛け声をかける。


この攻撃タイミングよくジャンプしてよけるよりもしゃがんでやり過ごすのがベスト!

しかし、この攻撃に間に合わなかった者がいた。


前方で戦っていた、須藤、瀬那、片桐の三名だ。



「ぐわぁあっ!!」



「ふふ」



3名はそのまま地面に倒れ込んだ。

他の者はなんとかやり過ごしたようだ。



「く…く……ッ」


「片桐君だけかな。喰らってなお立つのは」



須藤も片桐も霊気の性質は−で高めていた。

それゆえダメージの軽減は出来た。


しかし、須藤は先の一撃でほとんどの霊力を消耗していたため、今の一撃でついに0になってしまったうようだ。

瀬那に関しては、常に+の霊気を纏っていたため、モロに一撃を受けたことになる。


そのため一撃のもとにダウンしたというわけだ。



「…」


「くそったれ!」



弱っている所へすかさずやってくる傀儡ちゃん。


フラフラになりながらも、なんとか立ち上がった片桐は最後の力といわんばかりに蹴りを放った。


しかし、そんな状態の蹴りが当る訳も無く、あっさりかわされた。


同時に攻撃に入ろうとする傀儡ちゃんに"何か"が跳んできた。



「どっせぃッ!!!大丈夫か!片桐」



跳んできたのは岡島大樹だった。

その巨体を生かしたタックルは霊撃ではないにしろ、吹き飛ばすのには有効だった。



「岡島ッナイスだ!」


「立てるか?早いとこ引くぜ!」



「だが、まだ時間稼ぎが必要だろう!?」


「あいつがやるって言ってるんだ」



後ろを振り返ると勇が木刀を構えていた。



「もう霊力は残ってません…ですが、この身が動く以上やってみます。

 片桐先輩は態勢を整えてください。その時間を稼ぎます」


「…。わかった!だが無理をするなよ!」



そういって大樹と一緒に下がる片桐。



「さぁ来い!僕が相手だッ!」


「…」



傀儡人形は立ち上がると、小振りに手を振った。



「?」


ドサッ!!



勇の背後で何か音がした。

振り返る勇。



「な…!?片桐先輩!?岡島先輩!?」



なんと岡島、片桐の両名が肩を組んだまま倒れ込んで動かない。



「天城君!!後ろッ!!」


「へ!?」



優の掛け声に振り返る勇だったが、時すでに遅し。

すでに傀儡ちゃんの両拳は振り下ろされていた。


ドガッ!!


頭上から振り下ろされた両拳に沈黙する勇。



「ふふふ…さぁ…どうする?」



第37話 完   NEXT SIGN…

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