第26話 夏休み編/修行5
SIGN 序章
第26話 夏休み編/修行5
「…」
現在午後11時45分…。
優はベッドに入ってから30分ほど経っていたが、未だに眠れずにいた。
はぁ…疲れてるから寝たいってのに…。
環境が変わるとダメなのかな私…。
「スー…スー……」
ベッドの隣で心地よい寝息を立てながらぐっすり寝てるのは夕見司。
じゃんけんで負けた結果、ベッドの隣に布団を敷いてそちらで寝ているのだ。
「はぁ…そっちのがどう見ても快適じゃなさそうなのに…
この子って何処でも寝れちゃうのかしら」
「あ……う…ん……」
寝返りをうつ司。
暑いのかTシャツを自分でめくっている。
「こらこらっ!お腹見えてるっての…」
優はTシャツを整えてタオルケットをかけてあげた。
ちなみにあの後…
天城君は素振り&筋トレ。
この子とミス研メンバーは宿題…。
かくいう私も宿題を少し片付けていた。
片桐亮は昼寝しちゃうし、あの人たち…石動和馬と神楽由良葉は二人でどっかいっちゃうし。
で午後7時頃みんなでわいわい夕食を食べて…
雑談しながら9時には皆で近くの銭湯へ行ってきた。
んで10時ちょい過ぎに帰宅して、各自解散となった。
男子は御堂、女子&シロは私の部屋という事になって今に至る。
「明日は朝6時起床…かぁ。早く寝なきゃ…」
私が寝れないでいるのには、やはり心に引っかかってる部分があるからなんだろう。
奥里へ出かけ…大幅に遅れて帰って来た祖母・茜。
霊気は弱まり、霊力も以前の7割近く減少……
それだけを犠牲にしなければならなかった出来事があったんだろう…。
今はきっとその話を聞くときではないのかもしれないが、やはり気になってしまうのも事実…。
「折を見て…聞いてみよう…」
優はそのまま深い眠りへといざなわれていった。
―――
――
ジリリリリ!!
「ふぎゃあ!?」
けたたましい目覚まし時計の音に驚き飛び起きる優。
カチッ!
急いでそれを止めた。
「…はぁなんてうっさい目覚ましよ…」
ふにっ!
「ひっ!?何!?」
優は何か柔らかい物を踏みつけたようだ。
見るとシロを踏みつけてしまっている。
「く……わらわを踏むとは…いい度胸じゃ……小娘…」
「あ、はは…ははは…ごめん」
「許さぬぅ!」
シロが優の顔面に向かって飛びついてきたが、
条件反射で優の鉄拳がカウンターとしてシロの顔面に入ってしまった。
「ぎゃむっ!!」
「ご、ごめん…つい…」
「もぉ…何事よ……朝から騒がしい…」
司が起き出した。
この騒ぎでようやく目を覚ましたようだ。
「おはよう司…ごめん。あなたのシロを踏んじゃって…はは…」
「シロちゃん…あなたフワモコなんだから踏まれたぐらいどうってことないでしょ?
しばらく居候の身なんだからやかましくしてはダメよ!」
「ふ、ふざけるでない!いくらフワモコであろうとも、踏まれるのは嫌じゃっ!
司!お前も仮にもわらわの主人であれば怒ってしかるべき場面じゃぞ!」
「るさいわねぇ…!おだまりッ!!」
司は足元でぎゃんぎゃん言うシロを思い切り蹴り飛ばした。
「…ど、動物虐待…なのじゃ…」
「ちょっと司!やりすぎじゃない!シロが可哀想でしょ!」
「ふん!丁度よくってよ!
この子を甘やかしても何もいい事はないからね…時には体でわかってもらわなくちゃ…ね?」
寝起きは機嫌が悪いようね…。
「ま、まぁ…とりあえず早く準備して台所へ行きましょう!
ほらもう6時まわってるし」
私達は朝食の準備担当。
お姉ちゃんが普段やってる仕事のお手伝いだ。
さすがに人数が多いので準備も大変というわけだ。
ちなみに男子達は…
―――
――
「おらッ!てめぇらいつまで寝てんだ!?ガキども起きろッ!!」
和馬の怒号が朝っぱら御堂に響いている。
「も、もう6時か……眠いな…」
「てめぇらなぁッ!勇を見てみろ!ちゃんと起きてとっくに掃除にかかってんぞ!
お前ら一応2年で先輩なんだろ!?しめしがつかねぇだろが!」
「い、いえ…自分いつも朝は早いので…」
「ったく…ダメな先輩共をもっておめぇも大変だな。
とりあえず、ここの掃除を条件にここで寝泊りさせてもらってんだ。
そこら辺はちゃんとやっぞ」
和馬を見て、
『意外に真面目なんだ…』と思う男子一同だった。
―――
――
厨房―――
「あら、二人ともおはよう!司ちゃんよく寝れた?」
「おはようございます亜子さん!
ええ!快適に寝かさせて頂きましたわ」
「…私はちょっと寝不足」
「よかったわ。でも優はなんで寝不足なのよ。
おかしな子ね」
悪かったわね!
どうせ神経質ですよ!っだ!
「朝食はご飯とお味噌汁…それに玉子焼きに肉じゃが…ですね!」
「ピンポーン!司ちゃん正解!下準備を見ただけでわかっちゃうんだね!
もしかしていつもお料理とかしてるの?」
「はい。母の帰りが遅いときとかは私が食事作ってるので…腕に自信はないですけどね!」
「誰かさんにも見習ってほしいものだわね」
優をちらっと見る亜子。
「へぃへぃ…そのうち覚えますよーっだ!ふん!
じゃあ私玉子焼き作るわ!」
「失敗しないでくださいよ?優…」
「あ、あんた…その物凄い不安そうな目やめてよね!
一応これでも女の子なんだから!なめないでよ!」
―――
――
AM7:20…
皆がリビングに集まった。
「んーー!味噌汁のいい匂いがしますね!」
「おう!朝から掃除頑張ったからな!きっと朝飯は美味いぞ!な!お前ら!」
2年生4人組はどうにも慣れない早起きと朝仕事でまだ目が覚めていないようだ。
「和馬兄…聞こえてないっぽいよ……」
「けっ!だらしねぇ!最近のガキは軟弱モンだぜ!ったくよ!」
「みんなお待たせーーッ!朝ご飯だよっ!」
『おーーーっ!』
眠っていた四人もご飯を前にようやく目覚めたようだ。
亜子の持ってきたご飯に肉じゃが…とても美味しそうである。
とにかくいい匂いが食欲をそそる。
「味噌汁もあるからいっぱい食べてね。
私の味付けだけど…多分美味しいですわ」
『おーーーッ!』
「司ちゃんの手作り味噌汁…んーーっ!感激だ!
エプロン姿がかわえぇのぅ…」
「そうッスね…部長…」
瀬那と和馬は司の味噌汁よりも司自身に釘付けになっているようだった。
「おい…こいつら大丈夫か…?」
「片桐さん…多分大丈夫ですよ…はは…」
他の面子も二人の様子にはあっけにとられているようだ。
「みんなお待たせッ!優様特製玉子焼きよっ!」
『おーーーーーーッ!!おーーーー…!?』
テンションが"それ"を見る前と見た後で明らかに違った。
「な、何よ…」
「それ…玉子焼き……?なんか少し黒い気が…」
う…!
痛いところつくわね!
「ちょ、ちょっと焦げちゃっただけ!大丈夫!味は美味しいから!」
見た感じはどうにも美味しそうではない玉子焼きだ。
「優さんの手作りなんて感激だなぁ!」
天城勇だけはやたらと喜んでいた。
フォローというより、持ち前の天然っぷりの素の反応である。
「ま、見かけはともかく味がよければそれでよしだな…とりあえず喰おうぜ!」
「皆、起きておるようじゃな」
茜がやってきた。
『おはようございます!』
「うむ。おはよう。
ほう!美味しそうじゃな…って…なんじゃこの黒いのは」
う…ううう…。
「ふんっだ!!今に見てなさい!絶対に見た目もすばらしいもの作ってやるんだからねっ!」
「優が作ったのか…すまんすまん…。
とりあえず食べるかの!それでは頂きます!」
『頂きます!』
パクッ!
「んーーっ!お姉ちゃんの肉じゃが美味しい!」
流石といわざるを得ないわね…。
司の味噌汁は…。
ズズ…。
「!………く、悔しいけど美味しいじゃないの!」
「ふふん…あなたとは違うのよ!ほほ!」
く、なんて奴め!あの見下した顔っ!
いつか絶対見返してやるっ!
「わ、私の玉子焼き食べてみなさいよッ!」
「いいですわ…そこまで言うなら食べて差し上げるわッ!
この玉子焼き崩れをね!」
「く、崩れって言うな!立派な玉子焼きだもん!」
パクッ!
司が最初の一口を食べた。
皆も、恐ろしくて手をつけていなかったので司の反応を気にしているようである。
「…」
「な、なんとか言いなさいよッ!」
ま、不味いのかしら…。
「美味しい!優さんこれめっちゃ美味しいですよ!」
え!?
あらぬ方向から賛辞の声が。
天城君お世辞にもそういってくれるアンタが今じゃ仏に見えるわ。
「…確かに見た目に反して味は美味しいですわね…」
ええ!?
この子がお世辞なんか言うわけないから…つまり…。
「ほんとに…?」
「うむ…。見た目はあれじゃが美味いぞ優」
やった!
ほらみたことかっ!
「っしゃあ!どうじゃあ!」
「ま、でも見た目を差し引けば及第点はあげれないですわよね?お姉さま」
「だね。これを料理として認めるわけにはいかなくってよ!」
『料理をなめないでっ!』
亜子と司がハモって反撃してきた。
「うう…!」
絶対この二人ギャフンと言わせるんだからッ!
そんなこんなで楽しい朝食会は終わった。
―――
――
AM8:35
「さて…午前中は筋力トレーニングと走り込みじゃ。
腹筋・背筋・腕立て伏せ…各自回数は特に設けてはおらん。
自身の今の限界を知る…その上で努力を重ねてもらう。
人は自分に甘いものでな…無意識にも手を抜いてしまうものじゃ。
だから"ダメだ"と思ったらそこから+5回をすれば丁度いいじゃろう」
「確か12時までに戻ってくるって感じだったよな?」
「うむ。走り込みを含め、その時間は厳守しておくれな」
岡島先輩、日下部先輩…大丈夫だろうか。
苦手分野に見えるけど。
「ん?白凪さん、そんな心配そうな顔せんでくれ。
俺達も覚悟の上で参加してるんだ。遅れた時は置いていってくれればいいから」
「うん!ご想像の通り、俺も大樹も運動にかんしちゃてんでダメだからさ。
皆は気にしないでいいからね」
「そっか…うん。ごめんなさい」
だよね。
先輩に失礼だった。
皆筋トレを始めた。
各々自分のペースで、真剣に取り組んでいた。
"負けていられない"
そう思う優だった。
「皆…頑張るんじゃぞ…」
それをそっと見つめる茜の姿があった。
―――
――
「はぁ…はぁ…」
皆筋トレだけでも結構息が上がっている。
まぁ回数が設定されていない分、余力はなくなるのは当然といえば当然…。
「っし…走りにいってくる…」
岡島大樹と日下部新二は一足先に筋トレを終え、走り込みに行ったようだ。
ちなみにコースは事前に地図を渡してある。
「あいつら…1年の時いじめられてたんだ…」
腕立てふせをしながら稔が語りだした。
「でもな、あいつらそこから目をそらしたり、逃げ出したりしなかった。
真正面からぶつかっていく根性があった…。
だから大丈夫だよ…乗り越えていけるさ」
お互いに信頼してるんだな。
「そうですね…うん。きっと大丈夫!」
第26話 完 NEXT SIGN…